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遺跡侵入作戦(12)

 俺と巫女(みこ)ちゃんは、様々な苦難を乗り越え、やっとこさアマテラスの祭壇のある地底湖の底に辿り着いた。


「わぁ、勇者様、あちこちが光っていて綺麗ですわねぇ」

 巫女ちゃんが言った通り、地底の水溜りの更に底というのにも関わらず、辺りは明るかった。少し碧みのある光が、水に屈折して辺りを照らしているようだった。


 水底の大きな泡の中、その中央に石作りの祭壇が見て取れた。今までのものよりも、二回りくらいは大きい。


「あれが、アマテラスの祭壇なんだよね」

 俺は、巫女ちゃんに確認してみた。

「そのはずです。封印されているはずなのに、この距離からでも、清浄な気を感じます」

 巫女ちゃんは、目を瞑ると、腕を大きく広げて空気を感じているようだった。

「ここには、魔獣とかは居ないのかな?」

 俺は、嫌に静か過ぎる本丸の空気に、緊張していた。

「大丈夫ですわよぉ。この結界の中には、不浄な者は入ることが出来ません。ですから、『邪の者』達は、先ほどのわたくし達と同様に、弾かれるはずなのですぅ」


 うむ。そうだよなぁ。そのはずだ。

 なら、どうやって『邪の者』達は、この祭壇を封印できたんだろう? 謎だ。


 俺は、些細な事は気にしないことにした。

 そして、腰の勇者の木刀を抜くと、祭壇に近づいて行った。しかし、もうすぐという所で、俺は立ち止まった。何かがおかしい。

 これまで培ってきた『勇者の勘』とでも言うのだろうか。俺は、何か異様な気配を感じたような気がした。


(来るか……)


「…………」


(来ないのか……)


 俺がもう一歩を踏み出そうとした時、地面が大きく爆ぜた。

「何だ!」

 俺は驚いて、後ろに飛んで躱した。

 俺が立っていたところの地面が盛り上がって、そこから腕が生えていた。青黒い肌に、鋭い鉤爪を備えたそれは……、

「ゾンビか」

「しかし、勇者様。ゾンビ如きが、この清浄な水を通って祭壇に近づけるはずがありません!」

 確かにそうだ。しかし、俺達の想像を裏切るように、割れた地面を押し退けて、腕が、肩が、そして頭が現れて来る。そして、最後に両腕で支えるようにして、ソイツは両足を地面から引っこ抜いた。見まごうはずがない。それは、まさしくゾンビだった。

「思った通り、ゾンビか。そうか、もしかして……。巫女ちゃん、ゾンビの顔に見覚えはないかい?」

 俺は、巫女ちゃんに問いかけた。ある思いが、ふと過ぎったからだ。

「勇者様、あ、あの顔は。……あの顔は、まさか……」

「どうしたの、巫女ちゃん。何か思い出したっすか?」

「あの顔は、司祭長様です。でも、そんなはずはありません。あの清廉な司祭長様が、ぞ、ゾンビになってしまっているなんて」

 俺の思った通りだった。

「あいつはただのゾンビじゃない。ゾンビヘッドだ。恐らく、強大な魔法力と不死身の肉体を持っている。その強さは、生前の司祭長以上に違いない。顔見知りだからと言って気を抜くと、殺られてしまうっす」

「そ、そんな。司祭長様。目を覚まして下さいませ」

 巫女ちゃんの言葉を裏切るように、ゾンビヘッドは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

「久しいな。辺境の森の巫女か。こんなところで遭うなど、奇遇だな」

 そう言うゾンビヘッドの言葉には、心を汚されるような雰囲気が混ざっていた。

「そんな、司祭長様。目を覚まして下さいませ」

 巫女ちゃんの言葉にも、その邪悪な表情は崩れなかった。

「そちらの、お子は誰だ。……ふーむ、ナルホド。最近噂の勇者らしいのぉ。300万人目にして、初めてアマテラスの祭壇を浄化したと聞いていたが……。どんな者かと思えば、こんな子供とは。いやはや、恐れいったものよ」


(俺の事を知っている)


「何故、俺の事を知っているんだ。それに、どうやって、この祭壇を封印したんだ!」

 俺は、声を荒げると、()司祭長に問い正した。

「ここは、アマテラス・ネットワークの巨大拠点よ。噂など、あっという間に伝わるわ。それと、何故ここの祭壇が封印されているかって? お前の想像通りじゃよ」

 ゾンビヘッドは、低い声で答えた。やはり、そうなのか。

「お前は、この清浄な水を越えて来たんじゃない。最初からここに居たんだな。そして、自らゾンビヘッドになり、祭壇を封印した」

「その通りだ。よく出来ました」

「この、裏切り者め!」

 俺は、高圧的な態度のゾンビヘッドに、そう言い返した。

「そ、そんな。司祭長様が、我等を裏切ったなんて。そんな……」

 巫女ちゃんは、やはり、凄くショックを受けたようだ。くそ、許さないぞ。

「今までお前を信じていた巫女ちゃんを裏切るなんて、許さん。この『勇者の木刀』でやっつけてやるぞ」

 俺は、木刀を両手で握り締めると、青眼に構えた。そして、目を瞑って精神を集中し始めた。

「ほう、なかなか良い気を発するのう。さすがは、アマテラスが認めた者だけはある。だが、それだけで、我に勝てるのかな?」

 ゾンビヘッドの言葉に、俺はこう言い返した。

「やってみなきゃ、分からないさ」

「そうさのぅ。では、お望み通り、やってみるか」

 その言葉が耳に届くや否や、ゾンビヘッドが俺に向かって来る醜悪な気配が押し寄せてきた。

 気配がすぐ目の前にまで来た瞬間、俺はカッと目を見開いた。そして、ゾンビヘッドの攻撃を木刀で薙ぎ払う。そのまま、遅滞ない動作で、ヤツの胴体を横一閃に斬りつけた。

 しかし、ゾンビヘッドは、それをスウェイして躱すと、今度は回し蹴りを放ってきた。

 俺は、一旦しゃがんでやり過ごすと、高速のサンダルの力で奴の背後に移動した。すぐさま、その背中に木刀を突き立てる。


 その突きは、思いがけなく奴の背を貫いていた。……やったか?


 しかし、傷ついたはずのゾンビヘッドは、「クックックッ」と不愉快な笑いを発すると、そのまま首を真後ろに捻じり曲げたのだ。

 俺は、そのありえない動きに慄くと、急いでヤツから離れようとした。しかし、木刀は奴の肉体に強く挟み込まれて、渾身の力を加えても抜けようとはしなかった。


 ヤバイ! と思うよりも早く、ゾンビヘッドは口を開くと、燃えたぎる業火を俺に向けて放ったのだ。炎に包まれた俺は、絶体絶命かに見えたろう。

「死んだな。愚かな子供だったのう」

「ゆ、勇者様!」

 巫女ちゃんの悲鳴が辺りに木霊する。

「なぁに、だいじょーぶ」

 俺は、身に纏っていた『魔法のローブ』を翻すと、すっくと立ち上がった。あらゆる魔法攻撃を防ぐ魔法のローブは、少しばかりの焦げ痕を残しただけで、俺を炎から守ってくれたんだ。だが、肝心の勇者の木刀は、ゾンビヘッドの背中に突き刺さったままだ。結果的に、俺は丸腰になってしまった。


(これは、普通に考えて、状況不利かな……)


「ふふ。何が大丈夫だ。丸腰になった身で、我に勝てると思うか」

 ゾンビヘッドは、そう言って笑うと、背中に手を回して勇者の木刀を難なく引き抜いた。そのまま木刀を遠くに放り投げる。カラカラと乾いた音が、辺りに響き渡った。

「そうれ、燃え尽きるがいい」

 ゾンビヘッドは、そう言うと、再び例の火炎攻撃をしてきた。俺は辛くも魔法のローブで炎を防いだ。しかし、ローブは、徐々にではあるが、炭化し始めている。まぁ年季が入ったものだし、そろそろ限界か……。

「どうしたどうした。それでも勇者か。それそれ、燃え尽きてしまえ」

 俺は、奴の火炎攻撃に対し、防戦一方だった。

「勇者様!」

 そんな時、俺を救ったのは、巫女ちゃんだった。彼女は、外界の清浄な水を汲んだPETボトルを、火を噴くゾンビヘッドめがけて投げつけたのだ。聖水(・・)が奴の頭上で溢れると、滝のように頭から身体を濡らした。

「ぎええぇぇぇぇー」

 不快な声を上げて、ゾンビヘッドは苦しみ出した。

「今です、勇者様」

「お、おう」

 俺は、すぐさま高速のサンダルで移動し、捨てられた勇者の木刀を拾った。

「今度こそ、止めだぁ」

 俺は、木刀を大上段に振りかぶると、ゾンビヘッドの巨体を頭頂から股間まで真っ二つに切り裂いた。

「おのぉれ、勇者めぇ」

 怨嗟の声を上げて、ゾンビヘッドが左右に別れて崩れ落ちた。勇者の木刀の一閃と聖水を同時に受けては、さすがの不死身の肉体も、焼け爛れ、腐ってドロドロとした粘液に成り果ててしまった。

「やりましたわね、勇者様」

「うん、やったよ、巫女ちゃん」

「後は、祭壇を浄化するだけですのよ」

 そう言って笑いかけた巫女ちゃんには、さっきのような辛さは感じられなかった。


 よし。もうすぐ、最終ステージ、完了だぞ!




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