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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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引っ付き虫とオカン級

 引っ付き虫のようにピッタリ後ろについてくる沙也加を軽くあしらいながら、たぬきちはリビングから寝室に向かい、打開策の為に必要なものを手にして、再びリビングに戻っていた。


 その必要なものとは――。

 

 白くて、密かに進化し続けている文明の利器。

 裁縫好きからすると切っても切れない存在――ミシンであった。


「ご主人、机重くないポンか?」


 たぬきちは、ミシンを両手に抱えながら、後ろにいる沙也加を気遣う。

 

「あ、うん。これくらいなら大丈夫! それにキャスター付いてるから♪ こうやって――」


 折り畳み式ミシン台を開いて、その場でコロコロと動かす沙也加。


 そして、一度言葉を切ると、


「というか、たぬきちはそれ重くないの?」


 まるで子供を抱くかのように、両手で大切に持っているミシンとその上に乗っている裁縫箱を指差した。


 ちなみに、どちらにもたぬきちお手製のシールが貼られている。デザインはクローバーを持ったたぬきだ。


 幸運を招く猫、ならぬ、幸運を纏うたぬきである。


 ここは、敢えてのアピール的なやつである。

 決して、猫にライバル心を抱いているわけではない。


 いや、実はほんの少しだけ、羨ましいとか思っていたりはする。

 例えば、公園や街中での扱い。

 野生であっても、人間たちから声を掛けられ、愛でられることに。


(同じ動物なのにポン)


 まだ、人との共存してきた歴史がない親戚枠の犬。

 その一挙手一投足が可愛い推しレッサー君率いるレッサーパンダ。

 動物園にいる動物たち。

 彼らが愛でられるのは、理解できる。


(いつから、こんなに猫と差ができたポン……というか、たぬきの扱い悪くないポンか?)


 脳内に浮かぶは、躾がしにくい。

 なつきにくい。病気を持っているかもしれないという、人間が調べたネット記事の数々。


 このたぬき、寛容さオカン級などいうのに、世間からのたぬきに対しての評価も気にするという、側面も持ち合わせているのだ。


 実に人間より、人間らしいたぬきであろう。

 もはや、新種なのかもしれない。


(もっとちゃんと調べてほしいポン! データ取りは多くしないといけないポン!)


 一体、どれくらいのたぬきに出口調査をしたのだろう。

 なぜ、病気になるのか、なつきにくいのは環境のせいではないのか?


 沸々と沸き上がる疑問の数々。


 一瞬、世の中の不平等、平等に不満を垂れそうになったたぬきちであったが、


「――ねぇってば! 固まっちゃって、大丈夫? やっぱり重いんじゃない?」


 体をゆさゆさ、心配そうに覗き込む沙也加の顔を前にして、その不満は消し飛んだ。


「ポ、ポン! ご主人と鍛え方が違うポンからね! これくらいなんでもないポン」


 そう口にした直後。


 たぬきちの思考は別の方向へと切り替わる。


(気遣ってくれるのは、嬉しいポン……でも――)


 いつもは、それよりも重たいご主人を、お酒に溺れてベロンベロンになった貴女を引っ張ったり押したりしていますよ〜! なんてことを浮かべて、つい口に出してしまいそうになるが、ゴクリと唾と一緒に飲み込んだ。


(こんな些細なことで、時間を消費するとか勿体ないポン)


 そうなのだ。

 今は、さっさと打開策を実行するのみ。

 でないと……。


(間違いなく、めんどくさいことになるポン)


 たぬきちの勘がそう告げていた。


 そして、その勘通りとたぬきちのなんでもない言葉を受けた沙也加は、ミシン台に平伏していた。


 さらには、


「き、鍛え方……ワタシフトッタ」


 などと、ブツブツと呟く始末だ。 


 きっと彼女の脳内は、どうやっても太ったという言葉に辿り着くあみだくじでも行われているのだろう。


 まぁ、真実はよくわからないが。


 それはそれとして、このままでは埒が明かない為、たぬきちは、当初の目的を唱えた。


「ご主人、それよりも今は約束があるポン! 大人として、社会人として、約束を反故するのは良くないポン!」


 論点をズラさずに、真正面から事実を伝える。

 沙也加にとって一番効果のある方法なのだ。


「そう……だよね。うん。確かにそうだ! そもそも私から提案したんだし!」


 沙也加は拳をグッと握り締めてすっかり元気を取り戻した。

 

「クキュ♪ そうポン!」


 ご主人の変わらない素直さに、ちょっぴり嬉しくなったたぬきちは、尻尾をゆらゆらゆっくり振って足を進めて、沙也加もその後についていった。



 ☆☆☆



 満を持してリビングについたたぬきちと沙也加は、持ってきたミシンのセッティング、デート(仮、弁当要員)に着ていく候補の衣服をズラリと並べていた。

  

「……そういえばさ、これってもしかして、たぬきち……そのミシンで私の服をリメイクしちゃうとか?!」


 沙也加は過去の栄光を並べながらいう。


 今気付くとは、どこまでもいっても天然なご主人である。

 とはいえ、立ち直った引っ付き虫、沙也加がいうようにたぬきちの打開策とは、過去の栄光を現在に合わせることなのは間違いない。


 今更言うまでもないのだけれど。


「そうポンよ! 早くサイズ確認したいから、ミシン台はそこに置いて、真っ直ぐ立ってポン!」

「は、はい! わかりました。たぬきちさん!」

「ポン!」

 

 心の内では、もっと早く言って欲しかった。

 けれど、沙也加に贅肉を付けてしまった原因は、自分にもある。

 だから、漏れ出そうな本音をグッと堪えて、キャスター付き折り畳み式のミシン台を手早く広げて、メジャー片手に、首元・胸部・腕周りに腰周り。

 成長を遂げているであろう部位を計測していく。


(……各部位、プラス五センチずつ大きくなっているポン)


 予想していた通りの結果に、一瞬動きが止まりそうになるが、ブンブンと頭を振って、淡々と計測作業を進めた。

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