表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

最終章:チェックアウト


「あ……あ、あああああああッ!!」

カイトの絶叫が地下室に響き渡った。

自らの中にある「真実の記憶」という名の泥が、理性を完全に飲み込んでいく。あの日、彼が廃車工場のプレス機へ送ったのは、鉄屑ではなく、まだ温かかった少女の命だった。

『……思い出してくれて、ありがとう。カイト』

少女の囁きが部屋の空気を震わせた瞬間、地下室の天井から凄まじい地鳴りが響いた。

ガガガガ、ギチギチギチ……ッ!!

それは建物の崩壊音ではなかった。

カイトの視界の中で、コテージの四隅が歪み、壁が内側へと猛烈な勢いで迫りくる。まるで、巨大な**「プレス機のプレッシャー」**がこの空間そのものを押し潰そうとしているかのように。

「待て、やめてくれ! 悪かった! 謝るから、助けてくれ!!」

カイトは出口へ向かって這いずろうとした。だが、床から溢れ出した泥が、鎖のように彼の四肢を固定する。

隣にいたドールも、暗闇で狂い泣いていたアリスも、すでに泥の濁流に呑み込まれ、その姿は見えない。

ギチィッ!!

ついに壁がカイトの体に触れた。

肉が裂け、骨が軋む。

逃げ場のない立方体の地獄の中で、彼は最後に見た。

泥の中から現れた少女が、かつて彼が彼女を殺した時と同じ、純粋で、そして底知れぬ憎しみを湛えた瞳で、自分を見つめているのを。

「さようなら、カイト。……ずっと、一緒だよ」

グシャッ。

湿った音が一度だけ響き、コテージは山の一部へと回帰するように、音もなく崩れ落ちた。

エピローグ

翌朝。

麓の村の住人から「山から異音と異臭がする」との通報を受け、山岳救助隊と警察が現場に到着した。

そこにあったのは、昨夜まで確かに存在していたはずの貸切コテージの残骸――ではない。

ただ、そこだけが深く抉れ、黒い泥が溜まった「不自然な空き地」だった。

「……警部、こちらを!」

捜査員が指差した先。泥の底から掘り出されたものを見て、ベテランの刑事ですら顔を背けた。

そこには、一人の男の遺体があった。

カイト。

彼の遺体は、到底、人間の力や建物の倒壊ではありえない形にまで「圧縮」されていた。

四肢は胴体の中に押し込まれ、頭蓋骨は平たく潰れ、全身の骨が粉々に砕け散っている。その姿は、まるで**『スクラップ工場でプレスされた廃車』**そのものだった。

「ひどいな……。何があったんだ、一体」

刑事がカイトの死体の傍らに落ちていた、泥まみれのスマホを拾い上げる。

奇跡的に電源が入ったその画面には、未送信のメッセージが表示されていた。

宛先は、存在しないアカウント。

内容は、ただ一言。

『チェックアウト、完了』

その時、スマホのカメラが勝手に起動した。

レンズが捉えたのは、刑事の背後に立つ、泥を滴らせた「仮面の少女」の姿。

だが、刑事が振り返った時、そこには初秋の冷たい山風が吹き抜けているだけだった。

(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ