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キャラバンと共に(3)

 俺達は魔獣達に襲われていた、キャラバンを助けた。


 魔獣達を撃退はしたものの、キャラバンはまだパニックに陥っていた。

「皆落ち着いてください。魔獣達は撃退しました。男の人たちは、女性やお年寄りを落ち着かせて下さい。怪我をした人は、こっちに来て下さい、ヒーリング能力者がいます、重症者優先でお願いします」

 この時、シノブちゃんは、剣士のサユリちゃんを見つけてこう言った。

「お、剣士さん、もう治してもろたんか。仕事がら、怪我とは縁があるからなぁ。気ぃつけとかなんだら、昔の傷がうずいて、後手に回ることもあるもんな」

「いや、それがしはまだ手当をしておらぬ」

 それを聞いたシノブちゃんは、

「何言うてんや、うちが付いていくから、早う傷治しに行こ」

 と、なおも誘った。しかし、女剣士は、

「それがしはかすり傷。もっと重症の患者がたくさんいる。それがしはキャラバンの護衛を承った身であるのに、魔獣からキャラバンを守りきれなかった。それ故、キャラバンの方々の傷の手当が終わらぬ以上、それがしが手当を受けるわけにはいかぬ」

と、言って全然言う事をきかないのだ。

「しゃぁないなぁ。頭が堅いちゅうか、融通がきかんちゅうか。まぁ、それも大事やけど、自分の身も守れんかったら、あんたの後ろの人も助けられんで。しっかり傷治しといて、今度頑張ったらええんや。ええか、死ぬまでが戦いやで。行きとるうちは、負けに入らん。うちが最上級の魔法治療師のとこへ連れってたる」

 シノブちゃんは、レシーバーで巫女ちゃんに連絡をとった。

「巫女さんか。すまん、今いいか?」

<少しならいいですよ>

「あんなぁ、ここに怪我人がおるんやけど、なんか意地張って治療に行ってくれんのや。そっちの治療状況はどうなっとんかな?」

<キャラバンの方々の治療はほぼ終わりました。後は軽傷の護衛の方が数人です。構いませんから、こっちに連れて来てください>

「すまんな、巫女さん。恩にきるで。じゃぁ、連れて行くさかい、治療は頼むな」

<分かりました>

 どうやら、キャラバンのメンバーに手当は、もう終わったらしい。

「剣士さん、うちが馴染みの治療魔法使いに聞いてみたら、キャラバンの人の手当は終わっとるようやで。これで、あんたの大義名分も立つさかい、傷治しに行こうで。あれ、もしかして立てんのか? それじぁしゃあないな。流星、頼むで」

「ガッテンでさぁ」

 というが早いか、流星号は、女剣士を抱えるを先を行くシノブちゃんの後に着いて行った。

「な、何をする。妖刀の使い手、女剣士のサユリを、姫抱っこで連れて行くだとう」

「しゃぁないやん、怪我しとんやから。心配すんなって、うちの相棒の流星はこう見えてもジェントルマンやさかいな。剣士さんを優雅に運んでくれるで」

「いや、だが、刀も脇差しも付けたままでは重かろう」

「ハハハッ、オイラ、ロボットなんで、軽くて飛ばされないようにするほうが難儀でさぁ」

「な、全然大丈夫やろ。うちのゆうた通りやん」

 カッカッカと、高笑いするシノブちゃんに対して、剣士のサユリちゃんは、少し居心地が悪いようである。

 しばらく歩くと、キャラバンの概ね中央で、巫女ちゃんが中心になって、怪我人の治療を行ってた。

「巫女さん、治療のはかどり具合はどうや。

「もう、ほとんど終わりましたよ。わたくしの他にも、治療魔法の使える方が何名かいましたのではかどりました」

「そりゃ、ええこっちゃ。その人が終わったら、この剣士さんを頼むで。一応、血止はしといたが。結構深手のようなんや。あんじょうたのんま」

「分かりました。はい、これで、傷もふさがりました。後は栄養剤を補給して下さい」

 と、巫女ちゃんは、今まで治療をしていた男に、そう言った。

「ありがとう、助かったよ。血がいっぱい出た時はどうなるかと思ったよ」

「頭の傷は皮膚の厚さが薄いので、たくさん出血したように見えるんです。もう大丈夫ですよ。では、そちらの女剣士様、こちらに来て下さい」

「かたじけない」

 サユリちゃんが言うと、巫女ちゃんはサユリちゃんを、簡易ベッドの上に寝かせた。服を開いて、血止めの包帯を取ると、彼女は凄く驚いた。

「何でこんなになるまで放おって置いたのですか! 重症ですよ」

「ホンマか! すまんなぁ、うちの止血が下手くそだったらしいわ」

「気にするでない。戦場でこの程度の傷はかすり傷だ。こんな状態でも、止血も出来すに戦いを続けないといけない時もある。今回は、それがしは不覚をとっただけのこと」

 それを聞いた巫女ちゃんは、いつに無いくらい、怒った。

「何を言ってるんですか。世の中、命あってのモノでしょう。あなたが死ぬことで、苦しみを背負う方もいるのですよ。格好良い事を言う前に、これからは命を安売りするのはやめてください」

 と、逆に怒られてしまった。

「こんな、うら若き乙女に怒られてしまうなど、それがしも、落ちぶれた物だ」

 サユリちゃんはそう言うと、深く溜息を吐いた。

「ん〜もうっ! 左手首が複雑骨折。背中に打撲傷多数。両肩に裂傷、おまけに、出血多量で血圧降下。こんなんで、よく意識を保ってましたね」

「修羅場は何度かくぐっているからね」

「ええカッコするのは、後で構わん。早う、巫女さんに怪我治してもらえ」

「すいません、くの一様、申し訳ありませんが、輸血のセットと、A型の血液をもらってきてくれませんか」

「よっしゃ、任せとき。ほれ、行くぞ流星」

「ガッテンだ、姉御」

 シノブちゃんと流星号は、キャラバンの中を右往左往していた。

「え〜い、いったい医療器具は何処へ行ったらあるんや。ごっちゃごちゃやで」

「しかし、姉御が剣士の姉御に、ここまで肩入れするなんて珍しいっすねぇ」

「ん? あのネーチャン、相当の使い手やで。うちでも素手で五分五分、剣を抜かれたら、到底敵わんわ。それがあの重症やで。魔獣に待ち伏せされたとか、キャラバンで異変が起こったとか、何か特別な事が無い限り、あそこまでの傷を負うはずがない」

「じゃぁ、もしかしてハメられたとか」

「可能性はあるな。街まではもうすぐやが、後一回くらいは、何か起こっても不思議やない。うちはその辺を勇者さんや魔導師さんに訊いて見とうなったんや」

 ミドリちゃんは、そんな事を考えながら、キャラバンを巡っていた。が、一向に肝心の輸血キットに辿りつけないでいた。そして、気が付いたら、元の簡易救護場に帰ってしまっていた。

「ありゃ、おかしいな。一周回ってしもたがな。すまん、巫女さん、輸血キット、中々見つかれへんでなぁ」

 ああ、くの一様。大丈夫ですよ。隣の方が終わったので、洗浄して使わせてもらいました」

「ありゃ、うちら全然役に立ってへんな。すまんなぁ、巫女さん。で、どないや?」

 シノブちゃんに容態を訊かれた巫女ちゃんは、

「取り敢えず、輸血と、わたくしの治療魔法で峠は越えました。でも楽観視は出来ません。古傷の開いたのもあって。この方、かなり身体を酷使していますね。本当だったら、今すぐにも療養をさせるべきなのですが」

「せやろうと思っとったわ。他の護衛の戦闘士とは明らかに違うもんな」

「分かっていたんなら、早く連れてきて下さい」

「ああ、すまん、巫女さん。結構抵抗されて、やっとここまで抱えてきたんや」

「そうっすよ。姉御も頑張ったんすよ」

 そんなやり取りがあるとは知らず、俺は彼女達に声をかけた。

「巫女ちゃん達、治療の方は進んでいる?」

「あ、勇者様。はい、もうほとんど終わっているのですが。この方がかなりの重症なので、まだ時間がかかります」

「この方って、女剣士さんじゃないか! そんなに深手だったんすか」

「うちらが来るまで最前線で魔獣達を食い止めとったらしい。ここだけの話やが、他の雇われ戦闘士は、ビビって使いモンにならんかったようやで」

「それであの傷か。俺達が来るのがちょっと遅かったら、全滅だったな」

 シノブちゃんの情報に、俺は、さもありなんとおもった。

「それとなぁ、勇者さん。もしこの剣士さんに次の仕事が無いようなら、うちらのチームに入れたらどうかと思うとるんや。それ程、この人、腕が立つ」

「そうだなぁ。おれも、自己流じゃなくって、ちゃんとした剣術を習いたいところだったしな。まぁ、どっちにしても、街までは護衛がてら一緒の旅になるけどね」

「行き先、おんなじみたいやからな」


「ま、お昼も過ぎたし、もうちょっとしたら、巫女ちゃんにラプトルのステーキでも作ってもらうかぁ」

「せやなぁ。それは楽しみやで」


 こうして俺達──勇者一行は、旅のキャラバンと、行く道を同じくすることになったのだ。




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