遺跡侵入作戦(1)
やっと俺達は、次の遺跡の入口にたどり着くことができた。
「やったぁ~。遺跡だぁ」
俺は、長かった砂漠の旅を思い返すように声を上げた。
「本当は、前の章でここに着いているはずだったんだけどね」
魔導師のミドリちゃんが、言ってはいけない事を指摘した。
「ええっとぉ、それって作者批判?」
「まぁ、いいけどね。前の六話分は無かった事にする」
「そんなぁ。勿体無いよ。折角、盗賊倒したんだし、賞金だって入るんだよ」
俺は、ちょっと引き気味ながらも、対抗した。
「あ、そうか。お金は大事だね」
「そうでござる。それがしも、このところ古傷が痛んで、万全の体制ではなかったでござるからな。賞金は一円でもありがたいでござる」
剣士のサユリさんもそう言っているし、気を取り直して遺跡攻略のことを考えよう。
巫女ちゃんの説明によると、ここ──『ヒムカの祭壇』と言われる遺跡は、アマテラス・ネットワークの基幹収束ポイントの一つに当たるのだそうだ。と、言われてもよく分からない。
当人に、もっと詳しく訊いてみると、
「『ヒムカの祭壇』は、アマテラス・ネットワークに流れる情報を一時的に集めて、統合した情報に整理するためのハブ機能を持っているのですよ。そのためのプリプロセッサもインストールされていますの。祭壇の中でも、数少ない情報拠点なのですぅ」
(そうか、……さっぱり分からん)
俺が、ポカーンと呆けてるので、業を煮やしたミドリちゃんは、
「つまり、この遺跡を攻略して、その『ヒムカの祭壇』なるものを正常な稼動状態に復帰させれば、この異世界の情報のかなりの部分を把握できるって事だよね」
と、噛み砕いてから巫女ちゃんに確認してくれた。
「その通りですぅ。魔導師様は、飲み込みが早いのですぅ」
巫女ちゃんが賞賛すると、ミドリちゃんは、
「ま、それほどではないけどね」
と、少し鼻を高くした。
「で、情報が把握できるようになると、何かいい事があるんすか?」
俺は、まだ事情をよく飲み込めないので、そう質問した。
すると、ミドリちゃんは、害虫でも見たような目をして俺を睨め付けると、
「まだ分からないのかい、勇者クン。異世界の情報を把握できるって事は、まだ攻略出来てない遺跡の位置や、敵である『邪の者』の動向も分かるって事だよ」
と答えた。
「つまり、これまで行き当たりばったりで攻略してきた遺跡を、効率よく浄化していく事が出来るようになるのでござるな」
「そう、その通り。さすがはサユリさんだ。ボクの言いたいところは、まさにそれなんだ」
ふむ、そういう事か。
「なんや。つまり、ここを攻略してまえば、後の攻略が簡単になるっつう事やな。それは助かるわぁ」
くの一のシノブちゃんが、そう言った。
「分かったかい、勇者クン。脳みそが筋肉のくの一クンにも分かったんだぞ。これ以上は説明しないからな」
相変わらず、ミドリちゃんの物言いは厳しい。しかし、ここが重要拠点であるなら話は早い。
「じゃぁ、さっさと乗り込んで、攻略しちゃおうよ」
と、俺は皆に提案した。しかし、それをミドリちゃんは制した。
「勇者クンのアンポンタン。それだけの重要拠点なら、敵さんも、それなりの警備態勢をしているって事だよ。迂闊には、森へ入るわけにはいかない」
(あ、そうかぁ。さすがは我軍の参謀だ)
俺は、ミドリちゃんの説明に納得してしまった。
「大事なことだから、念のためもう一回聞いとくよ。分かったかい、勇者クン」
ミドリちゃんの念押しに、俺は、
「分かった、分かったよ」
と答えるしかできなかった。
「そんなら、前みたいに、悪魔とか魔神獣とか出てくんのかいな? なぁ、魔導師さん」
シノブちゃんが、興味深げにミドリちゃんに尋ねた。
「だろうね。前回の遺跡も、結構強敵が守ってたけど。そうだね、ここはそれ以上かも知れないね。……えーっと、この『異世界魔獣大全』を見てみると、『機械魔獣』や『ゴーレム』クラスが、中級魔獣に分類されているのに対して、『悪魔』なんかは、詳細不明の上位クラスの魔獣なんだそうだ。更にその上となると、本にも載ってないような強力で凶悪な魔獣が待ってるかも知れないね。……うーんと、巫女クンは何か知ってるかい?」
すると、巫女ちゃんは、ちょっと表情を暗くして、こう言った。
「あまり……よく覚えていないのです。わたくしが封印されたのは、『邪の者』が侵攻してきた初期ですので。でも、勇者様に開放してもらって、現在のこの異世界の様子を調べてみましたら、神官様や王族の皆様が全くいらっしゃらないことが分かりました。わたくしなどよりも、よっぽど強い力を持った神官様や、他の方々を倒して封印してしまったということは、勇者様でも苦戦するような強敵がいるかも知れませんわ」
(そうか、手強いのか。でも大丈夫。俺にはアマテラスの加護があるもんね)
俺は、実際にそう言うと、またまたミドリちゃんが嫌な顔をしてこう切り返してきた。
「勇者クン。君は全く分かってないね。今のこの異世界は、ここに召喚された『元』勇者達が築いたんだよ。つまり、それだけたくさんの勇者が挑戦してきたって事だ。それでも成功してないんだよ。君が勇者の時に、何でもかんでも、すんなり成功するとは限らんでしょう。ようするに、勇者の替えなんていくらでもいるってことだよ」
「そんな、身も蓋も無い事を……」
「それが現実だよ。ボクだって元勇者だからね。ちょっと手違いがあって、今は魔導師をやってるけど。勇者クンなんか、勇者じゃなかったら『村人H』くらいな役割でしかないんだからな」
「ミドリちゃん、それはヒドイよ。いくらなんでも、名もない村人の、それもHって」
「だって君、エッチだから」
「ガーン! それはないよ、ミドリちゃん」
俺は、深く傷ついた。それに輪をかけるように、シノブちゃんが、
「ああ、そんなら、うちにも分かるわ。勇者さん、エッチの方は進んでるもんな」
と、あっけらかんに言い放った。
(そうか……。俺って、そんな風に見られてたんだ)
「でも、今の勇者は、勇者様なのです。わたくしを開放してくれたのも、今の勇者様です。勇者様なら、きっと『邪の者』を退けてくれると、わたくしは信じていますよ」
おお、巫女ちゃん。そんな事を言ってくれるのは巫女ちゃんだけだよ。俺は感激した。
「いいよ、ミドリちゃんやシノブちゃんが、そう言うなら。俺には巫女ちゃんがいるもんね」
俺は少し拗ねると、皆に言い返した。
「あ、いや、そんな事は。……う~ん、ボクも言い過ぎたな。悪かったよ、勇者クン」
「あ、あらら。うちも、大人気なかったなぁ。勇者さん、堪忍な」
「二人がそう言うなら……。まあ、無かった事にしてもいいかな」
「よっしゃあ、それで決定。今日はゆっくり飯食って、寝るで。そんで、朝になったら、森に殴りこみや」
シノブちゃんが、威勢のいいことを言っている。
「でわ、わたくしは、夕御飯の準備をするのですぅ」
巫女ちゃんは、そう言うなり、サンダーのところに走って行った。
俺は、食事が出来る間に、少しでも剣の練習をしようと思った。それで、サユリさんのところへ行くと、
「サユリさん、巫女ちゃん達が食事の準備をしている間、俺に稽古をつけて欲しいっす」
と、頼み込んだ。
「勇者殿、それがしで良ければ、お付き合いするでござる」
サユリさんがそう言ってくれたので、俺は『勇者の木刀』を手に持つと、一緒に少し離れたところに移動した。
ミドリちゃんとシノブちゃんは、少しは反省したのか、それぞれに準備を手伝っているようだった。
よし、今のうちに明日に備えて、修行をするぞ。
「まずは、勇者殿、素振りからでござるよ」
剣士サユリさんは、そう言うと、自分も腰の大刀に手をかけた。そのまま剣を鞘ごと抜くと、大上段に振りかぶった。
俺も負けずに勇者の木刀を振る。
よし、この調子で、明日からこの遺跡を攻略するぞ。




