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新たな遺跡へ(2)

 剣士サユリさんのお見舞いをした後、俺達はガススタで、サンダーの洗車をしてもらっていた。


「おー、サンダー。ピッカピカになったっすね」

「これも全て勇者殿のおかげ。感謝いたしますぞ」

「堅苦しいことは無しっすよ。俺とサンダーの仲じゃないすか」

「かたじけない」

 一方の流星号は、最上級のプレミアムオイルを買ってもらえて、こちらも上機嫌だった。

「美味いか、流星。今回はお前も頑張ってくれたからな。うちからのご褒美や」

「うまい、美味いっす。姐御、本当にありがとうございやす。こんな美味いオイルは、久し振りですぜ。おいら、感激で目から冷却水が漏れそうっす」

「これまで、ずっと整備の備品のオイルやったからなぁ。遠慮せずに、グイッといけ。グイッと」

「ありがたいっす。おいら、今後も姐御のケツのために、誠心誠意尽くさせていただくっす」

 流星号の話は、相変わらずケツのことばかりだった。今回のシノブちゃんは、それを苦笑いをしながら眺めていた。

 とその時、ミドリちゃんと巫女(みこ)ちゃんが、サービスの事務所から出てきた。

「勇者クン、この街の情報掲示板で、面白い物を見つけたよ」

 と、魔導師のミドリちゃんが手渡してくれたのは、一連の『つぶやき』をプリントアウトした数枚の紙だった。

「うわさ話の段階だけど、『遺跡』についての情報が混じってるんじゃないかと思って」

「魔導師様が光る画面を操作していましたら、何か画面の下の隙間から、シュルシュルーって紙が出てきたんですぅ。勇者様の世界の機械は、不思議がいっぱいです」

 ああ、まぁ、そうだね。巫女ちゃんにとっては、不思議な光景だろうな。それはそうとて、まずは情報だ。何なにぃ……。


 ミドリちゃん達の集めた情報をかいつまんで言うと、この街の南西五キロくらいの所に、渓谷に挟まれた森林があるという。その森の奥に、願いを叶えてくれる『祭壇』があって、一種のパワースポットのような場所になっているらしい。しかし、森に辿り着くまでには、深い谷が有り、魔獣が彷徨いていたり、局所的な異常気象が発生したりと危険であるとの事。それでも、噂を聞いて訪れる者は数多く、死傷者や行方不明者も出ているのだとか。その為、街の議会からは『立入禁止命令』が出ているのだそうだ。


「ね、勇者クン。何か臭わないかい?」

「街の近くの森。森の中に祭壇。途中は魔獣が闊歩している……か。恐らく、ビンゴっすね。出現する魔獣のタイプも分かればいいんすが。対策が取りやすくなるっす」

 俺は、紙束に目を通しながら、ミドリちゃんに応えた。

「噂の粋だけど、機械魔獣やラプトル以外にも、ゴーレムタイプの目撃例もあるって。もし、前みたいな石の巨大ゴーレムなら、ブレイブ・サンダーの出動を考えないとね」

 このポイントは、『邪の者』の守りも硬そうだな。でも、俺達にはブレイブ・サンダーがある。ただ……、

「ただ、ブレイブ・サンダーは無敵だけど、エネルギーを消耗するんで、活動時間に限りがあるっす。合体のタイミングが、重要になるっすね」

 珍しく俺が頭を捻っていると、サンダーも意見を出してくれた。

「勇者殿のおっしゃる通りでござる。ブレイブ・サンダーは、『無敵故にエネルギー消費が大きい』のが難点でござる。もし、狭い谷での戦闘であれば、大型車両のブレイブ・ローダーは、取り回しがきかないでござるな。やはり、今回は、入念に作戦を練った方が吉かと」

 ふむん。だろうな。さて、どうする……。

「合体の間の時間稼ぎくらいなら、ボクの魔法で作ってやるさ」

 俺が悩んでいるのを見て、ミドリちゃんは、さも自信たっぷりに胸を張った。

「今回、地の利は向こうさんにあるで。これは、みっちり下調べしといた方がええんやないか」

 珍しく、シノブちゃんが、手堅い道を選んできた。

「珍しいな。くノ一クンは、いつものように正面突破を主張すると思ったんだが」

 劣勢になったミドリちゃんは、ちょっと不満そうに、そう言った。

「いつもとおんなじならな。でも、今回はな、うち、何か嫌な予感するねん。こう言った時は、慎重にやらんとアカンねん」

「野生の勘、かい?」

 ミドリちゃんは、少し目を細めてそう言った。

「野生の、って。魔導師さん、うちを、その辺の魔獣みたいに言わんといてぇな。もっとも、うちの勘は、野生動物以上に当たるんやけどな。せやから、ポイントの偵察をやるんは、うちに任してくれへんか」

「偵察なんか、ボク一人で充分さ。今からだって、魔法で飛んで行って見せるよ」

 おっと、今度は偵察の先陣争いが、始まってしまいそうだ。

「それを言うならな、魔導師さん。うちと流星で行けば、現場の状況を、常にブレイブ・ローダーのクラウドデータベースとリンクしておけるんや。確かな記録が残るんやで。これは、本番の時の武器になるでぇ」

「何おぅ。ボクだって、見た物と感じた事を、そのまま保存する魔法が使えるよ。再生すれば、まるで現場に居るように体感できるんだぞ。実体験って、重要だろう」

 まずいなぁ。ちょっと、こじれそうだぞ。

「あー、コラコラ。こんな所で内輪揉めしないっす。偵察は重要っすが、今は回復が最優先っすよ。シノブちゃんは乱闘の後で傷だらけだし、ミドリちゃんも魔法力を少なからず消費しているっす。偵察とは言え、危険な任務には出せないっす」

 俺は、二人の仲裁を始めた。

「勇者さんがそう言うなら、しゃあないけど……。こないな傷、一晩寝たら治っとるわ」

「ボクなんか、この回復のポーションで、今すぐにでも魔法力をフル充填できるぞ。偵察なんて、夕方までに終わっちゃうさ。だからねぇ、いいでしょう、勇者クン」

「なにおぅ。こんなかすり傷、唾つけたから、もう治ったわ。なぁ、勇者さん。偵察なら、うちらにやらせてぇな」

 うわぁ、また意地の張り合いになってきた。

「二人共、そこまで。偵察は明日。これは、俺の決定事項っす。そんで、今日はゆっくり休養するっす。……あっと、その前に、保安官事務所に呼ばれてるんだったっすね。ほらほら、今日はまだ忙しいっす。だから、手続きなんかは、俺っちがやっとくっすから、皆は休養に専念すること。これは俺っちが決めた事っすよ」

 俺の宣言に、二人共、ようやく口を引っ込めた。

「分かったよ。はぁ、勇者クンも丸くなったもんだね。前は、出たとこ勝負だったのに」

「せやせや。考え無しに、真っ先に一人で飛び出しよるねんな。勇者さんこそ、一人にすると危ないわ」

「おっ、その通りなんだよね。くノ一クン、珍しく、意見が合ったね」

「せやな。なら、今夜は女同士、一杯やれへんか?」

「いいねぇ。呑み比べでもするかい?」

「酒は体力勝負やねん。言っとくけど、うちは酒も強いで」

「ボクだって、望むところさ」

 あああ、あれぇ? まあたまた、雲行きが怪しくなってきたぞ。

「だからさぁ、二人共、意地の張り合いはやめようよ」

 と、俺が再び仲裁をしようとしたところに、巫女ちゃんが割って入ってきた。

「あらあら。お二人共、お酒をお呑みにいらっしゃるのですね。では、今夜はわたくしと勇者様と二人っきり、ということですね。たまには、そんな夜もいいですわね、勇者様っ」

 巫女ちゃんのこの言葉で、二人の目が一瞬にして俺に移った。

「ん? なんやて。それは、おもろないな。あ、あーっと、せやった。うち、流星のヤツ、整備してやらなアカンかったんや」

「え? ああーっと、そうだ。ボクも、勇者クンにもらった小手をメンテしなきゃならないんだったよ。だから、勝負はお預けだな。とても残念だが、これは仕方ないことだね、くノ一クン」

「せやな。めっちゃ残念やけど、しゃーないな、魔導師さん。今回は、お預けや」

 ふぅ、ようやく二人共、大人しくなってくれた。

「そうですかぁ。では、今夜は、ホテルのレストランで、皆でお夕食ですね」

 巫女ちゃんは、俺に目配せしながら、にこやかにそう言った。うまく納めてくれたな。助かったよ。

「さて、じゃぁ、次は保安官事務所だね。だけど、何の用かな?」

 ミドリちゃんが俺に訊いた。

「多分、賞金の事だと思うっす。計画的なキャラバン強盗だったらしいし、やり方も悪質だったから、手配書が回ってきてるんじゃないっすか」

 俺は、賞金首が居たかどうかも分からないのに、そう応えた。

「せやな。うちらも活躍したから、お小遣いを神様(アマテラス)が用意してくれとるに違いないで」

「ボクだって、出番は少なかったけど、キャラバンを守ったんだぞ。でも、まぁ、あの程度のメンツだと、高く見積もっても、二百万くらいかなぁ」

「なら、うちは三百万はもらえるかなぁ。今回は小物ばっかで、おもろなかったわ。せやけど、今夜の飯代くらいにはなるやろ」

「そうだね。皆で美味しいものを食べようよ。ねっ、勇者クン」

「せやせや。美味いもん喰おうで。なっ、勇者さん」

 あれれ。もう仲良くなっちゃった。単純というか、仲が良いというか。取り敢えず、二人を仲直りさせた巫女ちゃんに座布団一枚、かな。


 まぁ、そういう訳で、俺達はガソリンスタンドを後にすると、保安官事務所へ向かった。




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