表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

第一章: 宣告の夜(承)


プロフェットの言葉が、冷たい霧のようにリビングに立ち込める。

俺は喉の奥がカラカラに乾くのを感じ、視線を泳がせた。なんとかしてこの場の空気を、ただの悪趣味な演出だと思いたかった。

ふと、リビングの隅にある古いロッキングチェアが目に入った。

部屋の照明が届かない影の中で、そこには「誰か」が座っていた。

黒いパーカーのフードを深く被り、こちらに背を向けるようにして、微動だにせず深く腰掛けている。

「……おい、プロフェット」

俺は震える指でその影を指した。

「演出はいい加減にしろよ。あっちの椅子に座ってるのは誰だ? 予備のサクラか? それとも、お前の仲間か?」

俺の言葉に、全員の動きが止まった。

般若の面をつけたジャッジが、面倒そうに首を振る。

「何を言ってる、カイト。この部屋にいるのは俺たち四人だけだ。プロフェット、ジャッジ、ドール、そしてお前。それ以外に誰がいるってんだ?」

「……え?」

俺の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。

「いや、見てみろよ。あそこに座ってるじゃないか。さっきからずっと、あそこで俯いて……」

俺は再び、影が落ちる椅子を指差した。

しかし、ピエロの仮面を被ったアリスが、タブレットを操作しながら無機質な声で割って入る。

「カイト、あんまり変な嘘をついて場を乱さないでよ。このコテージのセキュリティログを確認したけど、入室したのは僕ら四人だけ。その椅子……さっきからずっと空席だよ?」

アリスがタブレットのライトを、ロッキングチェアの方へ向けた。

青白い光が影を切り裂く。

そこには――誰もいなかった。

古びた木製の椅子が、誰も座っていないのに、**ギィ……ギィ……**と、ごくわずかに揺れているだけだ。

「……あ」

声が漏れた。

見間違い? いや、そんなはずはない。確かにそこに、泥に濡れたような黒い服の人物が座っていたはずだ。その背中からは、耐え難いほどの拒絶感が漂っていた。

「恐怖で幻覚でも見たんじゃない? 罪の意識があるなら、早めに告白しちゃいなよ」

ドールがクスクスと、鈴を転がすような声で笑う。その笑い声が、今の俺には鋭い針のように刺さった。

「カイト」

プロフェットが、冷え切った声で告げる。

「死の宣告は、もう始まっている。預言からは、誰も逃げられない」

彼はそう言うと、俺たちに背を向け、一階の奥にある「開かずの間」へと向かった。そこはこのコテージで唯一、内側から重厚なかんぬきがかかる密室だ。

「朝まで、僕はあそこで瞑想する。僕の預言が、君たちの誰によって『執行』されるのかを見極めるために。……誰一人、僕の部屋には近づかないように」

パタン、と重いドアが閉まる音がリビングに響いた。

俺は再び、あの椅子を見た。

ライトが消えた後の暗がりに、また「何か」が座っているような気がして、俺は自分のスマホを握りしめた。

画面には、刻一刻と減り続ける数字。

【残り 23:45:12】

そして、気づいてしまった。

自分のスマホの画面に、自分でも、アリスでも、プロフェットでもない、**「見知らぬ誰か」**の指紋が、べったりと、泥の跡のように付着していることに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ