5W1Hは必要
デートならぬ、でーと現場となった四天王寺動物園の中。
沙也加は、シゴデキ課長こと、高橋課長の正論パンチに項垂れながらも、でーとを楽しんでいた。
「さやかおねーさん! たのしい?」
「うん! 凄く楽しいよ!」
「えへへ〜! よかったぁ!」
「楽しいし、可愛いし、動物に囲まれているし、もうめっちゃ幸せだよぉ〜!」
同年代では得られない、純度百パーセントの可愛い成分を七菜から。
そして自宅ではお目にかかれない他の動物からは、癒し成分を摂取していた。
それは、もう物理的にもだ。
動物園特有の少し芳しい匂いもなんのその、それすら癒しとなるほどに。
気分は子供とあまり変わりない。
とーっても残念なことに。
愛たぬきが見たら、「ギャギャッ!」と一言物を申すレベルである。
けれど、その奔放な振る舞いが功を奏したのか、愛たぬきではない、上司(人間)の高橋課長はクスリと微笑んだ。
「ふふっ、俺の目に狂いはなかったな。君に頼んでよかった」
「いやいや、そもそも私がしでかしたことの罪滅ぼしみたいなものですから!」
(あ、そうだった。これ罪滅ぼしだった……)
自分で口にしてようやく、忘れかけていた罪を思い出した沙也加である。
実に嘆かわしい。
だが、ここは動物園。
動物好きの沙也加にとって楽園、つまりはユートピアみたいなものなのだ。
(まぁ、いっか♪)
楽園に来てしまった沙也加は、そう思考を放棄した。
理由はどうであれ、突然唸ったり、動物に目を輝かせたり、コロコロと表情を変える沙也加が面白いようで、
「ふふっ、君は本当に面白いな」
高橋課長は、そう言って話を切ると手を繋いでいる七菜に腰を落として顔を近づけた。
「良かったな、七菜。沙也加お姉さんは、楽しいみたいだ」
「うん! おかあさんがこれなかったのは、ざんねんだけど……ななもたのしい!」
(お母さんの代わりなんて……私には無理だけど、楽しんでくれてるようで、良かった♪ それにしても――)
しんみり大人っぽい気持ちになっていたというのに、シゴデキ課長の普段は見せない子供向けの口調に自然と笑いがこみ上げてきて、
「沙也加お姉さん……フフッ」
沙也加は小さく笑った。
「なんだ……? なにか変なところでもあるか……?」
ムッとした顔のまま、眉をひそめて言葉を返す高橋課長。
(し、しまった! ちょっと失礼だったかな)
「い、いえ! なんか……いつも違って優しいなーって思ってですね――」
沙也加の指摘が恥ずかしいようで視線を逸らして、
「はぁ……だから、子供は苦手なんだ」
拾えるか拾えないかギリギリのボリュームで呟いた。
(なるほど……これがあのシゴデキ課長、高橋課長の弱点なのか……フフッ。思わぬ収穫かも……)
お昼休憩のネタとして、思わぬ収穫を得たと思った沙也加であった。
けれど、
(いや、そうなると……この経由を全部説明しないといけない……)
それも一文一句、ズレることなく【5W1H】を用いて、
・いつ(when)
・どこで(where)
・だれが(who)
・なにを(what)
・なぜ(why)
・どのように(how)
この全てを明確にしないと、偉いことになる。
(やめておこう……)
傍から見れば、恋バナだ。しかも、みんな大好き社内恋愛である。
そんな話に尾ヒレならぬ、ミズオオトカゲのような長い尻尾がついてしまっては、さすがの沙也加でも、シゴデキ課長であっても、どうすることもできない。
沙也加は、起こり得た未来にブルッと体を震わせたのだった。




