砂漠の果て(1)
数々の困難を乗り越え、俺達は、また一つアマテラスの祭壇の浄化に成功した。
「だいぶん、祭壇の浄化をしたね。巫女ちゃん、アマテラスの祭壇のネットワークは、どのくらいまで回復してるっすか?」
俺は、気になっていた事を、巫女ちゃんに訊いた。すると、彼女は目を瞑って集中を始めた。
「未だこの異世界全土の様子は分かりませんが、近くにある祭壇の位置などは、検索できるようになっていますわ。ネットワークの回復は、今現在で四割くらいでしょうか」
俺は、巫女ちゃんの話を聞いて、フムンと考え込んだ。
(さぁて、ちょっと集中的に、この辺りの祭壇を浄化して、異世界のバランスを一部でも元に戻さないと。その為にはどうするか……かぁ)
「なに、ボォーとしとるんや。勇者さんは、勇者さんらしく、で~んと構えときなはれ。近くの祭壇がどこにあるか分かるんなら、次はそこ行って、ぶっ壊せばええんやんか」
くノ一のシノブちゃんが、また物騒なことを言い出した。
「くの一クン、君は大雑把過ぎるよ。それに、壊すんじゃなくて、浄化だ。ホントに、脳みそまで筋肉だな」
「あかんかったか? もう、ちょっとの間違いくらい堪忍してぇな、魔導師さん。兎に角、それ。ええーっと、浄化や浄化。ちゃっちゃとそれしに行こうやないかい。ほんで、魔物が出てきたんなら、ボッコボコにしてまえばええねん。カッカッカッカッ」
「さすがは姐御。伊達に異世界一のケツをしてる訳じゃないぜ」
「せやな、流星。うちにかかったら、『邪の者』なんて、ボッコボコや。カッカッカッカ」
あーあ、ミドリちゃんの皮肉も、シノブちゃんにはあまり効果が無いようだな。
それにしても、サユリさんの剣術は素晴らしい。彼女がいなかったら、ここまで来れなかったかも知れない。
俺は、改めてサユリさんの実力に感心していた。
「なぁなぁ、勇者さん。うち、腹減ったわぁ。ちょっとここらで、飯にせーへんか」
あ~、またうるさいことを言い始めた。でもまぁ、確かに腹は減ったかな。なら、食事にするか。
「ついでだから、アマテラスに何かお供えしておこうかと思うんすが……。誰か、その辺でイグアナとかがいたら、狩ってきてもらいたいんすが」
と、俺が言うと、
「はい、はいはい、は~い。うちに行かせてぇな。イグアナでもオオトカゲでも狩ってきまっせ」
と、シノブちゃんが真っ先に手を挙げた。
「じゃ、じゃあ、シノブちゃんにお願いするっす。まだ、瘴気の跡とかが残ってるから、あんまり変なとこへは行かないでね」
と釘を刺しておいてから、彼女に行ってもらおうと思った。勿論、相棒の流星号も一緒だ。一抹の不安は残るものの、『邪の者』は退治したんだ。大丈夫だろう。
しばらく祭壇の前で待っていると、シノブちゃん達が帰って来た。
「勇者さん、いっぱい捕れたでぇ」
俺は、声のした方へ振り向いた。
「あ、シノブちゃん、どうだった?」
「ほうれ、こんだけあれば、足りるんとちゃうかぁ」
と言うシノブちゃんの両手には、プックリと太ったヒトカゲが二匹ずつぶら下がっていた。
「シノブちゃん、大漁っすね」
俺がそう言うと、彼女はこう言った。
「せやねん。大漁大漁。こら、流星、はよ持ってこんか」
「あ、姐御ぉ、お待たせっす」
そう応えた流星号が持ってきたのは、二十匹ほどの、大イグアナだった。
「げっ、すげぇ」
俺が思わずそう漏らすと、
「あれ、ちいと少なかったかなぁ。勇者さん、もっぺん行ってこうか」
再度狩りに出かけようとするシノブちゃんを押し留めて、俺はイグアナとトカゲをお供えしようと思った。
「いや、二人共、よく頑張ってくれたよ。本当、これだけあれば充分だよ、きっと」
「そうかぁ。そんじゃ、こいつらどうしよ」
「取り敢えず祭壇に乗っけてよ。お供えにするんだ」
「分かったでぇ。流星、持って来い」
「分かりやした、姐御」
流星号は持っていたイグアナを全て祭壇に乗せようとしたので、俺はストップをかけた。
「俺達の食べる分は残すんだよ」
「あっと、すいやせん、勇者の旦那」
「流星、ちゃっちゃとせんかい。すんませんなぁ、勇者さん」
「姐御、これくらい残せばいいっすか?」
流星号は、オオイグアナを五匹ばかり取り分けると、残りを祭壇に乗せた。
そうして、アマテラスの祭壇には、イグアナとトカゲがうず高く積まれたのであった。
「じゃぁ、巫女ちゃん、お祈りをお願いしてもいいかな?」
と、俺は巫女ちゃんに訊いた。
「分かりました。お任せ下さい」
白と朱の巫女装束を着た巫女ちゃんが、祭壇の前までやって来た。
「では、お祈りを始めます。皆さんも手を合わせて目を瞑って下さい」
巫女ちゃんにそう言われて、俺達は目を閉じた。
「アマテラスの神よ、供物を捧げます。どうか我らを導き、お守り下さい」
そうすると、頭の中に声が響いた。
──我、アマテラス。汝らを守護する者なり。汝らの供物に応え報奨を遣わす。
俺達が目を開けると、祭壇の上には、『ナックルガード』が置いてあった。
「これが報奨かい? なんか物騒な物が出てきたよね。ボクは、前みたいな現金が良かったな」
と、ミドリちゃんは残念そうに言った。
「で、これは何だい? 勇者クンの眼鏡で調べてみてよ」
と、ミドリちゃんに言われて、俺は『魔法の眼鏡』で鑑定してみた。
「えーと、何なに……『猛者のカイザーナックル』、着けた者の攻撃力を十倍にする、だって」
「ふむ、なら、くの一クンにぴったりだな。そうだろ、勇者クン」
「えっ、うちなんかが使ってええんかいな」
シノブちゃんは、ちょっとビックリしていた。
「格闘戦の得意なシノブちゃんに、ピッタリのアイテムじゃぁないか。遠慮せず貰っときなよ」
俺がそう言うと、シノブちゃんは頭を掻きながら、祭壇からナックルガードを手に取ると、両手にはめた。
「どうでござるか、くノ一殿」
サユリさんも興味があるようだ。
「うん、なんかしっくりくるな。うちの手にぴったりやで。さてさてぇ、どのくらいパワーアップしたか、ちょっと使ってみよか」
シノブちゃんはそう言うと、近くに立っていた差渡三メートルはありそうな大木に、正拳突きをヒットさせた。
大木は一瞬、<ミキッ>と音を立てると、打撃点を中心に丸く粉々になった。スゴイ威力である。しかし、見とれている訳にはいかなかった。その大木がこちらに倒れてきたからだ。
「うわ、わぁ。危ないなぁ」
そう言って大木を支えていたのはミドリちゃんだった。
「こらこら、勇者クンや巫女クンに当たったらどうするんだよ。もう、「モルブレン」」
と、ミドリちゃんが呪文を唱えると、大木は分子分解されて、茶色い霧になった。
「あっはっは、すまんなぁ。これ、結構使えるで。ありがたく使わせてもらいまっせ」
と言いながら、シノブちゃんは苦笑いをしていた。
てなことで、無事(ではなかったが)遺跡を攻略した俺達は、次のアマテラスの祭壇を求めて街を旅だったのである。




