噂のサラリーマン系ゴリラ
沙也加たちは、ゲート付近にあった爬虫類エリアから、チンパンジーエリア、そしてゴリラエリアを抜けて、人気者のペンギンがいるペンギンパークエリアに来ていた。
(そういえば……最近、サラリーマン系ゴリラがいるとかいないとか、ニュースになっていたけど、あれって本当なのかな……?)
少し前に流れてきたSNSの情報。
シゴデキたぬきと暮らしている身としては、気になることであったが、嘘も本当も色んな情報が行き交う世の中。
しかも、主夫や同居人ならともかく、あろうことかゴリラが人間社会に溶け込み、サラリーマンをしているというのだ。
(さすがに、嘘っぽいよね……)
同居であるシゴデキたぬきは信じる。
サラリーマン系ゴリラは信じられない。
一体、どこで線引をしているのか、よくわからない状態になった沙也加であった。
が、例のごとくポイっとどこかに投げて、
(って、今はでーと、でーと中だからね!)
そう思考を切り替える。
そして、そのでーと相手、七菜に視線を向けた。
(うふふ♪ かわいい〜! 高橋課長の肩車されちゃって)
少しでも、動物を目に入れたいのだろう。
さきほどまで手を繋いで、ルンルン気分だったというのに、七菜はシゴデキ課長のサラサラヘアに手を置いては、岩の上をテクテク歩くペンギンたちを指差して笑顔を咲かせていた。
「きょーたん、きょーたん! あのこたち、かぁいいね! でも、なんで、くびのとこオレンジなの?」
「ああ、あれは……オシャレみたいなものだ。あれでどこの誰なのか、判別しているらしい」
「はんべつぅ?」
「え、あー……あれだな。服装で江ノ上お姉さんと俺が違うっていうのと同じだ」
小難しいことなど、考えていない。
純粋な目で、動物たちを見て、心から楽しむ。
これぞ! 動物園の正しい楽しみ方、正しい歩き方というやつである。
沙也加が大人になる過程で忘れてしまったものだった。
(こ、これが……歳を重ねるってことなのか……)
たぶん違う……。
どこの世界に上司の、それも親戚の子供を見て、自らを省みる人間がいるのだろう。
実にシゴデキたぬきが鼻を鳴らし、ため息を吐きそうな案件である。
だが、残念なことに沙也加のズレ修正係、たぬきちはここにはいない。
よって、そのズレは加速して――。
(童心に返って楽しんだ方がいいって、ビジネス本でも読んだ気が――)
したかに思えたが――。
「おねーさんは、どのどうぶつがすき?」
でーと相手の一言で、ギュイン! U字カーブを曲がる車の如く矯正されて、
「あ、えっ! えーっとね……」
(どうしよう……ここは犬っていう? いや、たぬきっていうべき?)
勝手に究極の二択を迫られていた。




