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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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沙也加構文爆誕

 ペコリと丁寧なお辞儀をする七菜に対して、沙也加もお辞儀を返し、かがむと手を差し出した。 


「七菜ちゃんって言うんだ〜! 挨拶ありがとう〜! 私は江ノ上沙也加っていいます♪ 今日はよろしくね!」 

「うん!」


 差し出された手をギュッと掴んで花が咲いたかのように笑顔を咲かせる七菜。 


 けれど、この日をよっぽど楽しみにしてきたのだろう。

 七菜はゲートの方をチラッと見ては小さく頭を振って、沙也加の方を見る。

 そんなことを繰り返していた。


(ふふっ、よっぽど楽しみにしてたんだねー!)

 

 その姿、純真無垢。

 どんな動物にも引けを取らない可愛さ、尊さで。


(きっと、ここにたぬきちが居たら、もっと盛り上がっただろうなー……)


 ふと、ここにはいない、愛たぬきのことが浮かんで、


(ワンチャン、この子にだったら、バレても大丈夫なような……)


 そんなことを心の内で呟いたのだが――。


「江ノ上君……? 急に黙り込んでどうかしたのか?」 

「ひゃい!?」


 隣に立っていたシゴデキ課長に声を掛けられて、そのとんでもない考えは消えた。


「「ひゃい!」だってぇ〜! おねーさん、かぁいい! どうぶつさんたちといっしょだ!」


 その上、自分より二十以上も下の子供に可愛いと言われる始末である。


(は、恥ずかしい……)


 顔から火が出そうなくらいだった。


 けれど、


「七菜、さすがに動物と一緒は失礼だぞ」


 シゴデキ課長こと、高橋課長の一言が雰囲気を変えた。


(さすがにって、どういうことだろう……)


 その言葉がやや引っ掛からなくもないが、話題が逸れたことで、ほんの少しだけ恥ずかしさが紛れて、


(気にしないようにしよう!)


 そそくさと思考を切り替えた。


 野生のたぬきから、シゴデキたぬきと進化した、同居人たぬきち。その生態を調べても調べても、一向になんでそうなったのかわからない。


 結果。


 わからないことは、わからない。

 起きたことは、起きたこと。


 そんなとんでもポジティブシンキングが完成していた。


 シゴデキたぬきとの日々の副産物によって、ポジティブの化身と化した沙也加は、


「あはは〜♪ 大丈夫ですよ〜! 私、動物大好きですし!」


 そう応じた。


 そもそも、嘘ではない。

 動物に似ていて可愛い――それをよく捉えるなら、同居人である愛たぬきに似てきたということなのだから。


(たぬきちに似ているなら、嬉しくない?)


 ポジティブシンキングここに極まれり、もうポジティブというか、ポジティブキング、いやポジティブクイーンかもしれない。


(うんうん……愛たぬきに似ているなら、いいかも♪)

 そう思ったポジティブクイーン沙也加は、ひとりでに頷いて穴だらけの自己暗示を繰り返す。


 ポジティブを極めると、穴だらけでも見えなくなるのだ。

 全くもって節穴でしかない。


(いや、でも……人間でたぬきに似ているってどうなんだろう……)


 その穴から、たぬきがひょっこり頭を出して自己暗示を解こうとしたが――。


(でも、ま、いっか!)

  

 過ぎたことは気にしない。

 だって、過ぎたことなのだから。


 よくわからない沙也加構文が生まれた瞬間であった。


「君がそういうならいいんだが……」

「はい! 気にしないで下さい! 動物好きなんで!」


 好きという言葉だけでゴリ押しする沙也加。

 誰かを説得する時、理論武装をすることも大切だ。

 が、時にこうやってパッションで挑むことも、かなり効果的なのである。


 意味を理解する。

 考えを理解する。


 理屈と感情。

 正反対なのだが、どっちも必要なのだ。

 

 生きるということは、大いなる矛盾を抱えているということだろう。

  

 ちなみに、この考えはたぬきちとの日々で身につけた処世術だ。


 壮大な考えかに思えたが、やはりたぬきに帰結する沙也加である。


 これも大いなる矛盾? である。 


(課長もシゴデキだしね! 通じるはず!)


 共通事項は、シゴデキであることだけだというのに、断言してしまう。物凄い自信である。


 それがおかしいのか、高橋課長は、口元に手を当ててクスリと笑った。

 

「あ、ああ……そうか。ふふっ。君は面白いやつだな」


(おお……笑った!)


 完璧超人のシゴデキ課長から、笑顔を勝ち取った気がして、嬉しくなってしまう沙也加であった。

 

「ふたりとも〜! はやくいこうよ〜!」

「もうあんなところまで……困ったじゃじゃ馬姫だ」

「課長もそんな顔するんですね!」

「どういう意味だ?」

「いえ、結構、振り回されていると思って」

「そりゃな……だから、人当たりの良さそうな君を呼んだんだが……」

「えっ?」

「いや、深い意味はない。ベストな人選だと考えただけだ」


 高橋課長は、そういうと話を切って、


「改めて、今日はよろしく頼む。江ノ上君」


 優しく微笑み掛けた。


「は、はい! こちらこそ!」


不意の一撃(イケメンの微笑み)をくらって、ペコリとお辞儀をしてしまう沙也加。

 

「ふっ、それでは、うちのじゃじゃ馬姫とおんなじだな。まぁ、その方が君らしいな」

「な、なんですか? その言い方!」


 さすがの沙也加も、高橋課長の言い方にイラッときてしまって、フンスフンスと鼻息を荒くしてしまう。


 けれど、相手はシゴデキ課長。

 それも察していたのか、それともただ思ったことなのか、


「いや、褒めているんだぞ? 子供の目線になれるってことだ」


 正論を口にしたのであった。

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