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キャラバンと共に(2)

 俺達は、一番近い北の街まで後一日というところに来ていた。


「後一日で街かぁ。今回は、えろう長う感じたな。ほんっとに、荒野ばっかりで、草一本もあれへんかったからなぁ」

 シノブちゃんが珍しく、後ろ向きの発言をしていた。

「わたくしの知っている元の異世界(・・・・・)は、こんな荒野は本当に極希でした。もしかしたら、この世界は滅びに向かっているのかも知れません」

 巫女(みこ)ちゃんも、何か暗いことを言い始めた。

「それを覆して何とかするのが、『勇者』なんだろ。ボクは期待してるんだぞ、勇者クン」

 魔導師のミドリちゃんである。ここまで言われたら、何とかしなきゃって思っちゃうよね。俺は大きく伸びをすると、目の前の荒れ地を眺めていた。

「まずは食料の確保! と言いたいところだけど、本当に何にもないから、今日もブレイブ・ローダーの保存食っすかね」

 俺は、取り敢えず、そう提案した。

「そうだね、勇者クン。取り敢えずは、ご飯だね。お腹空いてると力出ないし」

 そうして、俺達は夕食の準備を始めた。


「勇者様、保存食ばかりで申し訳ありませんが、夕食の準備が出来ました」

 巫女ちゃんが、さも申し訳なさそうな顔をして俺に報告した。

「いやぁ、巫女ちゃん、ご苦労様っす。こんな荒野のド真ん中で、ちゃんとした夕食が食えるんすから、上出来っすよ」

「メニューは、オオイグアナの燻製と、トマトソースのパスタ。それからミドリドリの肉団子汁です」

「お馴染みのメニューっすね。ありがたくいただかせてもらうっす」

 俺が荒野に設えたテーブルに着こうとした時、

「あらあら、忘れるところでした。勇者様、これを」

 と言われた差し出された物は、お馴染み『精のつく珍味』だった。


(うう、またこれっすか。何度出されても馴れないっす)


 俺は、苦笑いを浮かべると、

「あ、ありがとうっす」

 と言って、皿にもられた串焼きを受け取った。

「そ、それじゃぁ、夕食にするっす。いただきます」

『いただきます』

 そういうことで、、俺達は夕食を始めた。

 そういや、最初に異世界に来た時に、Cレーションとかの軍用食があったよなぁ。もしかして、異世界にも軍隊なんてあるのかな?

「そう言えば、俺っち、最初に異世界に来た時に、行商人のおっちゃんから、Cレーションを買ったんすよ。異世界に、軍隊なんかあるんすか?」

 すると、ミドリちゃんが応えてくれた。

「軍隊は無いよ。そのCレーションや他の軍用食は、サバゲー用のやつだよ」

「サバゲー……っすか?」

「うん。何組かのチームがあって、一週間ぐらいかけて戦うんだ。賭けの対象にもなってるし、ファンクラブだってあるんだよ」

「野球やサッカー、……みたいなもんすか?」

「そうだね。実際には、人殺しは無しだけど。結構エキサイトするんで、最大のリーグ戦は、異世界全部が注目する大イベントになるよ」

「そ、そうなんすか……」

 そうなんだ。サバゲー用の食料パックだったのか。しかし、何でも有りだな、この異世界。本当の軍隊が有るんなら、手伝ってもらえるのになぁ。

「そういやぁ、この異世界に来て、あちこちの街を見て回ったすが、小さい子とか赤ちゃんとかは見なかったすねぇ。トイレも行かなくって済んだり。この異世界って、微妙に元の世界と違ってるっすよねぇ」

「そうだね。ボクはここに来て十五年になるけど、歳って、とらないよねぇ」

 と、ミドリちゃんが驚愕の事実を告げた。

「ええっ。ミドリちゃんて、そんなに長く居るんすか? てか、すっごい歳上。俺っち、ミドリちゃんは、高校生くらいかと思ってたっす」

 若作りと言うには、驚異的な若さだ。超驚いた。

「うちは、かれこれ五年くらいかな。でも、今だにピチピチボディーのお姉さんやで。生理も止まったまんまやし、おなごにとっては、ええ事ずくしやで」

「じゃぁ、もしかして……。子供とか、生まれないんすか?」

 俺は気になって、そう訊いた。

「そうだね、勇者クン。生まれないみたいだね」

「うちも、「子供が生まれた」っていう話は聞かんなぁ」

 そうか、子供も生まれないのか。歳もとらないなんて、スゴイなこの異世界。

「あれ? じゃぁ、元の世界では俺っち達は、行方不明者なんすかねぇ?」

 すると、ミドリちゃんは、

「そこまでは、ボクにもよく分からないなぁ。元の世界に帰れたって話も聞かないし。案外、『植物人間になってて精神だけここに来ている』のかも知れないねぇ」

 ええーっとぉ、そうなんだ。そんなこと、全然考えたことなかったよ。もしそうだったら、洒落にならないな。

「もしかして、巫女ちゃんは、その辺の事情は知ってるの?」

 何だか、訳が分らなくなってきたので、俺は巫女ちゃんに相談してみた。

「さぁ? わたくしも、その辺りの事はよくは知らないのです。そう言えば、わたくしも、小さかった頃の記憶とかありませんし。何て言うんでしょうか……、気が付いたらこの格好で『巫女』をやってましたから。人が生まれるというのも、本当は良く分かりませんの」

 えっ! マジカそれ。異世界の設定って、よく調べなかったけど、案外ヤバかったりする?!

「じゃ、じゃあ、異世界の人って、死んだらどうなるの? 勇者みたいに、その都度召喚とかで補充されるんすかねぇ」

 巫女ちゃんは、ちょっと困った顔をして考え込んでしまった。

「そんなん、ええやないか。歳とらんで、いつまでも若いまんまなんやで。これこそラッキーやないかい」

 シノブちゃんは、相も変わらずの調子だった。


(う〜ん。と言う事は、不老なわけだな。不死じゃぁ無いけど。大事が起こらない限り、いつまでも青春を謳歌できるんだ。やっぱ、異世界って凄いわぁ)


 俺は、肉団子汁のスープを飲み干しながら、頭の中で情報を整理しようとしていた。

「う〜ん、ここ(・・)では歳をとらないから、実年齢とか意味を持たないんすね。だから、R指定みたいな法律も無しなんすね。……でも、病気で死ぬって事は、ありそうっすね」

 俺は、再び湧き上がった疑問を、皆にぶつけてみた。

「せやなぁ、毒キノコとか喰ったら死ぬし。でも、死ぬような病気なんてのも、聞いたこと有らへんなぁ。腐ったモンとか喰うと、食中毒で死ぬってのはけっこう聞くでぇ」

 シノブちゃんは、燻製を噛りながら、教えてくれた。

「文化や科学技術その物は、召喚された元勇者(・・・)達が築いたって分かったっす。けど、異世界そのものの仕組みについては、未だ謎が多いっすねぇ。その辺の詳しいところを、巫女ちゃんに教えて欲しかったんすが」

 俺がそう言うと、巫女ちゃんは、さも済まなさそうに、こう言った。

「お役に立てなくて申し訳ありません、勇者様」

「いやいや、巫女クンには、色々と役に立ってもらってるし。まだまだ、巫女クンには訊きたい事もいっぱいあるんだ。そんなに悲観すること無いよ」

 と、ミドリちゃんが、すかさずフォローしてくれた。

「そうっすよ。まぁ、もう一日頑張れば、街まで辿り着けるっす。今日は夕食喰ったら、ゆっくり休むっす。補給や遺跡探索は、街で考えれば良いっす」

「せやな。てー事で、今日もぎょうさん喰うでぇ。流星、お前はちゃんと整備しときや。街着いたら、極上の美味いオイル、飲ませてやるさかいに」

「それはありがてぇぜ、姐御。明日も姐御のケツを乗っけて、街へ向かってゴーですぜい」

「せやから、ケツケツ言うなっちゅうとるだろうに」

「サンダーも、街に着いたら、洗車してもらおうな。ワックスなんか、長いことかけてなかったっすからね」

「勇者殿、かたじけないでござる。今夜も拙者と流星号で見張りをするので、勇者殿達はブレイブ・ローダーでゆっくり休んでいただきたいでござる」

「済まないっす、サンダー。今夜も頼むっす」

 俺はそう言って、仲間達を見渡した。

「それじゃ、片付けをしたら、寝るかぁ」

「そうだね。後一日、ゆっくり休むけど、元気は一杯とっとく事。だね、勇者クン」

「その通り。明日も頑張るぞぉー」


 てな感じで、荒野の旅は終わろうとしていた。




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