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遺跡侵入作戦(6)

 俺達は遺跡の入口の守護者──アヌビスをシノブちゃんに任せて、遺跡の奥へと急いでいた。

 不思議な事に、魔獣やゾンビなどの敵は襲ってこなかった。もしかして、アヌビスに全権を委ねて、残りはサンダー達の方へ向かったのだろうか?


巫女(みこ)ちゃん、地下への入口がどこにあるか分かるっすか?」

 俺は一旦休憩して、現在位置の把握をしてみたかった。

「もうすぐの筈です。ええーっと、あの大きな柱。きっと、その向こうにあるのだと思います」

 巫女ちゃんは、手元のペンダントを見ながら、そう答えた。

「勇者クン、気を付けて。魔法トラップの気配がある。くれぐれも、惑わされないように。それから、くれぐれも不用意なことは、しないようにね」

 魔導師のミドリちゃんが教えてくれた。そうか、魔法か。良くは分からんが、とにかく気をつけよう。


 俺達は、巫女ちゃんを守りながら、まっすぐに巨大な柱に近づいて行った。

「デカイ柱だなぁ。これで、遺跡を支えているのかなあ」

 俺は石造りの太い柱を見上げながら、感嘆の声を上げた。

「巫女ちゃん、この柱の向こうに、地下への入口があるんだよね」

 俺は念のため、もう一度巫女ちゃんに訊いてみた。

「はい、間違いありません。ペンダントも、その方向を指していますからぁ」

 そうか、やっぱりこの向こうなんだ。

 俺は、石柱をぐるりと巡って、反対側に出た。しかし、そこは、これまでとあまり代わり映えのしない場所だった。

「入口みたいなものは、……見当たらないっすね。もっと向こうなのかな?」

 俺達が柱を越えて進んでいくと、巫女ちゃんが、

「この方向ではありませんね。ペンダントが、違う方向を指していますわ」

 と、俺達を呼び止めた。違う方向か。ちょっと戻るかぁ。

 もう一度、柱まで戻ると、今度はそこから右手の方へ向かった。ここも代わり映えがしない。

「勇者様、ここも違うようですの」

 巫女ちゃんが困ったように、そう言った。

「おかしいな。魔法か何かで惑わされているのか? 巫女クン、もう一度、ペンダントの指す方向を教えてくれないかな」

 そう言われて巫女ちゃんは、柱の左手の方向を指差した。

 それを見たミドリちゃんは、しばし、思案をしていた。そのうちに、思いついたように柱に近づいて行った。そのまま、石の柱を<コンコン>と叩きながら、周囲を巡っていた。そして、こう言ったのだ。

「これだ。この柱そのものが、入口になっているんだよ」

「ええ! この柱っすか。でも、どう見ても、入口なんてどこにもないっすよ」

 俺は、ミドリちゃんの言う事が、にわかには信じられず、困ってしまった。

「どうやって入るんすかね?」

 俺も、柱の周りを巡りながら調べていたが、一向に分からん。その時、剣士のサユリさんが、何かを見つけたようだ。

「勇者殿、柱のこの石組みの部分だけが、妙に汚れているようなのでござるが」

「どれどれ、見せてくれないかな」

 ミドリちゃんが、小走りでサユリさんの方へ向かった。巫女ちゃんも、近寄って行く。

「ペンダントは、柱のこの部分を指していますわ」

「そうか。勇者クン、ここが入口なんだ」

 そうか、ここが入口ねぇ。……全然分からん。

「多分、ここを開く仕掛けが有るのだろうけれど……。どうすれば良いのかな。ちょっと考えさせて……」

 ミドリちゃんは、柱の根元に屈みこんで、色々と試しているようだった。

「まぁ、シノブちゃんがいなくて、よかったっすね。あの人がいたら、強引にぶち壊そうとしただろうから。不幸中の幸いっす」

「まあ、その通りなんだけどね。……くの一クン、大丈夫かな」

 ミドリちゃんが、珍しくシノブちゃんの心配をしていた。


(確かにアヌビスは強力な獣神だろうが、シノブちゃんも歴戦の勇士っす。しかも、元勇者の。きっと大丈夫だ。必ずアヌビスを倒して、追いかけてくるに違いないっす)


 俺はそう信じていた。


「ミドリちゃん、何か分かったぁ」

 俺は、呆けた声で彼女に訊いた。

「未だだよ! 見てて分からないかなぁ。ちょっと、静かにしてくれないかな。今、探しているところなんだから」


(うへ、怒られちった。あ~あ、暇だなぁ。未だ開かないのかなぁ)


 俺が、側でぷらぷらしていると、それが気に入らなかったのか、ミドリちゃんが大きな声をたてた。

「もう、気が散るから、どっかへ行っててくれ!」

「えー、それはないだろう。もし、敵が襲ってきたら、その時にすぐに皆を守れるように、ここで待機しているんだよ」

「そんなの、サユリさんがいれば充分だよ。だいたい君は、『勇者』としての自覚が足りなさ過ぎる。もっと、しゃんと出来ないかなぁ」

「俺が、しゃんとしてないっていうっすか。それは心外っす。そもそも、俺は『勇者』で、『リーダー』っす。なのに、皆、全然着いて来てくれなくって」

「それは、勇者クンに人望がないからだよ。移動も戦闘も、サンダー達に任せっきりだし」

「えー、俺だって、ちゃんと戦ってるよ」

「あの、行き当たりばったりの戦術が? 小学生の鬼ごっこでも、もっと考えて行動するぞ」

 俺達は、折角地下への入口までやって来たというのに、仲間割れを始めてしまった。

「二人共、止めるでござる。ここは、力を合わせないとならないのでござる」

 サユリさんが中に入って止めようとしてくれたのだが、それでも、俺とミドリちゃんの争いは終わらなかった。

「止めるでござる。今はそんな時では、……い、いた。ぐぅお……ふ、二人共、いい加減にしない……しないと、……斬るでござるよ!」

 とうとう、サユリさんは、ドスの効いた声で俺達を恫喝した。これには、さすがに俺もミドリちゃんも、氷のように固まってしまった。

「あ、……さ、サユリさん。これはね、喧嘩でも何でも無くって。ただ、じゃれあっていただけっすよぉ」

「そ、そうそう。単調な日常の中の潤滑剤? ってやつ……」

 俺もミドリちゃんも、顔面蒼白で平謝りしていた。それ程、サユリさんの怒気は、凄いものだったのだ。

 今度からは、怒らせないようにしなくては。

「しかし、何でござるな。あまりに何の手がかりも無くて、手の出しようがないでござるな」

 機嫌を直したサユリさんは、そう言いながら、ふてくされたように柱の一角を蹴飛ばした。

 すると、<ゴゴゴ>と音がして、柱の一部が床に吸い込まれ始めた。そして、3分もすると、人が通れるくらいの階段が表れたのだ。

「やったよ、サユリさん。入口が開いた」

「そ、そうでござるな。手は出せなくても、足も使いようでござったな。は、ははは」

 瓢箪から駒に、サユリさんも照れ笑いをしていた。

「ちょっと待って、皆。トラップなんかはないかな? 魔法も張られて無い、ようだね。……ふむ、きっと、サユリさんの強烈な怒気で、隠蔽の魔法が解けたんだと思う」

「怪我の功名っていうやつっすね」

 俺が呑気にそう言うと、ミドリちゃんは、

「まぁ、そういう言い方も出来るけど。ホント、君は運だけ(・・・)は良いんだから」

 と、呆れ果てたように言った。

「まぁま、魔導師様、こうして無事に扉が開いたのですから。皆で地下へ降りることにしましょうね」

「そうだな、まずはボクが先に行こう。次が勇者クンで、巫女クン。気配を察することが出来るサユリさんは殿(しんがり)を頼むよ」

 ミドリちゃんがテキパキと順番を決めると、それに従って、俺達は暗い階段を下へと降りていった。


 陽の届かない階段で、ミドリちゃんは、左手を胸の高さまで上げていた。その手の平からは、明るい炎が立ち上って、辺りを照らしていた。

「ミドリちゃん、熱くないの?」

 俺がそう訊くと、

「ライトの魔法だよ。熱はそんなにない。空気中の酸素を触媒にして、明かりを灯す魔法なんだ。だから、酸欠になりそうな時も、これで分かるんだよ」

 と、解説してくれた。

「へぇー、便利っすね」

「ボクを誰だと思っている。魔導師だぞ。これくらい、何でもないさ」


 そんな雑談もしながら、しばらく階段を降りて行くと、どん詰まりになった。もう先がないのである。

「あ、あれ? 出口はどうしたのかなぁ」

「そうだね、勇者クン。どう見ても、全くの壁だよね。えーっと、魔法は? かかっていない、みたいだけど……」

 ミドリちゃんがそう言って、<コンコン>と突き当りの壁を叩くと、いきなり足元の床が抜けた。

「う、うわぁぁぁぁぁ」

 俺達は、床を抜いて出来た落とし穴に、はまり込んでしまった。


 宙を舞っていたのは、そんなに長い間じゃなさそうだった。すぐに俺は尻から床に激突した。

「ううぅ、てててて。何だよぉ、一体」

 俺が苦鳴を上げている横に、空中を一回転して、<ヒラリ>とサユリさんが降り立った。両腕には巫女ちゃんを姫抱っこしている。

 最後にミドリちゃんが、ゆっくりと床に降りてきた。浮遊の魔法だろう。


(くそっ、なんで俺だけ、こんな格好悪いんだ。世の中、不公平だよな)


 俺が不貞腐れている横で、サユリさんは、巫女ちゃんを丁寧に床に降ろしていた。しかし、何だか厳しい顔つきをしている。

「サユリさんも、気が付いていたんだね」

 ミドリちゃんが、押し殺した声で、そう問いかけた。

「もの凄い殺気(・・)を放つモノ(・・)が潜んでいるでござる。しかも、その奥には、更に強大な何かが……。これでも、殺気を控えているのであろう。尋常ではない相手でござるよ」

 サユリさんは、地下一階の暗がりの奥を睨みながら、そう言った。

「巫女ちゃん、次の階への入口は?」

 俺がそう訊くと、彼女は左手方向を指差して、

「あっちの方角、だと思いますわ」

 と、答えた。幸い、『殺気』とは方向が違っている。

「今のうちに、下の階へ急ごう。未だまだ先が有るんだ。なるべくなら、戦闘は避けたいっす」

 俺は、皆に号令をかけた。

「分かった、勇者クン。行こう、巫女ちゃん。サユリさんも」

 ミドリちゃんも、サユリさんに声をかけた。

「巫女殿、ここから先に、『邪の者』の気配は感じるでござるか?」

 サユリさんが、巫女ちゃんに尋ねた。

「い、いえ。邪気のようなものの気配は、感じられません。魔獣などの(たぐい)は、いないと思います」

 巫女ちゃんがそう答えると、サユリさんはこう言った。

「それがしは、ここに残ろうと思うでござる」

 これには、俺もミドリちゃんも驚いた。

「何で。どうしてっすか。サユリさんも、一緒に行きましょう」

 俺がそう言っても、

「この階の魔物は、一筋縄ではいかないでござる。もしも追いつかれて戦いになったら、こちらにも、相当の被害が出るでござる」

「だからって、サユリさんが一人で敵を足止めするなんて、無茶っす」

「勇者クンの言う通りだよ。ここは、追いつかれる前に、地下二階の入口へ急ごうよ」

 俺達は、何とかサユリさんを説得しようとしていた。

「だからこそ、それがしが残るのでござる。勇者殿と巫女殿は、祭壇の浄化には欠かすわけにはまいらぬ。魔導師殿も、これから先に有るであろうトラップや魔法を考えると、一緒に行って欲しいでござる。さすれば、それがしが残るのが道理。何、心配はいらぬでござる。この階の魔獣如き、それがしの敵ではないでござる。さっさと倒して、追い着くでござるから。勇者殿達は、次の階へ急いで欲しいでござる」

 サユリさんの決意は、固いようだった。


「分かったっす。ここはサユリさんに任せるっす。その代わり、絶対に死んじゃいけないっすよ。これは、リーダーとしての『命令』っすからね」

「あい分かったでござる。それでは、先へ行って下され」

「分かったよ。ええーと、サユリさんは、まだ万全な体調じゃないんだから、決して無理はしないでね」

 ミドリちゃんもそう言うと、俺達三人は、その場から走り出した。


 しばらくすると、サユリさんの背後に、強烈な殺気が漏れ出してきた。俺のような、ただの人にも分かる程の。

「ようやく来たでござるな」

 サユリさんが、殺気の(ぬし)に声をかけた。

「仲間を先にやって、ここは自分一人でとうせんぼか。なかなか殊勝なヤツよのう」

 暗がりの奥から、声が答えた。

「なぁに。彼等が居ては、足手まといになる由。思えば、それがしは、いつも何かを守りながら戦ってきた。それで、本気を出せずに、傷を負う毎日であった。そろそろ、本気で勝負をしてもいい頃合いと思うてな」

 サユリさんの口調は静かだったが、気配の主を脅かすには充分だった。

「久方振りの豪傑のようだな。我等(・・)も嬉しいぞ。お主一人で、どう足止めするか、見せてもらおうかの」

 闇からの声は、脅しを含んでいた。しかし、それを聞いたサユリさんは、ニヤリと笑ったのだ。それは、いつもと違い、殺意(・・)喜び(・・)を含んでいた。


 果たして、サユリさんは、地下一階の魔獣を退けることが出来るのだろうか。そして、先を急ぐ俺達を、何が待ち受けているのだろう……。




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