表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/56

新たな遺跡へ(1)

 俺達は、目的地の街の検問所にいた。街に入ってしまえば、もう安心だ。

 キャラバンの隊長は、検問所の保安官助手に、『盗賊団』の事を説明したようだった。

 その所為か、俺達が街に入ってしばらくすると、保安官が自警団を連れて、大型トラックで街を出ていくのが見えた。


 俺達が、しばし一服していると、隊長のイトウさんが近付いてきた。

「どうしたんすか、イトウさん」

 俺がそう訊くと、

「いや、護衛の成功報酬を払おうと思ってな」

 そう言うイトウさんの手には、分厚い封筒が握られていた。俺は封筒の厚さを見て、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


(この厚さ、期待しても良いかも)


 俺は封筒を受け取ると、そおっと中身を確認した。一万円札で、一、二、三と数え始めて、最終的には百五十枚を数えた。

「こんなにいっぱい……。い、いいんすか?」

 俺は、怪我人の多いキャラバンを思って、確認するように訊いてみた。

「なぁに、実質あんたがたに助けてもらったようなもんだし。盗賊団殲滅や怪我人の治療なんかもしてくれたから、ボーナスも込なんだよ」

「そ、そうっすか。ありがたく頂戴します」

 俺は札束の入った封筒を懐にしまうと、女剣士さんの具合を訊いてみた。

「ああ、あの(ひと)かい。彼女は、唯一裏切り者ではなかった。アンタ達に出会えるまで、なんとか持ちこたえられたのは、あの剣士さんのお陰だな。彼女にも報酬を弾んでおいたんだが、あの深手じゃぁな。しばらくは入院生活だろう……」

「そ、そうですか」

 俺は、これ以上何も言えなかった。シノブちゃんが言ったように、仲間に入ってくれるといいんだけどなぁ。今は怪我人だから、仕方がない。元気になるまでは無理だろう。

 まずは、お見舞いに行くことでしょう。

 俺は、巫女(みこ)ちゃんやシノブちゃん達と相談して、剣士さんの入院している総合病院へと足を運んだ。



「ここが病院ですか、勇者様。前の街の病院よりも、大きいですね」

 巫女ちゃんが正直な反応をした。俺も、ちょっとそのデカさにビビっていた。

「大丈夫だよ、巫女クン。怪我や病気を治すところだから。別に、取って食われやしないよ」

 ミドリちゃんが、巫女ちゃんを落ち着かせるようにそう言った。

「では、行くっすよ」

 俺はそう言うと、皆の先頭に立って病院の門をくぐった。サンダーと流星号は、駐車場で待機だ。

 受付で病室を訊くと、女剣士のサユリさんの病室はすぐに分かった。俺達は、総合受付の近くにあったエレベーターに乗ると、目的の階のボタンを押した。

「こんな箱が建物の中を登ったり降りたりしているなんて、凄い魔法ですね。まるで、夢みたいです」

「せやな。巫女さんのおった時の異世界にはあらへんかったやろうな。自分で動かんでも、登ってくれるんや。楽ちんやろう。うちらの世界では、百階以上の高層ビルもあるんやで。エレベーター無かったら、登るだけで死んでまうがな」

 と、シノブちゃんが自慢気に説明していた。巫女ちゃんは、それをキラキラした目で聞いていた。

 目的の階に着くと、俺達は彼女の病室を目指した。

 病室の名札を見ると、『サユリ』と書いてある。きっとここだろう。

 俺は、目の前の引戸をゆっくりと開けた。すると、目の前に見えたのは、上半身半裸で剣の素振りをする女性の姿だった。勿論、胸にはサラシを巻いていたが……。

「何やってるんですか、サユリさん。怪我が未だ治っていないのに、素振りなんて無茶苦茶っす」

 すると、俺達に気が付いた女剣士は、素振りを止めてこちらを見た。

「ああ、お主達でござるか。キャラバンでは、お世話になり申した。感謝いたす」

 そう言って、サユリさんは深々と頭を下げた。

「ああ、そんなことは、お互い様っす。……いや、そうじゃなくって。真剣で素振りなんかやってて、怪我は大丈夫なんすか?」

「ああ、怪我でござるか。正直、あまり大丈夫とは言えませぬが。ベッドに横になりっぱなしでは、身体が鈍るのでなぁ。少しばかり鍛錬をしておったところでござるよ。それはそうと、それがしに、何か御用でござるか?」

 サユリさんと話が出来て、俺は、少し冷静さを取り戻した。

「ああっと、俺達はサユリさんのお見舞いに来たんす。キャラバンのイトウさんから、「傷が深い」って聞いたものだったっすから」

 俺がそう言うと、ミドリちゃんが、持っていた花束とフルーツの盛りカゴをベッドの脇に置いた。

「それはそれは、かたじけない。それがし孤高の剣士故、見舞い客など何年ぶりか……。お気遣い、感謝いたす」

 そう言って、サユリさんは、またも深々と頭を下げた。

「いや、そんなに謙遜すること無いっすよ。俺は、現在の勇者っす。だから、この異世界じゃ新米っす。俺達は、ある目的があって、この異世界を旅しているっす。サユリさん、もし良かったら、俺の話を聞いて欲しいっす。そして、もしよければ、俺達の仲間になって欲しいんすよ」

 そう言われたサユリさんは、少し難しい顔をしていたが、

「では、取り敢えず、話を伺わせて下され。仲間になるかどうかは、それからでござる」

 と、言ってくれた。


 俺は、自分が勇者になって『アマテラスの祭壇』を浄化する旅をしていること。この異世界に『邪の者』が入り込んでいること。そして、『邪の者』と俺達が戦って来たことを、かいつまんで説明した。


 それを聞いたサユリさんは、しばらく厳しい顔をしていたが、俺達に顔を向けると、

「分かり申した。それがしが勇者の時も、「この世界は何か異様なモノに毒されている」と感じておったのでござる。勇者殿のお話で、その疑問が晴れたような気がするでござる。今は未だ怪我人の身ではあるものの、それがしでよければ、仲間にしていただきたい」

 と、応えてくれた。

「やった! ありがとう、サユリさん。これで、心強い仲間が増えたっす。俺っちは、勇者。この『勇者の木刀』で戦ってきたんすよ。サユリさんには、是非、俺っちに剣術を教えて欲しいっす。それから、この()が、アマテラスの巫女(みこ)です。今のこの異世界では珍しい、『生粋の異世界人』なんす」

 俺が巫女ちゃんを紹介すると、彼女は、

「わたくしが、アマテラスの巫女です。『邪の者』に封印されていたところを、勇者様に助けて頂いたのです。ヒーリングと探知魔法しか使えませんが、出来得る限りのお手伝いが出来ればと、仲間の皆様と一緒に旅をしております。どうかよろしくお願いします」

 と自己紹介をして、深々と頭を下げた。

「おお、そうでござるか。よろしくでござる」

 次に、ミドリちゃんが自己紹介した。

「ボクは、魔導師のミドリだ。結構色々な攻撃魔法が使えるんだよ。隠蔽魔法や浮遊魔法も使えるから、偵察も得意なんだ。接近戦でも、中長距離戦でも、なんでもござれ。最近は、皆のバックアップに回ることが多いんだけどね。ボクにも、接近戦での体術を教えてもらえると嬉しいな。よろしく」

 と言って、ミドリちゃんは手を出した。

 サユリさんは、その手を握り返すと、

「よろしくでござる」

 と、相槌をうった。次に、シノブちゃんが自己紹介をした。

「うちが、くノ一──女忍者のシノブです。得意なのは、忍者の体術を活かした接近戦。その辺の、戦闘士くらいには負けへんで。それから、相方の流星号もよろしくしてくれなはれ。バイクから変形するロボなんや」

「おお、もしや、あのバイクロボットの持ち主でござるか?」

「せやせや。ちょっと、ケツにうるさい変人なところがあるんやけどな。芯はかったいのが一本通っているで、ロボだけに。仲良くしてやってぇや」

「相分かった。よろしくでござる」

「そうそう、サンダーを忘れちゃいけないな。サンダーは俺の相棒で、勇者ロボなんだ。普段は自動車に変形して皆の足になってくれたりしているけど、戦闘では最前線で力を振るう、頼もしい奴っす。それに、サポートメカの「ブレイブ・ローダー」と合体すると、巨大サイズの無敵勇者ロボ「ブレイブ・サンダー」にもなれるんすよ。巨大魔獣や、大型のゴーレムにも負けない凄いやつっす」

 俺がサンダーの紹介をすると、

<拙者がサンダーでござる。以後、お見知り置きを>

 と、レシーバーから声が聞こえた。

「おお、あの大きなロボットでござるか。合体も出来るとは、凄いでござるな。それがしも、何故か親近感を覚えるでござる。それがしこそ、よろしくでござる。それでは、それがしも自己紹介を。それがしは、女剣士のサユリでござる。この妖刀『雨の叢雲』が相棒でござる。今までは、一人で旅をしておりました。不束(ふつつ)かものでござるが、以後、よろしくでござる」

 よし、これでサユリさんを仲間に出来た。戦力倍増だぞ!

「俺達は、今日は、この街のホテルに宿泊するつもりっす。また、明日もお見舞いに来るっすが、何かあったら、このレシーバーで連絡して欲しいっす」

 そう言って、俺は、皆の物と同じレシーバーを、彼女に手渡した。

「なる程。これで、勇者殿達とも連絡が取れるのでござるな」

 サユリさんは、そう言いながら、レシーバーを不思議そうに眺めていた。

「じゃぁ、剣士さんが疲れたらいけないから、ボク等は今日はこのくらいにしておこうか」

 ミドリちゃんの提案で、俺達は病室を後にした。

 サユリさんが回復したら、次の遺跡攻略だ。頑張るぞ。


 お見舞いを終えた後、俺達は、遺跡で何が待っている(・・・・・・・)かも考えもせず、ホテルに向かったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ