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放浪する遺跡(3)

 俺達は、昼食の後片付けをしていた。


「勇者様、余ったウナウナギはどうしましょう?」

 巫女(みこ)ちゃんが尋ねてきた。

「そうっすねぇ、ブレイブ・ローダーがあれば、冷凍して保存してもいいんすが。ちょっと勿体無いけど、置いていこうか」

「そうですね。どこかの地面の中にでも埋めておきましょう」

 俺は、適当なところを探すと、サンダーに手伝ってもらって穴を掘った。ウナギが三分の一くらい残っていたのを、骨や内臓と一緒にそこに埋めた。

「これでいいっすかね」

「立つ鳥跡を濁さず、ってやつだね、勇者クン」

「まぁ、そういう事っす。じゃぁ、例の湖の変形している現場を見に行くっすか」

「了解」


 俺達は、サンダーと流星号に分乗して、湖の反対側の岸を目指した。湖の水は相変わらず濁っていて、悪臭までしそうだった。枯れそうになっている灌木も増えてきた。

 そして、サンダーの言っていた『地形が変化してる場所』に着いた時、俺達は目をみはった。目の前には深くえぐれた溝が延々と続いていたのだ。何か『とてつもなく巨大なモノ』が横切った様である。溝の反対側は遠くて、どのくらいの幅があるのかさえ分からなかった。

「うっひゃぁ、えらい大きな溝やなぁ」

 シノブちゃんが感嘆の声をあげた。

「サンダー、溝の幅は測定出来るっすか?」

「勇者殿、だいたい1キロくらいでござるな」

「1キロかぁ。そんな大きなモノが這いずってるなんて、ボクも聞いたことないよ」

 ミドリちゃんも、その大きさに驚いていた。

「巫女ちゃん、こんな大きな移動物体について、何か覚えている事はあるっすか?」

 俺は、生粋の異世界人である巫女ちゃんに訊いてみた。

「わたくしも、そのような大きな物が動くなんて、聞いたことがありませんわ」

「と言うことは、この異世界に元々あった物じゃぁ無いってことっすね」

「魔獣みたいに、『邪の者』の影響を受けたモノかも知れないね」

 ミドリちゃんは、『異世界魔獣大全』をめくりながら、そう言った。まぁ、この本も異世界の本屋で買ったものだから、どこまで本当か怪しいものだが。

「溝の土砂の痕跡から、移動物体は、向かって右から左へと動いたようでござる」

 サンダーが解析結果を知らせてくれた。

「おい流星、溝の中に落し物とか無いか? 行って調べてこいや。何かあったら手がかりになるやろ」

 シノブちゃんが流星号に命令した。

「はぁ、おいらは探索向きに作られて無いんすよぉ。だから、それはちょっと分かんないっすよ、姐御」

「何やとぉ。どこまでも使えんやっちゃな。いったいどんだけ、うちに恥かかせるねん」

 怒ったシノブちゃんは、喋るバイクの横腹を蹴飛ばしていた。

「い、痛いっす。すんません、姐御」

 俺はシノブちゃん達のやり取りを聞いてて、漫才のようだと思った。シノブちゃんが関西弁だからかも知れない。

「取り敢えず、物体の進行方向に行ってみるっすか。こんだけ大きいなら、移動速度もそんなに早くないはずっす。うまくすれば、追いつけるかも知れないっすね」

「せやな。取り敢えず行ってみるか。ほれ流星、行くで」

「ガッテンだ、姐御」

「拙者達も参るでござる」

 そうして俺達は、謎の移動物体を追いかける事にしたのだった。



 俺達は溝に沿って、道なき道を走っていた。結局、その日の夕方には、俺達は溝を作った張本人にまだ追いつけずにいた。

「結局、今日は追いつけなかったっすねぇ」

 俺は、ちょっぴり残念な気がして、そう言った。

「溝の縁の崩れ具合からいって、もうそろそろ追いつけると思うのでござるが」

 サンダーが、解析結果をカーナビの画面に映しながら教えてくれた。

「どうする勇者クン。このまま後を追うかい? それとも、この辺りで野宿でもする?」

 ミドリちゃんが、今後について訊いてきた。

「そうっすねぇ……、野宿するにしても、森とまではいかなくても、茂みとかがあるといいんすが。この辺りは、荒地が広がってるだけっすからねぇ」

「勇者殿、この先120キロの地点に、地磁気の乱れが発生しているでござる。何かあるやも知れぬでござるぞ」

 サンダーのセンサーに、何かの反応があったらしい。

「120キロ先かぁ。このペースで行くと、1時間半くらいか。なら、行ってみるっす」

「了解でござる」


 そして、俺達は再びやたらでかい溝の縁を、延々と疾走していた。

 もう日も落ちて暗くなってきた頃、やっとこさ、俺達の目の前に、木々が生い茂る深い森が見えてきた。これが、溝を作った張本人か? まさかねぇ。

「うわぁ、ホンマに森があったなぁ。こんなんが動いとったのか?」

 シノブちゃんが驚いていた。正直、俺も驚いている。どうやら、今は停止しているようだ。

「今は移動してないようっすね」

「そのようだね、勇者クン。どうする、入ってみるかい?」

 ミドリちゃんに訊かれて、俺は、

「いや、もう日が暮れてるっす。暗い夜中に、こんな『得体の知れない森』に入るのは危険っす。今日は取り敢えず、森の近くで休むっすよ」

 と、提案した。

「その方が賢明でござるな。夜の間は、拙者と流星号で見張りをするでござる」

「おいら達に任せてくだせい。姐御達は、ゆっくりと、休んでくだせい」

 サンダーと流星号は、そう言ってくれた。まぁ、基本メカだから、夜通しでも大丈夫なんだろう。

「念のために聞くっすが、ブレイブ・ローダーはもう使えるようになってるすか?」

 こんな時こそ、転ばぬ先の杖。いざという時のブレイブ・ローダーだ。

「調整は、ほとんど終了しているでござる。いつでも緊急出動可能でござる」

 そうか。なら、心強い。

「分かったっす。じゃぁ、皆、今夜はここで野宿して、明日の朝になったら森を探検するっす」

『はぁーい』

 元気な声が返ってきた。さて、それじゃぁ、野営の準備でもするか。俺達は、サンダーの貨物室から、寝袋や簡易テントなどを取り出して設営し始めた。

 巫女ちゃんはシノブちゃんと一緒に、火を起こしていた。流星号はロボに変形して、森の方を見張っている。

「流星、森の方はどないや?」

 シノブちゃんが、ぽつねんとして立っている案山子のような姿に問いかけた。

「ちょっと暗くて見えにくいっすねぇ」

「アホかお前は。赤外線センサーというものが付いてんとちゃうのか!」

 またもシノブちゃんが怒っていた。この人の沸点は、えらく低いらしい。

「そうでした、姐御。ええと、……木の枝に鳥らしき小型の生き物が見えるっすねぇ」

「よしよし。ちゃんとでけとるやないか。サボらんと見張っとんのやぞ」

 サンダーと同じ人工知能ユニットを積んでいるはずなのに、流星号は妙なところで人間臭かった。わざとなのか、天然なのかも、よく分からない。なんにしても、コイツがボケ担当なのは間違いない。

「皆様、夕食の準備が出来ましてよ」

 おっと、巫女ちゃんだ。

「お昼の残り物とレトルト食品で申し訳ないのですが」

 控えめな調子ではあったが、やっつけで設えたテーブルには、豪勢な料理が並んでいた。

「充分過ぎるほどのご馳走っす。巫女ちゃん、ありがとうっす」

 夕食の献立は、ウナウナギの肝のスープと、レトルトカレー、野草のサラダだった。何にしても、こんな放浪生活で、ちゃんとした食事が摂れる意義は大きい。巫女ちゃんに感謝である。

「皆、席に着いたっすか? それでは、両手を合わせて……」

『いただきます』


 俺達は、明日に備えて食事をしたのである。




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