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再戦(10)

 俺達は力を合わせて、やっとこさ、大量の瘴気を排除することが出来た。


 しかし、瘴気に冒された木々や草は黒く腐って溶けてしまっていた。これを元に戻す方法を、俺達は知らない。


 俺達は、腐臭を放つ木々を抜け、遺跡を目指した。

 しばらく歩くと、森のほぼ中央に五本の柱に囲まれた祭壇のようなものが設置されていた。

「やった、アマテラスの祭壇だ。やっと見つけたぞ」

「ほうほう、これもアマテラスの祭壇でっか。うちには、なんか、ただの石の塊にしか見えへんなぁ」

 くノ一のシノブちゃんが、失敬な事を言った。

「でも、これは何だ? 前の遺跡には、こんな石柱なんて無かったよね」

 魔導師のミドリちゃんは、遺跡の周りに立っている黒っぽい石柱が気になっているようだ。

巫女(みこ)クン、この柱が何だか分かるかい?」

 そう言われた巫女ちゃんは、サンダーの元から走ってくると、石柱を眺めていた。しかし、すぐに蒼い顔をして、その場にしゃがみこんでしまった。

「どうしたんだい、巫女クン? どっか具合が悪いのかい?」

 ミドリちゃんが巫女ちゃんを介抱する。と、巫女ちゃんは、

「これは、『邪の者』です! 邪気が硬質化した、純粋な邪気の塊です。これで、五芒星形結界を作って、アマテラス様の祭壇を封印しているのです……」

 と、それだけをようよう話すことが出来た。

「ていうことは、この柱をぶっ壊せば、オッケイな訳やな」

「そうですが……、これだけの邪気の塊です。迂闊に近づくと危ないのですよ」

「そんなん、知らへんがな。こうやってぶっ叩けばええんやないか」

 と、巫女ちゃんの制止も聞かすに、シノブちゃんは柱の一本に近づくと、無造作に蹴っ飛ばした。すると、<ガツン>という大きな音がして、シノブちゃんはその場にひっくり返ってしまった。

「いてててててて。こいつおもいっきり頑丈やで。足、折れそうやわ」

「姐御、大丈夫っすか」

「おう、これくらい、くの一のシノブさんには、どうってことないわ。次はどうしてくれようか」

 恨み言をいうシノブちゃんに、サンダーが声をかけた。

「拙者がやってみるでござる」

「サンダー、やってくれるか。頼むよ」

「任せるでござる。とぉ~りゃ~」

 今度は、<バベキ>と、さっきよりも大きな音がしたが、石柱は無傷のままだ。代わりにサンダーがひっくり返っていた。

「大丈夫か、サンダー」

 足を抱えて転げまわっているサンダーに、俺は声をかけた。

「痛い、痛いでござる。超ロボット生命体の拙者に痛みを味あわせるとは、なかなかやるでござるな」

「サンダーでもダメか……。こりゃぁ一朝一夕にはいかないなぁ。これは、もう一度ブレイブ・サンダーに合体してもらうくらいしか、思いつかないや」

 とミドリちゃんが、考え込んでいた。


 すると突然、辺りに霧が出てきた。


(何で? こんなところで、突然に霧なんて……)


 と、俺が訝しんでいると、いつの間にか皆の姿が見えなくなっていた。何だいったい。俺は辺りを見渡したが、霧が濃くてよく分からない。方向感覚までおかしくなってきたようだ。こんな時は、慌てず騒がず、じっとしているに限る。


 と、そうするうちに、霧の向こうに人影のようなものが見えた。誰だろう? 誰でもいいや。こんな怪しいところに一人っきりなんて、おっかなくってしようがない。

 俺が人影に声をかけようとした時、影の主が急に鮮明になった。のみならず、こちらに向かって話しかけてきたのだ。

「よう、()。調子はどうだい?」


(え、え? えええ~。俺じゃん。何で?)


「驚くなよ俺。俺はお前に決まってるだろう。今日は、ちょっとお灸を据えに来たのさ」

 お灸を据えにってどういうことだ? しかし、いきなり俺の分身が現れたのには驚いた。

「お、お前、俺なのか?」

 と、思わず、声に出して訊いてしまった。

「そうさ、俺はお前だ」

「へ? じゃぁ俺は誰だ」

「さぁ……よくは分からんが。お前も俺だろう」

「じゃぁ、二人共、俺なのか?」

「それは違うだろう。片っ方は偽物のはずだ。俺が二人いるなんて、変だろう」

「そりゃそうだな。じゃぁ、お前が偽物だな」

「何を言う、お前こそ偽物だろう」

「なら証拠を見せろよ」

「おお、見せてやる。これだ! この左肘にある痣は、俺が小学校五年生の時、好きだった女の子に振られた帰り道で転んだ時に出来たものだ。どうだ」

「そんなもの、俺にだってあるぞ。ほら」

「あ、ホントだ。じゃ、じゃあ、お前。お前は証拠を持っているのかよ」

「ああ、これだ。この頭の後ろの丸いハゲは、俺が小学校三年生の時にカラスに突付かれた時に出来たものだ。お前にはあるまい」

「ざぁ~~~んねん。そんなもの、俺にだってあるもんね。ほら」

「あ、本当だ。クソ。ならばこれを見ろ。これこそ……


 という言い合いが延々と続いたが、どっちもどっちである。分かったことは、俺には辛い過去が山のようにあるって事だけだった。俺って勇者なのに、こんなにダメダメだったんだ……。

 その場には悲壮感が漂っていた。


「おい、お前。俺のくせに、もっと楽しい思い出は無いのかよ」

「お前こそ、五歳の時におねしょした事まで覚えてやがって。いい加減、そんな暗い過去は忘れろ」

「お前こそ、振られた話ばかりしやがって。俺は、今はモテモテなんだぞ」

「あれがか? 単に他に男がいないからじゃないか。あんなのは実力じゃない」

「なんだとう。じゃぁ、言ってみろ。お前は誰が好きなんだ」

「え……、誰って……、決められないよ、そんなの。皆、可愛くて美人だもの」

「だから、優柔不断だと言われるんだ」

「なにおう。お前こそ、一人に決められるのか!」

「え? あ、あーと。……やっぱり、愛は皆に振りまかれるものだからぁ」

「お前だって、決められないじゃ無いか。優柔不断な奴め」

「お前にだけは言われたくなかったな」

「俺だって」

「なにおう。なら、こいつで決着をつけるか」

 目の前の俺が持ち出したのは、勇者の木刀だった。

「望むところだ。こっちだってあるぞ。勇者の木刀だ」

「ふん! そんな偽物に、本物の俺が負けるはずがない。そら、かかってこいよ」

「なにを、偉そうに。お前からかかってこいよ」

「この格下が。かかってくるのはお前からだ」

「いいや、お前がかかってこい」

「ダメだね。お前だよ。ほら、かかってこいよ」


 …………


 こんなやりとりが、何十回と繰り返された。

「……おい、お前。俺は気がついたんだが、このやりとりって、不毛って言うよな」

「そうだな。俺も同じことを考えていた。不毛だ」

「やっぱり。お前は俺だ。間違いない。認めてやる」

「お前も俺なんだな。全くもって同意見だ」

「じゃぁ、どうする?」

「少し休むか。腹も減ってきたし」

「そうだな。巫女ちゃんの、お弁当もあることだし」

「そうそう、飯だ、飯」

「お前、意外と意見が合うなぁ」

「そりゃそうさ。俺はお前なんだから」

「はははは。お前、結構いいやつだな」

「そうだな。なんせ俺だからな」

「いい事言うね。折角だから、弁当のおかずを分けてやろう。ほら、巫女ちゃんお手製の『異世界の珍味』だぞ」

「えっ。それはぁ……、いいよ。俺のにも入ってるし。ほら」

「あ、本当だ。そっちにも巫女ちゃんがいるんだぁ」

「この、『精のつく珍味』だけは勘弁して欲しいよな」

「全くだよ。お前も、苦労しているなぁ」

「お前もだよ」

「俺達、なんか友達になれるな」

「そうだな、仲良くなれたらいいよな」


 という訳で、俺は『邪の者』が生み出した幻影で心理攻撃を喰らっているのにもかかわらず、のほほんと弁当を食べていたのだった。




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