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新たな遺跡へ(4)

 その日の午後、俺達は、街から五キロほど離れた山岳地帯に来ていた。


 俺は、昼飯用のフランスパンをかじりながら、双眼鏡を手にしていた。

「やっぱり、ここにも見張りが出ばってるねぇ。どうする勇者クン」

 魔導師のミドリちゃんが俺に尋ねてきた。

 街の図書館で調べた通り、パワースポット──俺達は遺跡と考えているが──へ通る道には、鎖が張られ、『立入禁止』の立て札が立てられていた。しかも、ご丁寧に見張りまで駐屯している。ここを強引に突破すると、街に迷惑をかけちまう。


「う〜ん。他にも入口はあったっすよねぇ。そっち行ってみるっすか」

 俺は、図書館で見たマップを思い出しながら応えた。

「そうだねぇ。でも、たぶん、同じだと思うけどなぁ」

「そうっすよねぇ。さすがに、空からあの高山を越えて行けないっすよねぇ」

 俺が考え込むと、ミドリちゃんは、

「行けるよ」

 と、あっさり応えた。

「そうかぁ、行けるんだ」

「そう、行けるよ」

 …………

「えっ、今、何て言ったの?」

 俺は、言葉の意味を理解すると、ビックリしてミドリちゃんに訊き返した。

「だからさぁ、ボクの浮遊魔法があれば、飛んで行けるって事だよ」

 ああ、魔法かぁ。そうだった。ここは異世界。剣も魔法も、怪獣も、何でもありの世界だった……。

 悩んでいた自分がアホらしくなる。

「え〜〜と、ミドリちゃんの魔法があるから、「山を飛んで越えるのも有り」って事なんデスネ」

「うん。端的に言うとその通りだよ」

「良かったなぁ、勇者さん。魔導師さんがおったら、モーマンタイやで。はっはっは」

「別にくノ一くんが威張れる話じゃないけどさ」

 そうか、いいのか……。

 さて、どうしようか? 魔法で飛んでいけるなら、魔法にしようかな。

「じゃぁ、ミドリちゃん、ちょっと済まないっすが、任せていいっすか?」

「モチロン。任せてくれたまえ。じゃぁ、皆はサンダーに乗ってよ。流星号は……、そうだね、ロボットに変形してサンダーの屋根にでも乗ってくれないかな」

 ミドリちゃんの指示で、俺達はサンダーに乗りこんだ。


「皆乗ったかい? 揺れないとは思うけど、念の為にシートベルトは着用しといて。特に屋根の流星クンはしっかりつかまってるんだよ」

「オーケイですぜ、魔導師の姐御」

「じゃぁ、ちょちょいのちょいで、行きますかぁ。「ボアフロール」。ついでに「イルミラージュ」」

 ミドリちゃんが呪文を唱えると、全員の乗車したサンダーが、ふわりと浮かび上がった。

「おー、飛んだ」

「浮いてます。浮いてますよ、勇者様」

「浮遊魔法の一種さ。ついでに隠蔽魔法もかけといた。可視光も赤外線も、電子機器にもひっかからないよ」

「凄いっすね」

「ボクにしたら、超能力の方が楽だったけどね。持ち上げる重量や範囲で、使う魔法が異なるんだ。色々な呪文を覚えて魔法を使い分けるのは、結構面倒臭いんだよ」

 ミドリちゃんは、異世界に来るまではエスパーだったそうだ。超能力の代わりに、巨大魔法が使えるようになったと聞いている。ミドリちゃんなら、さもありなんと言う経歴である。


(おお。飛んでいる)


 高い山々をものともせず、俺達はビークルモードのサンダーもろとも、空高く飛んでいた。

「これなら、楽ちんっすねぇ。サンダー、念のため、地形を撮影しておくっす」

「心得たでござる」

 空から下界を見渡すと、山を割るようにウネウネとした道が続いていた。ただそれだけである。魔獣が出るとかはどうしたんだろう?


(何にもなけりゃ、このまま攻略しちゃおうかな)


 等と考えていると、突然、サンダーの車体が揺らいだ。

「うわっ。どうしたんすか?」

「ええーと、よく分からないけど。どうも、ボクの魔法と何かが共振しているみたいだ。一旦バックして離れる」

 サンダーの車体が少し後退すると、揺れが無くなった。

「空間に若干の歪みが感知されもうした。この先は、何か遮蔽フィールドのようなもので覆われているでござる」

「こんな高空にかい!? 街の人達が作ったのかな? 一旦、降下しようか」

「仕方ないっす。ミドリちゃん、降ろして欲しいっす」

 空の上で攻撃されたら手が出ない。取り敢えず、地面のある所にまで降りないと。

 ミドリちゃんは慎重に、そしてゆっくりと高度を下げてくれた。

「フィールドまでの距離変わらず。そのまま降下して大丈夫でござる」

「分かった、サンダー」

 ミドリちゃんは、サンダーの報告を聞きながら、高度を下げていった。

 もう地面が近い。遺跡への道もここまで来ると、街の監視カメラも見張りも見当たらない。


 地面に着地すると、ミドリちゃんは、すぐにサンダーを降りて、フィールドのある方向に走って行った。

「うーん、シルド系の防御魔法じゃないなぁ。もっと、こう……、電磁波的なもんだなぁ。ボクの魔法やサンダーのセンサーに感知したって事は、マイクロ波領域? かな。えーっと、形状は筒状……だよね。サンダー、そっちのセンサーではどうだい」

「そのようでござるな。地面の上なら、歩いて通れるようでござる」

 ミドリちゃんの問に、サンダーが応えた。

「ゴメンね勇者クン。ボクの魔法で一足飛びに攻略出来ると思ったんだけど。魔法干渉フィールドまであるとは思わなくって。……て言う事は、魔法じゃなくて、ブレイブ・ローダーで空から突っ込めば良い訳か」

「ミドリちゃん、今回はいつになく過激っすね」

「思うたより面倒やな、この遺跡。山に囲まれている上に、空から入ろうとすると電磁バリアみたいなもんがある訳か。一種の要塞やな」

 シノブちゃんの言う通りだ。敵の護りは堅そうだ。

巫女(みこ)ちゃんの探知魔法で、向こう側に何があるか分からないっすか?」

 俺が後部座席の巫女ちゃんに声をかけると、彼女もサンダーを降りて、ミドリちゃんのいる方へ歩いて行った。

 そのままミドリちゃんの隣に並ぶと、両手を挙げて、真っ直ぐ前に伸ばした。そして、目をつぶって精神を集中させているようだった。

 しばらくすると、巫女ちゃんが口を開いた。

「勇者様、この向こうに『邪の者』の気配が多数感じられます。中には、これまで無かったような強大なモノがいくつか。でも、数は……分かりません。気配は点在しているというより、塗りつぶされているという感じです。とてつもない数、のようですわ」

 俺もサンダーを降りて、二人の横に向かった。

 とてつもない数……か。これまでとは規模が違うな。この先の遺跡がそれ程重要な物、と言うことか。


「よし、偵察をしよう。シノブちゃん、流星号と俺とで、この先へ行けるっすか?」

 俺は、考えた末に、そう決断した。

「そんなん、朝飯前やで。せやな、流星」

「その通りでさぁ、姐御、勇者の旦那」

 流星号はこう答えると、サンダーの屋根から飛び降りてバイクモードに変形した。

「ボク達は居残りかい?」

 ミドリちゃんが、不満そうな顔をした。

「シノブちゃん一人は危険だし、魔法共振フィールドの効果がどこまであるか分からないっす。ここなら確実に魔法が使えるっすよね。ミドリちゃんは、いざという時に皆を護って欲しいっす」

「でも、「いざという時」って……。リーダーが直々に偵察なんて、無茶だよ、勇者クン」

「俺も考えた末の結論っす。流星号、サンダーとのデータリンクは常時継続しておいて欲しいっす」

「お安い御用で、旦那。じゃぁ、姐御も勇者の旦那も、おいらにケツを乗っけて下せい」

「よっしゃ、行くで流星。勇者さんも、しっかりつかまっとらな落っこちるでぇ」

「了解。流星号、頼んだっすよ」

「ガッテンだ。全開バリバリでかっ飛ばしますぜ! ヒャッホウ」

 と言う事で、俺とシノブちゃんを乗せた流星号は、軽快に山岳地帯の道を奥へと向かった。


 この道の先に何が待っているのかも知らずに。




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