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キャラバンと共に(7)

 俺とシノブちゃんは、護衛の戦闘士と共に、謎の武装集団と対峙していた。


「何だぁ、オメェらは」

 武装集団から声が上がった。

「そっちこそ、何でこんな所に集まってるっすか?」

 俺が逆に問い正すと、

「決まってらぁな。ここを通るキャラバンを襲うのさぁ」

 と返事があった。思った通りか。正直で助かる。

「わざわざ殺られに来てもらって、助かるぜぃ。なぁ」

 最後の「なぁ」は、俺に向けられたものじゃない。後ろに立っている戦闘士達に向けられたものだった。

「そうだぜぃ。勇者か何か知らねぇが、ここで袋にしてやるぜぃ」

 この言葉を発したのは、キャラバンを護衛していたはずの戦闘士達だった。


(思った通りっす。やっぱり、グルだったっすね)


「今頃、残った仲間達は、全滅しているだろうよ」


 戦闘士達の半分は、いざという時の護衛として残して来ていた。当然、彼等も盗賊達の仲間だろう。残してきたミドリちゃん達は、大丈夫だろうか? 俺の脳裏に、彼女達の姿が一瞬浮かんだ。だが今は、信じるしか無い。


「やっぱりね。そんなこったろうと思ってたっす。さて、まとめて、片付けるっすかね。サンダー、チェンジだ」

「流星、オマエも変形や」

 俺とシノブちゃんの命令で、勇者ロボ達が姿を変える。

「おう!」

「がってっんだ」

 二体の勇者ロボは、前後の敵に立ち塞がった。

「うお。何だこりゃぁ」

「車がロボットになったぞ」

 俺は得意げに、

「お前たちなんか、勇者様と勇者ロボ達で、捻り潰してやるっす」

 と、挑発した。

「何だとう。そんなの、見掛け倒しだぜぃ。返り討ちだ」

 負けずに、武装集団も言い返してきた。

「行くぞ、サンダー。シノブちゃん、後ろの裏切り者は任したっす」

 俺がシノブちゃんに叫ぶと、

「よっしゃ。任せときぃな。この程度のチンピラ、うち一人でお釣りが来るで。流星は、勇者さんのお手伝いや」

 威勢のいい関西弁が返ってきた。ヤリ過ぎないことを祈る。

 さて、そろそろ始めるか。

「サンダー、流星号。こっちも行くぞ」

「心得た」

「ガッテン承知」

 こちらからも、頼もしい声が応える。

「てめぇら、ナメてんじゃねぇぞ。野郎ども、ぶっ潰せ!」

 下品な声が響くと、武装集団が近寄ってきた。手に手に、山刀やハンドガンを持っている。

 しゃあないな。俺は『勇者の木刀』を構えると、いきなり必殺技を放った。

「吹き飛べ。必殺、破砕渦動流(はさいかどうりゅう)!」

 勇者の木刀を、大上段から振り下ろすと、無数の亜空間断層の(やいば)を含んだ巨大な空間の渦巻きが、武装集団に放たれた。渦に触れたモノ達は、人も自動車も、削られ、引き裂かれて、その破片が宙に舞った。

「ぐわぁぁぁぁぁ」

「やられた」

「い、痛え。助けてくれ」

 渦動流の射線に居なかった者達も、かすっただけで身体の一部を持っていかれる。これで、目の前の敵戦力の五割は潰しただろう。

「な、何だぁ。強いぞ、コイツ」

「気をつけろ。分散して取り囲め」

 残り半分になった野党達が、俺達を取り囲もうと散開した。さっきの必殺技は一対多での戦い用だが、相手に分散されると、効果が薄くなる。早速こちらの弱点を見抜くとは、それなりに修羅場をかいくぐって来ているのだろう。

「勇者殿、後は拙者にお任せを。サンダーバルカン」

 タタタタタと、小気味よい音がして、サンダーの左手から銃弾が乱射された。四〜五人の男達が、まとめて吹っ飛んでいく。

「おらぁ、アームガンでぇい」

 流星号も機銃を乱射した。

「くっそう、接近戦だ。懐に入り込んで、たたっ斬ったれ」

 おおおと言う、掛け声とともに、残った武装集団が短槍や山刀を振り上げながら、突進してきた。

「こいつらぁ」

 俺は、高速のサンダルの力で斬撃を避けながら、襲い来る戦闘士達を倒していった。サンダーや流星号も、応戦する。


 戦いの最中、俺は心の何処かで、『人を殺す』ということに麻痺している自分に気が付いていた。この異世界に来てから、一体何人の()勇者達を殺して来たろうか。現実だろうが、異世界だろうが、斬られれば痛いし、致命傷であれば人は死ぬ。弾が当たれば、やっぱり人は死ぬ。火で焼かれれば大火傷。車に引かれれば、死傷する。同じことだ。

 元の現実界では、『人殺しは悪』だと教えられたし、それは正しいと思っていた。それ以上に、豚や鳥を殺すことさえ、昔の俺は、良心の呵責を持っていた。

 そういった、生命を奪うことへの躊躇(ためら)いが、異世界に来て、戦闘やサバイバルをするうちに、鈍麻していった。

 しかし、生命を奪うことに躊躇していたら、こちらが殺される。生命を奪わないと、腹ペコで死んでしまう。そういう生命のやり取りがあって、初めて自分が生きていられる事に、俺は改めて気が付いていた。


 だが、こうやって、躊躇せずに生命を奪い取りながら生きていくことが、本当に正しいのだろうか?


 圧倒的な力を授かり、『真の勇者』となってしまった自分は、人間相手ならばほとんど無敵と言っていいだろう。

 でも、襲ってくる火の粉を払えば、自分と同じ生命を持つ誰か(・・)が死んでしまう。その事は忘れてはいけないような気がした。

 俺の武器が、どうして『刃を持たない木刀』なのかを、俺は斬り合いの中で薄っすらと考えていた。そう考えながらも、身体は反射的に動いて戦闘士を斬り殺している。いつかは俺も、コイツ等のように誰かに斬り殺されるんだろうか?


 俺は、戦いの中にいて、どこか冷めている自分に気がついていた。


 十数分ほどかかったろうか。俺達の眼前に立っている戦闘士は、一人もいなかった。

「勇者さん、こっちも片付いたでぇ」

 明るい関西弁が背中から聞こえた。シノブちゃんである。彼女の後ろにも、戦闘士だったモノが幾人も倒れていた。手足や首が、有りえない方向にネジ曲がっている。

「こりゃまた、派手にやっつけたっすねぇ」

 俺は自分のしたことを棚に上げて、シノブちゃんに話しかけた。

「あー、ちょっとは手加減したつもりなんやけどなぁ。あっははははは。また、やってもうたわ」

 返ってきた声には、殺すことに一欠片の躊躇いも含まれていない。

 まー、そうだわな。生命のやり取りなしには、この世界では行きていけない。そういう世界に来たんだと、自分を納得させるしかないんだ。

 俺は、何か心残りがあるような気がしていたが、首を振ってそれを払い飛ばした。


「どないしたんや? 勇者さん」

「何でもない。何でもないっすよ」

 俺はそう答えると、シノブちゃん達に言った。

「取り敢えず、息のある奴は縛っておいて、すぐにキャラバンに戻ろう。ミドリちゃんや巫女ちゃんが心配だ」

「せやな。流星、変形や。バイクになってぇや」

「オッケイですぜ、姐御」

 流星号はそう応えて、バイクに変形した。

「姐御、おいらに、そのでけぇケツを乗っけて下せい。キャラバンまで、一気にゴーですぜい」

「せやから、そのケツケツゆうんは止めや。いてこますぞ。……まぁ、しゃーないか。行くで、流星」

「がってんだ、姐御」

 またいつもの漫才の末に、シノブちゃんは流星号でぶっ飛んで行ってしまった。さて、俺も急がなけりゃ。

「サンダー、こっちも頼むっすよ」

「心得た」

 そう言って、サンダーは、ビークルモードに変形した。

 俺はサンダーに乗り込むと、

「急いで帰るっすよ」

「承知いたした! でござる」

 そうして、俺もシノブちゃんの後を追った。


 さて、急いで帰って来たものの、案の定、キャラバンでは、裏切り者の戦闘士達がまとめて縛られていた。

「ミドリちゃん、大丈夫っすか?」

 俺は、残してきた魔導師にそう訊いた。

「あんなヤツ等、暇潰しにもなりゃしない。武器は持ってても、ボクにとっては案山子(かかし)みたいなもんだよ。まぁ、勇者クンに言われた通りに、魔法で『ターゲット』を刻印していたからでもあるけれどね」

 さすがはミドリちゃんだ。事前に相談していた通りに、雇った戦闘士から目を離さないようにしていたのが功を奏したようだ。尤も、だかだか十数人程度の戦闘士崩れなんか、本気になったミドリちゃんの敵ではない。

「それよりも、キャラバンの皆は無事っすか?」

 俺が気になっていたのは、裏切り者達よりも、ターゲットにされたキャラバンの人達だった。

「うん、取り敢えずはね。何人かは怪我をしたけれど、今、巫女クンに治療してもらってるところだよ」

 彼女の返事で、キャラバンの被害が軽微だった事が分かって、俺は安心した。だが、

「巫女ちゃん、また無理をしてないと良いんすが」

 俺は、今度は、巫女ちゃんの事が心配になってきた。

「その辺は、大丈夫。魔法力貯蔵球も、併用しているようだから」

 二人でそんな会話をしていると、キャラバンの隊長のイトウさんが、近付いてきた。

「おお、勇者さん。無事じゃったか。勇者さんと一緒に着いて行った戦闘士達も、全員が裏切り者だと聞いていたんで、心配しておったところじゃ」

「まぁ、それは何とかなったっす。息のある者は応急処置をしといたんで、街に着いたら、回収してもらえるように保安官に頼みましょう」

「おお、それが良かろう。本当に助かったわい」

 イトウさんはそう言うと、ホッとした顔をした。これで、俺も一安心だ。


 怪我人達の治療がひとしきり終わると、キャラバンは今度こそ本格的な移動準備に入った。

「それじゃぁ、皆の衆、車に乗れ。街へ行くぞぉ」

 イトウさんは、大きな声で、キャラバンに指示を出した。


 そうして、俺達は、キャラバンと共に次の街へと進路をとったのだ。




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