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再戦(8)

 破壊邪皇(はかいじゃおう)から漏れ出した瘴気(しょうき)は、広場を満たすと、遺跡を包み込もうと流れていった。


 悍ましい黒い霧は、うねうねと意思を持つかの如くに遺跡のある森の方へと進んでいた。

「あの瘴気がラスボス的なものなのかな、勇者クン」

 魔導師のミドリちゃんが、そう断定した。

「そうだけど、あんなガスみたいな、雲みたいなモノを、どうすりゃいいんすか? こりゃ、いくらなんでもお手上げっすよ。まだ、大怪獣のままの方が、ずいぶんとマシっす」

 俺は、策に詰まって、うっかりと、そう言ってしまった。

「スマンでござる。拙者がうっかりとキャツめを切り裂いてしもうたせいで……。一生の不覚」

 と、サンダーが悔しそうに言った。

「いや、別にサンダーが悪いって言ってる訳じゃないよ。『邪の者』も手強くなったってことだよ」

 俺はサンダーの所為みたいなことを言ったので、あわてて取り繕った。

「ボクが炎で焼いてみようか」

 と、ミドリちゃんが提案した。

「出来るの!」

「いや、分かんないけど。取り敢えず、やれそうな事からやってみようと思ってね」

 と、ミドリちゃんは応えた。

「サンダー、もう少し降下してくれないかな。ボクの炎が届くように。……そうそう、この辺で止まって。じゃぁ、やってみようか。『フレアバーン』」

 ミドリちゃんが呪文を唱えると、超高温の炎が手から放射された。瘴気は炎に焼かれて気化していったように見えた。

 しかし、火炎魔法で焼けたところは、見る間に復元して元の姿を取り戻した。

「やっぱり、この程度の火力ではダメか……。火山爆発並みの火力と熱量が要るみたいだね」

 と、ミドリちゃんは考えこんでしまった。


(焼くのはダメかぁ。もちろん、殴ったり、切ったりの物理攻撃は効かないと思うし。どうすればいいのよぉ)


 その時、俺はあることを思いついた。

「そうだ、ミドリちゃん。冷気で凍らせるのはどうかな。あの瘴気も凍らせれば、さすがにどうにも出来ないと思うんだけど」

 ミドリちゃんは、俺の話を聞いて、しばらく難しい顔をしていた。

「原理的には可能だと思うよ。でも、あれだけの量のものを凍らすには、相当量の冷気が必要になる。それに、冷却系の呪文は、爆熱系の呪文と違って、単純に魔法力を冷気に変えるだけじゃダメなんだ。冷やすってことは、そのために吸い取った熱量を、どこかに捨てなくちゃならないんだ。普通は術者が体内で代謝しちゃうんだけど、あれだけの量だと、ボクの身体が持たない。代謝しきれなくて、ボク自身が燃えちゃう」

 あああ、これもダメかぁ。他に何かないかなぁ。

「あ、せや。こういう奴って、どこかに全体を操ってるコア(・・)とか本体(・・)とかがいて、そいつをつぶせば万事オッケイ、なんて事はないかいな」

 くの一のシノブちゃんも、自分の考えを提案してくれた。

「くの一クン、脳みそまで筋肉だと思ってたけど、ちゃんと考えられるんだねぇ。驚いたよ、ボク」

 ミドリちゃんが余計なことを口走った。でも、シノブちゃんの考えは、結構当たってるかも知れない。

「巫女ちゃん、あの瘴気の中に、本体のようなものは感じられるっすか?」

 俺はダメ元で訊いてみた。

「えーっとぉ、う~~~ん、そうですねぇ。……瘴気の中は濃密な邪気で満たされていることは分かりますが、本体のようなモノは感じられません。瘴気の外側の方は、多少邪気が薄いようですが……。中は一様に濃い瘴気の塊ですね」

 ああ、ダメかぁ。そうだよな。低い方へ流れているだけで、さっきのミドリちゃんの攻撃にも、反撃は無かったし。ただの瘴気の塊なのかなぁ。

「拙者のセンサーで探ってみても、本体のようなモノは、見つかりませなんだ。瘴気の動きから見ても、何か意思があるとか、誰かに操られているような状態では無いようでござる」


(う~~~ん、これじゃぁ、本当に打つ手が無いぞ。困った)


 その時、サユリさんが、おずおずと手を挙げた。

「あのう、それがし、思いついたことがあるのでござるが……」

「な、何! 何か、いい方法を思いついた?」

 俺は藁をもつかむ思いで、サユリさんに詰め寄った。あまりに俺ががっついたからなのか、サユリさんは、少し恥ずかしそうに後ろに下がった。

「勇者クン。がっつき過ぎ。サユリさんが、困ってるじゃないか」

 と、ミドリちゃんにも指摘されて、俺は少し引き下がった。

「まぁ、上手くいくかどうかは分からんでござるが。この世でどうしようも無いのでござれば、この世ではないどこかに捨ててしまうのはいかがでござろうか」

「捨てる? 捨てるって、何処に?」

「えーと、ほれ、異次元とか、亜空間とかに封じ込めるのでござる。それがしも、勇者殿も、亜空間系の技を使えるのでござる。さすれば、ブラックホールとかワームホールとか、異空間への入り口を作って、瘴気を吸い込んで閉じ込めることが出来るのでは無いかと……。ははは、無理でござるな」

 と、サユリさんは頭を掻きながら照れ笑いをしていた。

 俺達は皆で、じぃーっとサユリさんの顔を見つめていた。

「それ、……いいんじゃないかな」

「うちも、何かいけそうな気がするわ」

「そうだよ、実際にブレイブ・ローダーは、亜空間に待機しているんだから、出来ないことは無いと思うよ」

 俺達はこぞってサユリさんの案に賛成していた。

「問題は、その亜空間の入口をどうやって作るか? ……だな」

「だね」

「せやな」

「そうでござるな。少なくとも、ブレイブ・ローダーと同じ空間に繋がっては、元も子もないでござる」

 せっかくサユリさんが名案を授けてくれたのに、肝心のところで俺達は悩んでいた。


「あ、あのう、……異空間の入口ならば、それがしが作れるでござるが……」


 再び、サユリさんがおずおずと小声で発言した。俺達は、一斉にサユリさんに目を向けると、

「ほ、本当!」

「さすがは、剣士さんや。鳳凰院流(ほうおういんりゅう)は無敵やなぁ」

「頼んます、サユリさん。是非ともお願いします」

 周りじゅうから一斉に頼まれて、サユリさんはあたふたしていた。


「い、いや、……あの。それがしも、上手く出来るかどうか、自信が無いのでござるが……」


「大丈夫。サユリさんならきっと出来るさ。で、俺達は何をすればいい?」

 と、俺は、期待を込めて質問した。

 サユリさんは、小声で、呟くように返事をした。

「ふ、二つあるでござる。ひ、一つは、それがしが封印空間を作る間、あの瘴気の塊を一時的にでもいいので、どこかに隔離すること。もう一つは、封印空間を作る為に、アマテラスに祈りを捧げて欲しいのでござる」

「祈る……ですか?」

 二つ目のお願いに対して、巫女ちゃんが問い返した。

「そうでござる。()に対しては()の気を練る必要があるでござる。それがしの剣舞『破邪封滅の舞』のみでは、成功率が低いのでござる。そこで、()なる神──アマテラスの力を借りたいのでござるよ」

 そうか、アマテラスの力を借りるのか。それはいい案には違いない。なんたって、こっちには巫女ちゃんがいるんだから。

 しかし、どうやって、あの瘴気を封じ込める? う~~~ん、難しいな。


 俺は、せっかく出て来た名案の実行方法について、どうすれば良いかを考え込んでいた。




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