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新たな遺跡へ(8)

 街外れの遺跡を偵察した翌日、俺はチームの皆と今後の対策を立てることにした。


 とにかく、今度の遺跡はガードが硬い。ゾンビの大群は未だまだ先方に過ぎないだろう。その奥に、どんな怪物が、どのくらいいるのか? まるで検討もつかない。

「取り敢えず、流星号の走った道をトレースしてみよう」

 俺は、こう提案した。

「まぁ、意味があるかどうかは分からないけどね」

 目の前の魔導師は、そう言って混ぜっ返した。俺が、渋い顔をしていると、

「あ~、悪かったよ、勇者クン。じゃぁ、サンダーが印刷してくれた地図でも見ようか」

 と、改めて仕切りなおしてくれた。俺が大判の紙をテーブルに広げると、それは簡略化された地形図だった。中に書き込まれた赤い線は、昨日、流星号と辿った道筋である。

「けっこう、走ってるなぁ」

 シノブちゃんが、そう評した。

「恐ろしい程のスピードだったっすからね」

 俺は昨日の爆走を思い出すと、シノブちゃんを睨んで、そう答えた。

「せやろ。いい走りやったぁ。勇者さんも、スカッとしたんやろ。なっ」

 何が、「スカッとした」だよ。こっちは、死ぬかと思ったよ。

「まぁまぁ、そのへんにしてくれないかなぁ。この街の本屋で買った地図や空撮と比べても、ほぼ一致しているよね。だとしたら、目的地の遺跡に着くまで、まだ3キロ以上はあるってことになるかな。この3キロをどうやって突破するかだよね。さすがにハイドラ級の大怪獣は居ないと思うけど、巨人ゴーレムくらいなら出てきても不思議じゃないと思うんだ。どうかな、勇者クン」

 ミドリちゃんの質問に、俺は、こう応えた。

「そうさなぁ。ミドリちゃんの言う通りかも知れないっすね。今回は、ちょっとキツイかも……」

 俺はそう言って、皆の顔を見渡した。すると、巫女(みこ)ちゃんが、

「わたくしの探知魔法でも、恐ろしいほどの密度の邪気が重なって感知されました。あまりに、強すぎて、多すぎて、個々の判別が全く出来ませんでしたわ」

 と、魔法探知の結果を言った。

「これは、『ド真ん中一点突破』やな。突進あるのみや」

 と、シノブちゃんが物騒なことを言い始めた。

「それで、突破できればいいけどね。下手をすれば、一発で玉砕だよ」

 ミドリちゃんが反論する。

「せやけど、……なら、どないな手があるねん」

「それはぁ、……無いけど」

「だよなぁ……」

 それを最後に、誰も口を開かなくなった。う~、これじゃぁ、攻略の糸口も見えないよ。

 俺が困っていると、巫女ちゃんがこう言ってくれた。

「そもそも、「何故この遺跡がこのように強固に守られているか」を調べてみませんか? 何かヒントが得られるかも知れませんよ」

「そうか! なら、この街の故事について調べてみるか。行くとしたら図書館? かなぁ」

 すると、ミドリちゃんが、

「勇者クンならそう来ると思って、街の故事古譚を記していそうな本をピックアップして、リストにしてあるよ」

 そう言いながら、美貌の魔導師はA4版ほどの紙束を、俺に渡してくれた。

「あらら。これはご丁寧に」

「勇者クン達が偵察に出ちゃってて、ずーーーっと暇だったからね。サンダーと一緒に調べておいたんだ」

「助かるっすよ、ミドリちゃん」

 嫌味を隠さない魔導師に、俺は苦笑いをしながらそう言うしかなかった。

「ほんじゃぁ、これから皆で図書館まで直行や。ああ、でも、うち、腹減ってきたわぁ。図書館に行くついでに、上手いモンでも喰いに行こ」

「くの一クン、出掛ける目的って分かってる? 図書館に行くんだよ。それに、ご飯時にはまだまだ時間があるじゃないか」

「分かってる、分かってるって。善は急げやろ。なら、はよ、行ってみよ」

「くの一クン、本当に分かってんだろうね」

 ミドリちゃんは、不審げな目で、シノブちゃんを眺めていた。



 俺達はサンダーと流星号に乗せてもらうと、街の図書館にやって来た。

「おお、すごいで。ぎょうさん本があるなぁ」

「すごいですぅ。わたくしも、今、初めて見ましたぁ」

「そうか、巫女ちゃんは、図書館は初めてだっけ」

「はい。良いご本が見つかると、よろしいですわね」


(ああ、場が和らぐぅ。癒し系の巫女ちゃんが居るだけで、こうも場の雰囲気が変わるものなのか。これは、これからも大事に扱わないといかん。チームの結束の為だ。そう、結束の為なんだよ)


 てなことを、俺が考えていると、ミドリちゃんが左手に紙束を持って現れた。

「はい、これ本のリスト。皆で手分けして調べるよ。あと、図書館なんだから、騒がない。君たち分かってるよね」

 ミドリちゃんは、そう念を押すと、紙を一枚ずつ皆に配っていった。ついでに、ジロリと一人ひとりの目の奥を凝視していく。

「魔導師様は、手際がよろしいのですね」

「当たり前だ。ボクは魔導師だぞ」

「う~、うち、こんな難しい漢字の本なんて読めへんわぁ」

 シノブちゃんが、頭を抱えながら、リストを眺めていた。

「くの一クン、そんなんで、よくこの異世界を生きてこれたねぇ」

「もっちのろん。全て、うちの野生の勘が教えてくれたからな。あっははははは」

「あ、ああ、そう……。ボクも、なんとなくそうかな? って思ってたよ。じゃぁ、くの一クンはこっちのリストね。比較的優しいのにしといたから」

「そりゃ助かるわ。おおきにな、魔導師さん」

 シノブちゃんはそう言うと、紙っぺらを持って本棚の奥に消えていった。

「本当に大丈夫なのかなぁ」

 ミドリちゃんは、心配そうにシノブちゃんの歩いて行った方向を眺めていた。ミドリちゃんもシノブちゃんも、一見仲が悪そうだが、実は案外お互いを気遣っているのかも知れないな。

 さて、俺の探す本はどっちかな? 俺達は、めいめいに情報を集めるために図書館の中を探索していた。


 俺がリストに従って目的の本を探していると、見知った顔を見かけた。女剣士のサユリさんである。俺が近づいて声をかけると、彼女は振り向いてこう言った。

「ああ、どなたかと思ったら、この間の勇者殿ではないか。それがしは、この街は初めてでござるからな。見知った顔があると、心強いでござる」

「サユリさんは、もう退院したんですか? かなりの深手に見えたっすが」

「ああ、病院でござるか。適当に誤魔化して、逃げ出してきたのでござる。一日中ベッドの中にいるのは、居心地が悪くて。決して、治療費がもったいない訳ではありませんぞ」

「でも、それじゃぁ、いつまでたっても傷が癒えないじゃないですか。ここの入院費はキャラバンが出してくれてたんでしょう。だったら、きっちりと治るまで入院してなきゃ」

 俺がそう言うと、サユリさんは頭を掻きながら、

「いやぁ、それがしも、ただで入院しているのは気がひけるのでござる。とは言え、街を大手を振って歩くわけにも行かず、ここで暇をつぶしておったところでござるよ」

 サユリさんはそう言って、ハハハと笑っている。いや、気持ちは分かるが、そんなんじゃ身体がもたないぞ。

「ところで、勇者殿は何をしておるのでござるか?」

「え?」

 俺はサユリさんから質問をされて、一瞬呆けてしまった。

「?」

 ちょっとの間をおいて、俺は我に返ると、

「ああ、ちょっと調べものっす。この街で噂になっているパワースポットの件で」

 と、少し口を濁すように言った。

「パワースポットの事でござるか。それがしも興味を持っておったところでござる。それで、何か分かったでござるか?」

 そう訊かれても、俺にはまだ何にも分かっていない。

「いやぁ、残念ながら全然分からないっす」

 と、照れ笑いを浮かべながら、俺は頭を掻いていた。

 一方のサユリさんは、腕を組んで、何かを考えているようだった。

「どうしたんすか?」

 俺が訊くと、サユリさんは少し難しい顔をしながら、こう言ったのである。

「その、パワースポットとやら、どうしても行かなければならない場所でござるか?」

 俺は、困ってしまったが、事情を話してみることにした。

「実は俺達が気になっているのは、パワースポットじゃなくって、遺跡の事なんすよ」

「ふむ。遺跡とな」

「先日、おおまかな事を話したっすが、俺達は、『アマテラスの祭壇』と呼ばれる『古代遺跡』を探して、浄化する旅を続けてるんす」

 俺は、この異世界が、太古の昔、『アマテラス』と呼ばれる神のようなモノに支配され、秩序ある正しい姿をしていた事。そこに『邪の者』と呼ばれる異形の何かが入り込んで、アマテラスの祭壇を封印し、異世界人を傷つけたり封印して、この異世界の秩序を乱した事。そして、勇者は、かつての異世界を取り戻す為に、アマテラスに呼び出された者達であり、この異世界を救う使命を帯びている事を話した。

 サユリさんはそれを聞いて、

「ふむふむ。では、ここのパワースポットも『アマテラスの祭壇』ではないかと、勇者殿は考えているのでござるな」

「サユリさんも元勇者だから、何となく分かると思うっすが、異世界に勇者として呼び出されたからには、何か使命があると感じなかったっすか?」

「そうでござるな。それがしも、初めて勇者として異世界の大地を踏みしめた時、何をすべきかよく分からなかったでござる。最初は、悪者を斬って倒しておったが、それも何だか違うような気がしていたでござる。そして迷いの果て、それがしは『勇者』を棄てて『剣士』として生きることを選んだのでござる。……しかし、勇者にそのような使命があったとは。今まで気が付かなかったでござる。それがしは、まだまだ修行が足りないでござるなぁ」

 サユリさんは、少し悲しそうな顔をして、そう言った。

 俺は、声をかけようとしたが、何故か出来なかった。そんな俺の様子を察してか、サユリさんは、

「まぁ、そんな勇者の使命に気がつくあたり、今度の勇者殿は優秀でござるな。それがしも、見習わなければならないでござる」

 と、笑いながら返事をした。俺は、恥ずかしくなって、

「俺だけの力じゃないっす。仲間の皆の助けがあって、初めて出来たことっす。……あっそうだ。サユリさん、俺達の仲間になってくれないっすか。今度の遺跡は、敵がもの凄くたくさん居て、尋常な方法じゃ、攻略できそうにないんすよぉ」

 と、無鉄砲にもお願いしてしまった。

 サユリさんは、一瞬、困ったような顔をしたが、少し考えると、

「そうでござるな。それがしは、これまで一匹狼でやってきたものの、古傷が治りきらず、剣士の仕事はもう無理かも知れぬと思っていたのでござる。でも、これで余生を過ごせるかというと、血が騒ぐのも事実でござる。ここはひとつ、勇者殿の提案に乗ってみるのも悪くはないかも知れないでござるな」

 と、にっこり笑ってそう答えてくれたのだ。

「そうっすか! それは俺っちもありがたいっす。うちには治療魔法が使える巫女ちゃんがいるから、サユリさんは、無理をしないで、傷を直しながら俺達を手伝ってくれればいいっす」

「巫女殿とは……おお、あの可愛らしい娘でござるな。それは、それがしにとってもありがたい。よろしくお願いするでござる」

「こちらこそ、よろしくっす」

 俺はそう言ってサユリさんの手を取ると、皆のところに連れて行った。




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