新たな遺跡へ(3)
あくる朝、俺はホテルのベッドで目を覚ました。
え〜と、昨夜はどうしたんだっけ? 確か、空いている部屋が大部屋一つだったから、そこに泊まることにして、ホテルのレストランで飯食ったんだった。
そんで、どうしたんだ?
ああ、確かコース料理にワインが出てて、皆で盛り上がってたなぁ。
……そうか、またやっちまったか。酒に関しては、これまで良い経験が全く無いが、今回もご多分にもれず酔っ払っちまったか。よく、部屋まで辿り着けたな。
でも、人間の本能って凄いなぁ。記憶無くても、部屋に帰れるんだ。
さて、仲間の皆はどうしたんだろう?
俺はベッドから半身を起こすと、周りを見渡した。
そこに見えたのは、全裸の少女たちが、キングサイズのベッドのすみに塊って眠っている光景だった。はぁ、またか。お約束は外さないのが、俺達のチームの信条だ。うぐぐ、頭痛がする。やっぱ、飲み過ぎたか。
クソッ、何でコイツラは、いつもいつも全裸で寝るんだよ。かくゆう俺も、今度も二日酔いだ。
「そろそろ起こすか」
俺はブツブツと愚痴を言いながら、愛しい女性達を起こしていった。
「お〜い、もう朝だよ。起きようよ」
最初に反応したのは、くノ一のシノブちゃんだった。
「ふぅ〜わぁ〜ぁ。もう、朝かいな。朝飯なんやろか」
シノブちゃんはベッドに立ち上がると、大きな伸びをしていた。その、本人曰く、『鍛え抜かれた肉体』を見ないようにして、俺は他の娘も起こしていった。
「ほらほら、起きてよ。巫女ちゃんもミドリちゃんも」
「ん? んあ? あ、勇者様ぁ、おはようございます。今日もいいお天気ですね」
「そうだね。じゃぁ、服を着ようね」
「ふにぃぃぃぃ。眠いよう。もうちょっと寝かせて」
「ミドリちゃん、もう朝だよ。朝ご飯の時間だよ。もう起きようよ」
魔導師のミドリちゃんは、まだ寝足りないようだった。
「そうか、しょうがないっすね。じゃぁ、今日の偵察は、俺とシノブちゃんと巫女ちゃんの三人で行くかぁ」
「せやなぁ。たまには、その三人の面子で出かけるのもえーなぁ」
シノブちゃんが話に乗ってくると、ミドリちゃんは、慌てて起き上がった。
「起きた! 今起きた。ボクだけ留守番なんて酷いよ」
「ふぅ。やっと起きたっすか。皆、早く服着てよ。このままじゃあ、朝ご飯に行けないっす」
俺は、二日酔いの頭痛と闘いながら、女性陣に服装を整えるように支持を出した。しかし、本当に分かっているのかな? 少し不安だ。
「俺は、洗面所で顔洗ってから着替えるっす。それまでに服を着るっすよ」
そう言い残して、俺は洗面所に籠もった。
顔を洗ってから、服をゆっくりと着替えて戻ると、三人はもう着替えていた。
巫女ちゃんは、前に街で買った白いブラウスにスカイブルーのミニスカート、ニーソであった。可愛い。良く似合っている。
ミドリちゃんは、チェックの柄のワイシャツにオレンジのキュロットだった。今は、以前よりも少し伸びた髪の毛を、ポニーテールに縛っているところだ。
シノブちゃんは、いつもと変わらず、ティーシャツにデニムのパンツ姿。いつもは髷のように結んでいる長髪は、今は下ろしてある。
うん、よろしい、よろしい。さて、朝食に行こう。
俺達は、ホテルの二階のレストランに向かった。入口でチケットを渡して入ると、朝食はバイキング形式であった。取り敢えず席を確保すると、それぞれ好きなものを取ってきては口に運んでいた。
俺は、白いご飯に焼いた開きと味噌汁だった。やはり、朝はこうでないといけない。しかし、この魚は何だろうな? 本屋の地図にも海は載っていなかったから、どっかの湖ででも採れたもんかな? きっと、正体は知らない方が幸せに違いない。
チームの女子連も、適当に取ってきたものをつまんでいる。どっちかというと、洋風が多いかな?
「このレーズンパンが、美味しいのですぅ」
巫女ちゃんは、すっかり俺達の世界の食生活に馴染んでしまったようだ。
ミドリちゃんは、トーストをかじりながら、異世界魔法大全を読んでいる。
「魔導師さん、行儀悪いで。飯食う時は、飯に集中するもんや」
シノブちゃんが指摘すると、
「いいじゃないか。ボクは勉強に忙しいんだ。もっと魔法の使い方を覚えないと、いざという時に皆を守れない。ボクは、目の前で大事な人が死ぬところは、もう見たくないんだ」
「せやけど……。まぁ、しゃぁないか。うちは、一度に一つの事しか出来へんからなぁ」
シノブちゃんは、そう言いながら豪快にカツサンドをかじっていた。
「さて、今日は、昨日言ったように、遺跡の下調べをしようと思うけど、いいっすか?」
俺が皆に尋ねると、
『異議な~し』
との返事があった。うん、よろしい。
「午前中は、図書館で文献を見せてもらうとして、実際に遺跡へ行くのは午後にしようと思うっす」
俺は、おおまかに決めた予定を口にした。
「一足飛びに、攻略に行かないのかい?」
魔導師のミドリちゃんが、そう訊いてきた。
「せやなぁ。勇者さんも、いつもより慎重になっとるがな」
これは、くノ一のシノブちゃん。巫女ちゃんは、まだレーズンパンをハムハムしている。
「それはそうなんすけど。街が立入禁止にしている所へ、いきなり殴り込みをするのはどうかと思って。監視カメラとか、見張り番とか、居るっすよね」
俺はそう言った。
「まぁ、普通に考えて、そうだろうね。もっとも、ボクの魔法とくノ一くんの陰行の術があれば、平気なんだけどね」
「そうっすけど。何かあった時に、街に迷惑がかかるのは、避けたいっす。最悪、遺跡の魔獣達が街を襲うことも考えなけりゃならないっすよ」
俺は、自分の考えを言った。
「う〜ん。それは、あかんわな。よう分からん相手に真っ正面から突っ込むのは、無謀やさかいな」
いつもから考えると、ちょっと信じられないような事を、シノブちゃんが言った。この人、基本、乱暴者だからな。
「ま、勇者クンの考えは尤もだよ。昨夜だって、サンダーに言って、図書館の文献や蔵書を検索してもらったよね。サンダー、リストは整理出来たかい?」
ミドリちゃんが、腕のレシーバーでサンダーを呼んだ。
<お望み通り、出来上がっているでござる>
レシーバーから、サンダーの返事があった。
「ミドリちゃん、手回しいいっすねぇ」
ミドリちゃんは、優雅に紅茶をすすりながら、
「このくらい当然。勇者クン、もっとボク等を頼ってよ。夜の信頼関係は築けたけど、出来れば明るい時の信頼関係も構築したいなぁ」
ミドリちゃんが、人聞きの悪い事を言う。
「せやせや。たっぷり、頼ってや。うちのこの鍛えた腕は、ちょっとやそっとじゃ折れへんで」
シノブちゃんが体育会系のノリで応じる。
ああ、こうやって、結局は俺は、彼女達の尻に敷かれる事になるんだよな。
「分かってるっす。ミドリちゃんの配慮には感謝するっす。あっと、遺跡周辺の写真なんかがあったら、巫女ちゃんに見てもらうっす。古代文字とかあったら、読んでもらえるっすよねぇ」
「その通りですわ。勇者様、いつでも頼って下さいね」
俺の言葉に、巫女ちゃんが反応した。ただし、オレンジジュースのコップを両手でしっかと握ってだが。
俺は、「おっほん」と咳払いをすると、
「まぁ、今回はだなぁ、『街に迷惑をかけない事』。これが優先事項。それから、自分の生命は大切にする事。これは、いつも言ってる通りっす」
と、念押しをした。
「分かってるって。勇者さん、もっと笑いを取りに行かなあかんで。『湯呑みの中コーヒーやった!』とか」
いや、俺、関西人じゃないし。
ってか、マジで湯呑みの中コーヒーだった。……俺も毒されて来たのかな。
「いや、それは置いといて、皆、暴走しないように。お願いっすよぉ」
と、俺は少し情けない声で頼んだ。はぁ、勇者になって幾星霜、全然威厳が足りないなぁ。
そんな俺の目の前では、フルーツを盛ったお皿を談笑しながら突っついている三人娘がいた。考えるだけ徒労だった。コイツ等とは、長いような短いような付き合いだよなぁ。これくらいで折れちゃいけない。
取り敢えず、次は図書館だよ、図書館。今回は、少し頭脳戦になるかな? 等と、俺は下らない事を考えながら、湯呑み茶碗のコーヒーをすすっていた。




