放浪する遺跡(4)
翌日の朝早く、俺は目を覚ました。
その森は、俺の眼前にしっかりと存在していた。本当にこんなバカデカイ物が、動いて来たのだろうか。移動した跡である溝を見ても、なんとなく納得できない。
「勇者様、お早いですね」
巫女ちゃんだ。
「昨夜はちゃんと寝られたっすか。荒野で野宿するのは久しぶりだったすね」
「わたくしは、よく寝られましたよ。テントが有りましたので」
「それはよかったっす。さて、取り敢えず、朝食の準備でもするっすか」
「そうですね。でも、今朝は缶詰とかが中心になりますが……、よろしいでしょうか?」
「大丈夫、大丈夫。巫女ちゃんがいつも美味しく作ってくれてるから、オッケイすよ」
俺は朝食の用意を巫女ちゃんに任せると、森の近くに行って見ることにした。一応、昨夜の様子をサンダーに訊いてみる。
「サンダー、昨夜は何か変な事は無かったっすか?」
「勇者殿、特には、これといった動きは無かったでござる。もしかして、勇者殿は森に行くつもりでござるか?」
「いや、少し近くによって見るだけだよ。中に入るのは、皆と一緒にしようと思ってるっす」
「そうでござるか。ならば、念のために流星号を連れて行くでござる」
そう喋る自動車の脇に停車していたバイクが、続けてこう言った。
「ガッテンだ、サンダーの旦那。勇者の旦那、おいらが着いていれば、万事オッケイさぁ」
「そうっすか。なら一緒に行くっす」
(流星号が一緒か……)
俺は、心の中で一抹の不安を抱きながらも、そう応えた。
俺達は、森から50メートルくらい離れて中の様子を眺めていた。
「取り敢えずは、何の変哲もない『普通の森』に見えるっすねぇ」
「そうっすねぇ、勇者の旦那」
そうやって、俺は流星号と森の周辺を観察していた。その時、森の中で『何か』が動いたような気がした。
「流星号、今何か動いたように見えなかったっすか」
「おいらも見たっす。何か……、細長いモノだったっすね。蛇かなんかじゃないっすか」
「木の上に蛇かぁ。入った時に、上から落ちてこられると嫌っすね」
「毒蛇だと、もっと嫌っすね」
いや、お前は咬まれても平気だろう、と突っ込みたくなるのを我慢すると、俺はもう少し森を見ていた。すると、妙な事に気がついた。森の中へ入って行く道が見えたのだ。
「あ、あれ? さっきは、あそこに道なんか無かったような気がしたんだけど」
「そおっすねぇ、旦那。おいらのドラレコの記録と照合したっすが、3分以上前には道なんか無かったっすよ」
俺達が近寄ったら、まるで中に入ってくれと言うように道が出来るなんて、見るからに怪しい。
「入ってみますかい、旦那」
「いや、今はやめとこうか。何かの罠のような気がするっす」
「そおっすよねぇ」
「取り敢えず、森の偵察はこのくらいにして、一旦帰ろうか」
「了解っす、旦那」
俺が流星号と一緒に帰ってきた時には、朝食の準備は終わっていた。
「勇者様、お帰りなさいませ。朝食の準備は、出来ていましてよ」
巫女ちゃんの言う通り、配膳まで全て完璧に終わっている。さすが、巫女ちゃん。
「さぁ、冷めないうちにどおぞ」
「では、ありがたくいただくっす」
俺は空いている席に座ると、彼女の用意してくれた朝食を食べ始めた。
「巫女クン、これ美味しいね。同じ缶詰でも、一手間加えると、美味しく食べられるもんなんだ」
ミドリちゃんも、自分の分け前を口に運びながら、そう言った。何にしても、食事が旨いのは嬉しい。
俺達がそうやって朝食を採っていると、森の方から<ざわざわ>とした音が聞こえた。振り返って見てみると、森の木々が振るえ、鳥達が空に羽ばたいていた。
「何か起こったんかいな?」
くの一のシノブちゃんが、立ち上がった。
「流星、何か見えへんか」
そう言って、流星号に命令する。
「姐御、森の入り口に誰かいますぜ」
「人か? 人がおるのか」
流星号の言う通り、さっき出来ていた森の出入り口に、二人の人影が見えた。一人は転がるように出口から脱出したが、もう一人は、蛇のような長いモノに巻きつかれて、森に引き込まれようとしている。先に出た者にも、ロープ状の物が襲いかかってきていた。
「た、助けてくれぇ」
森の入り口から、助けを求める叫びが聞こえた。
「サンダー!」
「心得た」
サンダーと流星号は、瞬時にビークルモードに変形して森の入り口へ駆けつけると、ロボに再変形した。
「流星号、拙者は森に引き込まれた方を助ける。もう一人は任せたぞ」
「ガッテンでぃ、旦那」
流星号はそう応えると、再び森に引き込まれそうになっている人に絡まっているロープを引き千切った。
一方のサンダーは、腰からナイフを取り出して森を切り開くと、強引に中に入っていった。森の木々が更にざわめく。
しばらくすると、サンダーは人らしきものを片手に抱えて、森から飛び出してきた。
「流星号、引くぞ」
「オーケイ、旦那」
そうやって、二体の勇者ロボは、森から人間を救助したのだった。
助け出したのは、二人共壮年の男性だった。
俺達は彼等に、食べていた朝食と水を分け与えた。
「すまねぇ。恩にきるぜ」
「ありがとう、助かったよ。俺はサイトウ。戦闘士をしている」
「俺はムナカタ。賞金稼ぎだ」
俺は念のために、魔法の眼鏡で彼等の属性を確認してみた。
戦闘士 (元勇者):レベル 3
HP 25
戦闘力 35
防御力 27
魔法力 10
賞金稼ぎ (元勇者):レベル 4
HP 22
戦闘力 30
防御力 31
魔法力 12
ふむ、取り敢えず、二人の言っていることは間違ってはいないようだ。
「俺は、現在の勇者っす。そんで、こっちが俺の仲間たちです。この娘は巫女ちゃん。アマテラスの巫女です」
俺が紹介すると、巫女ちゃんが頭を下げた。
「ボクは魔導師のミドリだ。よろしく」
「うちは、くノ一のシノブや。あんじょうしてやってや。ほんで、このほっそいロボが、うちの相棒の流星号や」
「拙者は、サンダーと申す。よろしくでござる」
俺達も、彼らに自己紹介をした。
「助けてくれてありがとう。本当に危ないところだった」
「二人共、あの森にいたんすか? いったい、あの森は何なんすか?」
俺は、森から脱出した二人に、事情を確かめることにした。そして、二人から驚愕の事実を知ることになるのだ。