003
ストックが……無い……。
さて、叫び声が聞こえた所に行くと馬車らしき物に乗っていた人がゴブリンらしき奴に襲われていた。ホントにお約束だな。ちなみに「らしき」ってつけたのは確信が持てないから。馬車であろうに付けられていた馬らしきものは、まぁ、馬っちゃ馬だが何か違う。異世界だからだろう。ゴブリンは多分合ってるだろうけどね。きっと合ってる筈。合ってなかったら恥ずかしっ。
「水無月さん、私がやってもいいですか? さっきやってたから次は私ですよね?」
あの、紅月サン? 笑顔が怖いんですけど…。
「あ、あのな? 俺もスキル上げなきゃこの世界で生きていけないと思うんだ? だから、ね? 紅月は一つLv.MAXあるだろ? ある程度まで上げさせてくれよ…。傷付いたら紅月の治癒スキルで直してくれればいいし。治癒スキルのレベルも上がるし。ね、ね?」
「……分かり、ました」
渋々ながら引き下がってくれた。俺の必死の説得が功を成したようだ。
で、現状だ。ゴブリンらしき物が十匹程度。馬車らしき物に乗っていたであろう人が数人死んでる。不思議な事に何も思わなかった。……っと話がずれた。数人は荷物を持って逃げているようだ。だが荷物があるからか段々と追い付かれている。
俺は二本の剣を抜き、逃げてる商人に武器を振り被っている一匹のゴブリン(めんどくさいかららしきは付けない)に斬り掛かった。
ザシュッ、っと音がし、緑の鮮血が飛び散る。斬られたゴブリンは怒り狂い、標的を俺に変えてきた。一匹のゴブリンが俺を標的にしたため残りの九匹も俺を標的にしてきたようだ。
斬られたゴブリンは力任せに振り被り、振り下ろしてくる。怒ってる為か攻撃が単調で軌道が普通に読めた。最小限の動きで避け、剣を振るう。ゴブリンの武器を持っていた右腕の付け根の骨が見えた。半分しか切れなかったようだ。そうと分かると俺はもう片方の剣で、寸分違わず関節を斬りつけた。骨と骨の間に剣が入り込み、反対側まで突き抜ける。
もう一度ザシュッ、っと音がして今度はゴトッ、っと音がした。ゴブリンの腕が取れた。腕の付け根からは噴水の様に緑の血が出ている。
「ギャギャギャッ!!」
戦略撤退だろうか? 自分では無理だと悟ったようで後退しだした。
「逃がすかよ」
一瞬で間合いを詰め、首にめがけて刀を振るった。
スパンッ、っとまるで空気の様に斬れた。体から離れた頭は中に舞い、ゴロゴロと地に転がった。頭が無くなっ た体は重心を保てず、後ろに倒れた。
「ギャギャッ!」
「ギャギャギャッ!」
残りのゴブリン達も自分の危険を感知したのだろう、三匹一斉に俺に攻撃してきた。斧やら棍棒やら剣やら思い思いの武器を手に取り、俺に掛かってきた。
俺は二本の剣を収め、日本刀に手を掛ける。
一閃、二閃、三閃。
相手には見えない速度で抜刀し、鋭い風圧で攻撃する。抜刀術だ。ゴブリン達には刀の柄を掴んだ様にしか見えないだろう。一瞬で抜き一瞬で戻す。それが抜刀術。俺に掛かってきたゴブリン三匹は何が起こったのか分からずに吹き飛ばされた。腹には刀傷の痕が。一匹目と同じ様に緑の血が流れ出す。
三匹はすぐに体勢を直し、残りの五匹を連れて八匹で襲い掛かってきた。
「くっ……」
流石に分が悪い。一対八だ。二刀流で受け流しているが限界はある。初戦闘だぞ?まだチートも貰ってない俺が八匹同時は無理がある。
何? スライム戦があったじゃないか? 馬鹿野郎、あれを一戦に入れるな。
限界はすぐに来た。体力も筋力も疲れてきて、一撃を受け流せなかった。動きが止まった俺の腹に棍棒が振り抜かれる。
「がはぁ……!」
腹に強力な一撃が入り、胃の中の物が逆流してくる。吐きそうになるのを堪えながら立ち上がり、霞む目で敵を見据える。死んだら終わり。ゲームみたいには生き返れない。命がけだ。一度は死んだ(どうやって死んだかは覚えてない)。でも生きてる。これは紛れもない事実。
「ギャギャッ!」
「ギャギャギャッ!」
一撃入って気を良くしたのか、さらに攻撃してくる。俺は辛うじて防ぐ事しか出来ない。さっきの一撃で俺の内蔵はぐちゃぐちゃになった筈。動きは鈍る。肩で息をする。体が動かない。酷使しすぎたのだ。いきなり動き回るし、元々運動だってそんなにしてなかった。
そんな俺が出すぎた真似をすればどうなるか。敗北しかない。元々主人公なんてガラじゃないんだ。異世界トリップの定番のゴブリンだからと言ってなめてかかってこのザマだ。
攻撃の殆どが掠りはじめてきた。反撃出来る気力の無い俺のわき腹に剣が突き刺さる。ドクドクと赤い血が流れてくる。途切れ途切れになりつつある意識を保ちつつ、最後の反撃に出る。
日本刀に手を置き、今ある全力で抜刀する。一匹吹き飛んだ。
まだ行ける。二閃目。近くに居た奴が同じく吹き飛ぶ。
そして三閃目を抜刀しようとしたら二匹のゴブリンが攻撃してきた。一匹の攻撃はなんとか抜刀術で防いだものの、もう一匹の攻撃が鳩尾に入った。
バキバキっ、っと言う嫌な音と共に肺にあった空気が全て外に出された。あ、骨が何本か逝ったな……。
「ごはぁ…!」
口から血を吐き、俺は吹き飛ぶ。わき腹からの大量出血もあり、意識を保っていられるのがかなりキツい。
「か…つう…ん」
必死の形相の紅月の聞き取れなかった言葉を最後に俺の意識は薄れていった。
4話でお気に入り約20件は多い方なのだろうか…。
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