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キャラバンと共に(6)

 俺は、キャラバンの隊長と護衛の契約を済ました。

 その日の残りは、怪我人の治療と自動車の修理に費やし、無理に移動せず夜営する事となった。


 夕食は巫女(みこ)ちゃんの指導の下、ラプトルの肉と水菜を使って、肉団子汁を作ってくれた。勿論、精の付く(・・・・)珍味が振る舞われた事は言うまでもない。ラプトルのキン[ピー]の串焼きと、刺し身脳ミソである。これさえ無ければなぁ、といつもの如く俺は思っていた。

 その日の夜は、見張りをサンダーと流星号に頼んで、女剣士のサユリさんや他の護衛の戦闘士さん達も含めて、ゆっくり休んでもらうことにした。


「巫女ちゃん、まだ休まないっすか?」

 俺は、夕食の後片付けが終わっても、未だパタパタとキャラバンの中を駆け回る巫女ちゃんに、そう訊いた。

「はい、まだ怪我の治りきってない人がたくさんいるんです。特に重症の方は、今夜が山ですから」

「重症者と言うと……、例の女剣士さんとか?」

 巫女ちゃんは、少し首を傾げると、

「そうですね。あの方の場合は、今日負った傷がどうこうよりも、これまでの古傷もあわせてですから。わたくしの治療魔法でも、治すのには時間がかかってしまいます」

「そうっすか。隊長さんの話では、今までは、あの女剣士さんのお陰で、なんとか敵を退けられたそうっすよ」

「そうなんですか。では、しばらくは無理をさせないのが宜しいかと思いますわ」

「じゃぁ、怪我人の方は巫女ちゃんに任せるよ。あんまり魔法を使いすぎて、前みたいに倒れたりしないようにね」

「分かりました、勇者様。お気遣い、ありがとうございます」

 巫女ちゃんは、いつものようににっこり笑うと、またキャラバンの中にかけて行った。

 一方、ミドリちゃんは、キャラバンの魔法使い達と一緒に居た。周囲に、探知用の結界を張っているのだ。

「ミドリちゃんも、まだ寝ないんすか?」

「ああ、勇者クンか。今、奇襲に備えて、結界を張っているところだよ。野営地の範囲が広いのが難だけどね。もうすぐ終わるから、そんなに気にしなくてもいいよ」

「そうっすか。皆、忙しそうにしているっすね」

「ボク達には、戦闘以外にも、することがあるからね。明日は、キャラバンの魔法使いに、使い勝手の良い防御魔法を幾つか教えようと思っているんだ」

「巫女ちゃんにも言ったっすが、もう少しで街に着くから、あんまり無理をしないようにして欲しいっす」

「了解。勇者クンも、そろそろ休んだら」

「そうっすねぇ。俺なんかがウロウロしていたら、かえって邪魔になりそうっす。じゃぁ、何かあったら、レシーバーで連絡して欲しいっす」

「分かったよ。それじゃ、お休み」

「お休みっす」

 俺はそう言って、ミドリちゃんと分かれると、サンダーの近くに張ったテントに潜り込んだ。

 俺の予想だと、多分、明日が正念場だ。それさえ乗り切れば、街に逃げ込める。

 俺は寝袋にくるまると、いつしか眠りについていた。



 翌朝はよく晴れていた。しかし、相変わらず見渡す限りの荒野は、俺達を拒絶するかのように、乾いた風が舞っていた。

 キャラバンの人達は、やや年期の入ったバスや、ジープに分かれて乗り込むと、ノロノロと荒野の道を進み始めた。先頭では、シノブちゃんのバイクが先導をしていた。襲ってくるだろう敵を早期に見つけるべく、シノブちゃんは、やや先行していた。

「シノブちゃん、あまり一人で突っ走っちゃいけないっすよ。戦力を分断されるとマズイっす」

 俺はレシーバーで、シノブちゃんをセーブしようとしていた。

<そんなん、気にすることあらへんがな。それに一人やないで。うちには『流星号』という立派な相棒がおるさかいに>

「そうか。そうだったっすね。でも、あまり先行し過ぎないように、気を付けて欲しいっす」

<わかっとる、わかっとるがな。先導は任せてぇな>

「了解っす。何か変なことがあったら、すぐに知らせるっすよ」

<オーケイ、オーケイ。うちらに任せてぇな>

 と言って、シノブちゃんは通信を切った。

 彼女は、ああは言ったものの、俺は若干心配していた。だが、今回はこの布陣でいくしかない。出来れば、トラブルには遭いたくないのだが……。そう簡単には街に着けないだろうと、俺は予想していた。


 しばらく荒野を走っていると、シノブちゃんからの連絡が入った。

<勇者さん、思うた通り、出てきおったで。武装集団が、進行方向に陣取っとる。こりゃ避けて通れんわ>

 危機の知らせであるのに、彼女の口調には、ウキウキするものがあった。やり過ぎないように釘を刺さねば。

「そうっすか。シノブちゃんは無理して戦闘に入らずに、概要だけでもいいから、敵の戦力を調べて欲しいっす。俺は、キャラバンの隊長と相談してみるっす」

<さよか? でも、向こうから襲ってくる分には、いてこましてもええんやろ>

 うっ……。この人は、もう。

「まぁ、……そうっすね。なるべくそうならないように、挑発とかしないでね」

<分かっとるがな。うちのことなら、心配あらへんで、勇者さん>

 と言って、シノブちゃんは通信を切った。俺が心配しているのは、むしろ敵側の武装集団なんだけどな。兎に角、まずは現状報告だ。俺はサンダーに言って、キャラバンの隊長の乗るジープに近付いてもらった。

「イトウさん。思った通り、待ち伏せされているようっす。このまま進むと、正面衝突っすよ」

「そうか……。悪い予想ほど、当たるもんだな。分かった、キャラバンの本隊は、しばらく進んだところで待機させる。勇者さん達とこちらの護衛で、奴等に対抗しよう。お願い出来るかな?」

「オーケイっすよ。念の為に、うちの魔導師と、探知魔法の使える巫女ちゃんを残して行くっす。いざという時は、防御魔法でキャラバンを囲めるっすよ」

「そうか、分かった。ありがとう、勇者さん」

 俺は、サンダーの後部座席を振り向くと、

「ミドリちゃん、そういう訳だから、キャラバンの護衛を頼むっす」

 と、不敵な笑みを浮かべて踏ん反り返っている美少女に声をかけた。

「オーケイ。任せてよ、勇者クン」

 ミドリちゃんは、二つ返事で了解してくれた。

「巫女クンは、ボクから離れないでね」

「はい、分かりましたわ、魔導師様」

 巫女ちゃんも慣れたもので、事情を理解しているらしい。


 そして、1kmくらい進んだところで、キャラバンは前進を停めた。ココに陣を敷き、防御体制をとるのだ。

 俺は、ミドリちゃんと巫女ちゃんをサンダーから降ろすと、キャラバンの事と、もう一つの大事なことを頼んだ。それに対して、ミドリちゃんはウィンクをすると、ブイサインで応えてくれた。

「よし、行くぞサンダー。シノブちゃんが暴走する前に、先頭に追いつくぞ」

「心得たでござる」

 サンダーはそう答えると、エンジンの唸りを上げて、土煙を上げて突っ走って行った。護衛の戦闘士の乗ったジープが数台、俺達の後に続く。

 しばらく進むと、シノブちゃんに追い付いた。ちょうど適当な岩陰があり、そこに伏せて、間近の武装集団を睨んでいた。

「シノブちゃん、どんな具合っすか?」

「おお、勇者さんかい。思うたよりも人数が少ないみたいやで。せやけど、重火器で武装してるようで、火力だけはバカにならへん。まぁ、格闘戦は、どないなるか分からんけどな。まぁ、地形も開けているさかい、いきなり飛び込んで奇襲すんのは、ちょっと無理そうやな」

 と、シノブちゃんは、現状を教えてくれた。

「武装集団に、動く気配は?」

「今んところあらへんなぁ。飽くまで待ち伏せるつもりのようやけど。尤も、こんな丸見えのところに陣取ったら、物量戦にしかならんな。何か、裏がありそうやとは思うで」

 シノブちゃんは、双眼鏡で向こうを観察しながら、そう言った。

「こっちの方が囮、と言う事っすか?」

「まぁ、悪党の考えそうなこっちゃ。んで、キャラバンの方の守りは?」

「ミドリちゃんに任せたっす。いざという時には、防御バリアを張ってもらえるっす」

「なら、取り敢えず安心やな」

「じゃぁ、行くっすか。護衛の人達も、良いっすね」

「オッケイさ」

「今まで、奇襲されっぱなしだったからなぁ。今度こそ、追い払ってやる」

 護衛の戦闘士達も、ヤル気マンマんのようだ。なにせ、ここで手柄を立てておけば、ボーナスにつながる。

「よっしゃ、突撃(とっつげきぃ)!」

「うおおおぉぉぉぉ」

 俺の合図で、皆は前方の武装集団に、突き進んで行った。

 勝敗は如何に……




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