第三章:地下の埋葬、真実の泥
「かくれんぼ」という名の処刑が始まる。
完全な闇に包まれたコテージで、俺たちは互いの荒い呼吸だけを頼りに、リビングの床下へと続く隠し階段を見つけ出しました。
「ここだ……。図面にはなかったけど、床板の厚みがここだけ違う」
アリスが震える手でタブレットのライトを床に照射します。ジャッジが呑み込まれた場所のすぐ隣。重いソファを退けると、そこには古びた真鍮の取っ手が付いた、小さな跳ね出し戸がありました。
「開けるぞ」
俺が取っ手を引くと、地下から立ち上ってきたのは、これまでの比ではない**「圧倒的な死の匂い」**でした。湿った土と、長い年月をかけて腐敗した何かが混ざり合った、肺を拒絶するような臭気。
梯子を降り、地下室へ足を踏み入れた俺たちのライトが映し出したのは、豪華なコテージの地上階からは想像もつかない、異様な光景でした。
そこは、コンクリート剥き出しの空間ではなく、**「部屋の中に、もう一つの山がある」**ような場所だったのです。
泥の丘と「忘れ物」
地下室の中央には、黒い泥がうず高く積まれていました。それはまるで、誰かが外から少しずつ運び込んだかのように。
「見て、あれ……」
ドールが悲鳴をこらえて指差した先。泥の山から、小さなピンク色のスニーカーが片方だけ突き出していました。
「あ……」
俺の視界が歪みます。
あの日、俺が山に埋めたと思っていたのは、ただの幻覚だったのか。それとも、誰かが掘り返して、ここへ「持ち帰った」のか。
アリスの限界
「嘘だ、計算に合わない。ここはただの別荘で、地下室なんて構造上……っ!」
アリスが狂ったようにタブレットを叩きます。しかし、画面に映し出される地図データは、ノイズにまみれ、いつの間にか少女の顔の形へと変貌していました。
「うわあぁぁぁ!」
アリスはタブレットを投げ捨てます。彼が信じていた「情報」という武器は、この怨念の迷宮では何の役にも立ちませんでした。
本物の遺体
俺は吸い寄せられるように、泥の山へと歩み寄りました。
泥を素手でかき分ける。爪の間に黒い土が入り込み、皮膚を切り裂く。それでも止められない。
「いた……」
泥の中から現れたのは、あの日の少女――ではありませんでした。
そこに横たわっていたのは、「半分だけ泥に変わった、複数の人間たちの死体」。
その一番新しい顔は、先ほど死んだはずのプロフェット。そして、その下には、数年前に「行方不明」として処理された、このコテージの歴代のオーナーたち。
彼らは全員、この地下で、少女に「隠されて」いたのです。
『……ねえ、見つけてくれた?』
背後で声がしました。
振り返ると、ドールの影が異様に長く伸び、彼女の背中から無数の泥の手が這い出して、彼女の口を塞ごうとしていました。
「助けて……カイト……!」
ドールの瞳が恐怖で裏返ります。
その時、俺のスマホが午前0時を告げるアラームを鳴らしました。
【通知:タイムアップ。本物の遺体(私)は見つかりませんでした】
「……え?」
俺は目の前の泥の山を見ます。そこにあるのは、代わりの犠牲者たちの死体だけ。
少女の本体は、ここにはいない。
『……だって、私はまだ、あなたの車の中にいるんだもの』
俺の記憶が、濁流のように溢れ出します。
そうだ。あの日、俺は彼女を埋めなかった。パニックのあまり、彼女を車のトランクに押し込み、そのまま廃車工場へ回したんだ。プレス機にかけられた車の中で、彼女は生きたまま……。




