新たな遺跡へ(1)
俺達は、目的地の街の検問所にいた。街に入ってしまえば、もう安心だ。
キャラバンの隊長は、検問所の保安官助手に、『盗賊団』の事を説明したようだった。
その所為か、俺達が街に入ってしばらくすると、保安官が自警団を連れて、大型トラックで街を出ていくのが見えた。
俺達が、しばし一服していると、隊長のイトウさんが近付いてきた。
「どうしたんすか、イトウさん」
俺がそう訊くと、
「いや、護衛の成功報酬を払おうと思ってな」
そう言うイトウさんの手には、分厚い封筒が握られていた。俺は封筒の厚さを見て、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
(この厚さ、期待しても良いかも)
俺は封筒を受け取ると、そおっと中身を確認した。一万円札で、一、二、三と数え始めて、最終的には百五十枚を数えた。
「こんなにいっぱい……。い、いいんすか?」
俺は、怪我人の多いキャラバンを思って、確認するように訊いてみた。
「なぁに、実質あんたがたに助けてもらったようなもんだし。盗賊団殲滅や怪我人の治療なんかもしてくれたから、ボーナスも込なんだよ」
「そ、そうっすか。ありがたく頂戴します」
俺は札束の入った封筒を懐にしまうと、女剣士さんの具合を訊いてみた。
「ああ、あの女かい。彼女は、唯一裏切り者ではなかった。アンタ達に出会えるまで、なんとか持ちこたえられたのは、あの剣士さんのお陰だな。彼女にも報酬を弾んでおいたんだが、あの深手じゃぁな。しばらくは入院生活だろう……」
「そ、そうですか」
俺は、これ以上何も言えなかった。シノブちゃんが言ったように、仲間に入ってくれるといいんだけどなぁ。今は怪我人だから、仕方がない。元気になるまでは無理だろう。
まずは、お見舞いに行くことでしょう。
俺は、巫女ちゃんやシノブちゃん達と相談して、剣士さんの入院している総合病院へと足を運んだ。
「ここが病院ですか、勇者様。前の街の病院よりも、大きいですね」
巫女ちゃんが正直な反応をした。俺も、ちょっとそのデカさにビビっていた。
「大丈夫だよ、巫女クン。怪我や病気を治すところだから。別に、取って食われやしないよ」
ミドリちゃんが、巫女ちゃんを落ち着かせるようにそう言った。
「では、行くっすよ」
俺はそう言うと、皆の先頭に立って病院の門をくぐった。サンダーと流星号は、駐車場で待機だ。
受付で病室を訊くと、女剣士のサユリさんの病室はすぐに分かった。俺達は、総合受付の近くにあったエレベーターに乗ると、目的の階のボタンを押した。
「こんな箱が建物の中を登ったり降りたりしているなんて、凄い魔法ですね。まるで、夢みたいです」
「せやな。巫女さんのおった時の異世界にはあらへんかったやろうな。自分で動かんでも、登ってくれるんや。楽ちんやろう。うちらの世界では、百階以上の高層ビルもあるんやで。エレベーター無かったら、登るだけで死んでまうがな」
と、シノブちゃんが自慢気に説明していた。巫女ちゃんは、それをキラキラした目で聞いていた。
目的の階に着くと、俺達は彼女の病室を目指した。
病室の名札を見ると、『サユリ』と書いてある。きっとここだろう。
俺は、目の前の引戸をゆっくりと開けた。すると、目の前に見えたのは、上半身半裸で剣の素振りをする女性の姿だった。勿論、胸にはサラシを巻いていたが……。
「何やってるんですか、サユリさん。怪我が未だ治っていないのに、素振りなんて無茶苦茶っす」
すると、俺達に気が付いた女剣士は、素振りを止めてこちらを見た。
「ああ、お主達でござるか。キャラバンでは、お世話になり申した。感謝いたす」
そう言って、サユリさんは深々と頭を下げた。
「ああ、そんなことは、お互い様っす。……いや、そうじゃなくって。真剣で素振りなんかやってて、怪我は大丈夫なんすか?」
「ああ、怪我でござるか。正直、あまり大丈夫とは言えませぬが。ベッドに横になりっぱなしでは、身体が鈍るのでなぁ。少しばかり鍛錬をしておったところでござるよ。それはそうと、それがしに、何か御用でござるか?」
サユリさんと話が出来て、俺は、少し冷静さを取り戻した。
「ああっと、俺達はサユリさんのお見舞いに来たんす。キャラバンのイトウさんから、「傷が深い」って聞いたものだったっすから」
俺がそう言うと、ミドリちゃんが、持っていた花束とフルーツの盛りカゴをベッドの脇に置いた。
「それはそれは、かたじけない。それがし孤高の剣士故、見舞い客など何年ぶりか……。お気遣い、感謝いたす」
そう言って、サユリさんは、またも深々と頭を下げた。
「いや、そんなに謙遜すること無いっすよ。俺は、現在の勇者っす。だから、この異世界じゃ新米っす。俺達は、ある目的があって、この異世界を旅しているっす。サユリさん、もし良かったら、俺の話を聞いて欲しいっす。そして、もしよければ、俺達の仲間になって欲しいんすよ」
そう言われたサユリさんは、少し難しい顔をしていたが、
「では、取り敢えず、話を伺わせて下され。仲間になるかどうかは、それからでござる」
と、言ってくれた。
俺は、自分が勇者になって『アマテラスの祭壇』を浄化する旅をしていること。この異世界に『邪の者』が入り込んでいること。そして、『邪の者』と俺達が戦って来たことを、かいつまんで説明した。
それを聞いたサユリさんは、しばらく厳しい顔をしていたが、俺達に顔を向けると、
「分かり申した。それがしが勇者の時も、「この世界は何か異様なモノに毒されている」と感じておったのでござる。勇者殿のお話で、その疑問が晴れたような気がするでござる。今は未だ怪我人の身ではあるものの、それがしでよければ、仲間にしていただきたい」
と、応えてくれた。
「やった! ありがとう、サユリさん。これで、心強い仲間が増えたっす。俺っちは、勇者。この『勇者の木刀』で戦ってきたんすよ。サユリさんには、是非、俺っちに剣術を教えて欲しいっす。それから、この娘が、アマテラスの巫女です。今のこの異世界では珍しい、『生粋の異世界人』なんす」
俺が巫女ちゃんを紹介すると、彼女は、
「わたくしが、アマテラスの巫女です。『邪の者』に封印されていたところを、勇者様に助けて頂いたのです。ヒーリングと探知魔法しか使えませんが、出来得る限りのお手伝いが出来ればと、仲間の皆様と一緒に旅をしております。どうかよろしくお願いします」
と自己紹介をして、深々と頭を下げた。
「おお、そうでござるか。よろしくでござる」
次に、ミドリちゃんが自己紹介した。
「ボクは、魔導師のミドリだ。結構色々な攻撃魔法が使えるんだよ。隠蔽魔法や浮遊魔法も使えるから、偵察も得意なんだ。接近戦でも、中長距離戦でも、なんでもござれ。最近は、皆のバックアップに回ることが多いんだけどね。ボクにも、接近戦での体術を教えてもらえると嬉しいな。よろしく」
と言って、ミドリちゃんは手を出した。
サユリさんは、その手を握り返すと、
「よろしくでござる」
と、相槌をうった。次に、シノブちゃんが自己紹介をした。
「うちが、くノ一──女忍者のシノブです。得意なのは、忍者の体術を活かした接近戦。その辺の、戦闘士くらいには負けへんで。それから、相方の流星号もよろしくしてくれなはれ。バイクから変形するロボなんや」
「おお、もしや、あのバイクロボットの持ち主でござるか?」
「せやせや。ちょっと、ケツにうるさい変人なところがあるんやけどな。芯はかったいのが一本通っているで、ロボだけに。仲良くしてやってぇや」
「相分かった。よろしくでござる」
「そうそう、サンダーを忘れちゃいけないな。サンダーは俺の相棒で、勇者ロボなんだ。普段は自動車に変形して皆の足になってくれたりしているけど、戦闘では最前線で力を振るう、頼もしい奴っす。それに、サポートメカの「ブレイブ・ローダー」と合体すると、巨大サイズの無敵勇者ロボ「ブレイブ・サンダー」にもなれるんすよ。巨大魔獣や、大型のゴーレムにも負けない凄いやつっす」
俺がサンダーの紹介をすると、
<拙者がサンダーでござる。以後、お見知り置きを>
と、レシーバーから声が聞こえた。
「おお、あの大きなロボットでござるか。合体も出来るとは、凄いでござるな。それがしも、何故か親近感を覚えるでござる。それがしこそ、よろしくでござる。それでは、それがしも自己紹介を。それがしは、女剣士のサユリでござる。この妖刀『雨の叢雲』が相棒でござる。今までは、一人で旅をしておりました。不束かものでござるが、以後、よろしくでござる」
よし、これでサユリさんを仲間に出来た。戦力倍増だぞ!
「俺達は、今日は、この街のホテルに宿泊するつもりっす。また、明日もお見舞いに来るっすが、何かあったら、このレシーバーで連絡して欲しいっす」
そう言って、俺は、皆の物と同じレシーバーを、彼女に手渡した。
「なる程。これで、勇者殿達とも連絡が取れるのでござるな」
サユリさんは、そう言いながら、レシーバーを不思議そうに眺めていた。
「じゃぁ、剣士さんが疲れたらいけないから、ボク等は今日はこのくらいにしておこうか」
ミドリちゃんの提案で、俺達は病室を後にした。
サユリさんが回復したら、次の遺跡攻略だ。頑張るぞ。
お見舞いを終えた後、俺達は、遺跡で何が待っているかも考えもせず、ホテルに向かったのだった。




