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新たな遺跡へ(5)

 俺達の目指していた遺跡は、上空十数キロまでに達する『魔法干渉フィールド』に覆われていた。てっきりミドリちゃんの浮遊魔法で山を越えて行けると思っていたのだが、これは意外な伏兵だった。


 どうも、このフィールド、地面の上を歩いて通る分には問題ないようだった。しかし、空から山を越えるのは無理のようだ。

 そこで今回、俺はシノブちゃんと二人で偵察を行うことにした。勿論、バイクロボの流星号に乗って、だ。


「ヒャッホウ、ガンガン走るぜ」

「せやせや、かっ飛びや。勇者さん、しっかりつかまっとらへんと落っこちるでぇ」


(うっひ〜。この曲がりくねった山道を高速道路のようにかっ飛ばすなんて、聞いてないぞ。落ちる、落ちる、落ちるぅぅぅぅ)


 俺は声にならない悲鳴を抑えながら、シノブちゃんにしがみついていた。

「勇者さん、積極的やなぁ。走ってる最中にオッパイ握ってくるなんて。うち、恥ずかしなるわぁ」

「そ、そ、そ、そんな事言われたって、……ウッヒャァ、だずげで」

 そんな、俺を放っといて、流星号は山道を疾走していた。


 しばらく道を進むと、俺の『魔法の眼鏡』が異常を伝えた。

「シノブちゃん、ちょっとストップ」

「なんやぁ、勇者さん。もうヘバッたんかいな。これから、もっとスピードアップするとこやんか」

「違う違う。前方に敵反応。何かがたくさん、いや、無数に潜んでいるっす。もしかすると、もう囲まれているかも知れないっす」

「もう囲まれたって、……何にもおりゃぁせんで。なんやろな?」

「だから、とにかくストップ!」

「りょ、了解」

 そうして、シノブちゃんはやっと流星号を停めてくれた。

「勇者の旦那、おいらの赤外線センサーには、何も反応無いぜ。旦那の見間違いじゃないっすか?」

「せやせや、こっからが、本番かっ飛びなんやで。勇者さんは、怖がりやなぁ」

 シノブちゃん達はブーブー言っていたが、俺は魔法の眼鏡で周囲を探索していた。この反応は……、

「ゾンビっす! ここの地下に、ゾンビが無数に埋まっているっす」

 俺は、ゾンビが居るというよりも、その数に驚いていた。いったい、どのくらい居るのかも判別できないほどの、多さだった。

「ぞ、ゾンビやって? 何やそれ」

 シノブちゃんが、俺の言葉に反応する。

「動く死体だよ。もう死んでるから、打撃系の攻撃も効かないんすよ。それに、体温なんてほとんど無いみたいなもんだから、赤外線センサーにも反応しないんす」

 俺が説明を言い終わる前に、地面や崖の中から、吐き気をもたらす者が這い出る気配があった。それはだんだんに強くなり、遂には、土が盛り上がり、半分腐った手が、そこら中の地面から生えてきた。

「何じゃこりゃぁ。うっわー、臭いなぁ。気持ち悪ぅ」

 さすがのシノブちゃんも、驚きの声を上げた。

 そのうちに、地面から骸骨にボロ雑巾をかぶせたような頭が現れると、異形の者達が、そこここから這い出して地面に立ち上がった。

「だ、旦那。こいつらが、……ぞ、ゾンビっすかい?」

 流星号も、少し驚いていた。サンダーのデータ映像でゾンビについての知識はあっても、実際に見るのとは違う。

「そうっす。動く死体──ゾンビっす。戦闘力はそんなに高くないけど、どんなに攻撃しても効かないし、もう死んでるから殺すことも出来ないっす。炭になるまで焼くか、ミドリちゃんの分子分解の魔法で塵に返すしか方法がないんすよ」

 俺がそう応えると、シノブちゃんは両手を合わせて、指をバキバキと鳴らした。

「ええやんか。もう死んでんやったら、何やってもええってことやな。勇者さん、久し振りに、手加減無しでやらしてもらいまっせ」

「うっしゃ、姐御。ガチっすね」

 流星号はロボモードに変形すると、その細い腕をグルグルと回し始めた。


(ゾンビの相手って、すっごく面倒臭いんだけど。この人達、解って無いなぁ。こうなったら仕方がないかぁ)


 俺は諦めて腰の勇者の木刀を抜くと、青眼に構えた。

 一方のゾンビ軍団は、いつもの如く俺達を囲むと、ノロノロと近づいてきた。

「そんなノロマに遅れを取るようなシノブさんじゃあらへんで。うりゃー」

 シノブちゃんは掛け声も高らかに、ゾンビの一体に近付くと、そいつを抱え上げた。

「うっしゃー。くノ一バックブリーカー!」

 グシャ、っと嫌な音がすると、頭から地面に叩きつけられたゾンビの首が、異様な方向に折れ曲がった。

「次っ! くノ一延髄切り」

 近くにいたゾンビも、シノブちゃんのハイキックで、首を真横にへし折られて吹っ飛んで行った。

「お前も地獄に帰れ! くノ一パイルドライバー」

 シノブちゃんに抱えられたゾンビは、宙で反転させられ、地面に頭から叩きつけられた。そのまま頭を潰されて、地面に突き刺さる。

「どや。うちの忍術殺法は。抵抗することも出来んか。あっはっは」

 だが、高らかに笑うシノブちゃんを嘲笑うかのように、首を折られ、頭を潰されたゾンビが、ノロノロと立ち上がると、再び俺達に近づいてきた。

「ええっ。嘘や。頭潰れてんのに、死なへんなんて。なんっちゅう気色の悪いやっちゃ」

 シノブちゃんは、渋い顔をして気持ち悪がっていた。

「だから、もう死んでるんすよ。だから、これ以上殺せないんす」

 俺はシノブちゃんにそう言うと、木刀を横一文字に振るった。手近のゾンビの何体かが、胴体を切断された。

「おっ、勇者さん、やるなぁ。さすがに今度は死んだやろ」

「シノブちゃん、よく見てよ、こいつらを。胴体を切り離しても、無駄なんだ」

 俺の言う通り、ゾンビの下半身は何事もなかったかのように、こちらに歩み寄ってくる。そして、地面に転がった上半身も、腐った内臓を引きずりながら俺達に這い寄ってきたのだ。

「ななな、何やこれ。胴体切り離されても、寄って来るで。こんなん、どないすればええんや」

 シノブちゃんは、力技が通じないと分かると、腰が引けてしまったようだ。というよりも、見た目のグロさとエグさに参っているようだった。

「コイツ等は、動く死体。だから、焼くか粉々にするかじゃないと倒せないっす」

 俺は、再度シノブちゃんに説明した。

「じゃぁ、勇者さん、どないするんや?」

 俺はしばらく考えて、

「逃げる!」

 と、答えた。

「ええっ。そんな、勇者さん。逃げるったって、もう囲まれとるで。どないしよ」

「こうするのさ。頼むぞ勇者の木刀。一文字崩し」

 俺は、勇者の木刀で地面すれすれを水平に薙いだ。眼前のゾンビが数十体ほど、足首を切断されて地面に転がった。

「行くっすよ、シノブちゃん。足を潰せば、殺せなくてもスピードが鈍る。後は、その隙に逃げるっすよ」

「わ、分かった。流星、変形や」

「オッケイ、姐御」

 そう言うと、流星号はバイクに戻った。

「勇者さん、早よう」

「分かってる。それ、亜空破断」

 更に百数十体のゾンビが、いっぺんに足を切断されて、地面に転がった。

「よし、今っす」

 俺がシノブちゃんの後ろに飛び乗ると、流星号は急発進した。そのまま、倒れたゾンビを踏み潰しながら、元来た道を逆走し始める。

「流星、機関砲! 足元を狙うんや」

「ガッテンだ、姐御」

 流星号は、弾幕の雨をばら撒きながら、ゾンビ軍団の間を、右に左に抜けて行った。ゾンビが吹っ飛ぶ度に、腐った汁のようなゾンビの体液が俺達に降り注ぐ。臭いのと気持ち悪さで、俺は吐きそうになっていたが、今はそんな暇は無い。


 三十分程も、そうやってゾンビを薙ぎ倒しながら進むと、俺達はやっとこさ、ゾンビの海を抜けることが出来た。

「念のためや。流星、ナパーム弾や」

「ガッテンだ、姐御」

 流星号が答えると、一旦反転して、ロケット弾のような物を、近づいて来るゾンビの群れに放った。それは、奴らの正面に着弾すると、爆発して炎の壁を作り出した。

 それをモノともしないゾンビ達が踏み込むと、高温の炎で焼かれ、炭になって崩れていった。

「ふぅ。これで、一段落やな。……しっかし、くっさいなぁ、コレ。何とかならんかぁ。うえぇ、吐きそう」

 さすがのシノブちゃんも、ゾンビの腐汁に辟易しているようだ。

「うっひー。とんでもない目に遭ったっす。こんなにゾンビがいたんじゃ、とても俺達だけで突破できないっす。今日のところは、一旦引き返すっす」

「せやな。流星、撤退や」

「しかたねぇっすね、姐御。んじゃぁ、戻りまっせ」

 と言う事で、俺達は命からがら、山道を逆走することになったのだ。




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