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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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大きな子供

「……起きるポン! 早く起きるポン!」


(だめポン……全く起きる気配がないポン)


 体が反射的に休日だと判断しているのだろう。

 掛け布団を引っ剥がえしても、どれだけ体を揺すっても、沙也加は目を開けることはない。


 それでもたぬきちは諦めることなく、体を揺すった。


 だが――。


「ん……もぅ……それは私の……なんだから……むにゃむにゃ――」


 寝言ばかりで、どうにもならない。

 朝早くから、夜遅くまで、ボロ雑巾のようになるほどの激務を繰り返す毎日。


 同僚や上司からの評価が上がっても、仕事の量は減らない。

 労働の真理、辛い現実。

 どう過ごしたって疲れは溜まる。

 だから仕方ない。

 仕方ないのだけれど――。


「なんか腹が立ってきたポン!」

 

 そもそもが三年前に仕出かした自分の失敗が原因。

 ふいに思い出していてもたってもいられなくて、相手に提案して沙也加自身が約束したこと。

 その上、まぁまぁ乗り気だったはずで。


(お弁当もお願いしてきたのにポン!)


 出来ないことを認めて、たぬきちを頼った。

 

 だというのに、全く起きる気配がなく、狸寝入りではなく、ガチ狸寝である。


 沸々と沸き上がる憤りを抑えきれず、たぬきちは次の手段を取った。


 その手段とは――。


「たぬき式・緊急起床術ポーーーーーン!」


 掛け声と共に、床を蹴ってジャンプ。

 宙返りを決めてから、まるで忍び――ムササビのような体勢で幸せそうに涎を口から垂らす沙也加のお腹へ飛び込んだ。


「――グハッ!」


 無防備な状態、クルリと回転したことによる力が加わったことで、絵に描いたような叫び声を上げる沙也加。


 たぬきちの手段とは、おおよそ百三十センチメートルの体全体を使っての抗議であった。 


 ちなみに、この独特な技名は、たぬきちが最近ハマっている忍者アニメの影響だったりする。


 【レッサーパンダ将軍、世渡り上手】もそうなのだが、このたぬき、割と古風好きである。


 それはそれとして。


「ふふっ! これで起きたポン!」


 そう確信したたぬきちは、沙也加に覆い被さってしてやったりとほくそ笑む。


 ――が。


「……んすぅーーーーーはァーーーー! 幸せの香りだぁ……」


 沙也加は起きるどころか、この状態を噛み締めているかのようにたぬきちの胸元に顔を埋めては、めいっぱい吸っていた。


「ギギッ!」


 全身の毛を逆立てるたぬきち。


 起こそうとしたのに起きない。

 それどころか、今度は抱きついて離そうともしない。


 そんなご主人を前に、ついに!

 たぬきちのとてもとっても太い堪忍袋の緒が切れた。


「ギャッギャッ!」


 言葉にならない声を響かせて、沙也加の腕を振り解いて、頭上のカーテンを開けた。


「うわっ! ま、まぶしっ!!」


 いきなりの朝日に、さすがの沙也加も驚いてベッドの上でジタバタ。まな板の上の鯉のようになった。


 けれど、たぬきちの手は弛まない。


「悪即斬ポンーーー!」


 そう叫ぶと、ベッドから降りて同時に力いっぱい掛け布団を引っ張った。


「っな、なななな?! 布団が! どっかいったぁぁぁーーー!」


 どうやら、沙也加はまだ朝日に目が慣れてないようで、たぬきちが、目の前にいるというのに、キョロキョロと周囲を見渡すばかり。


 なんとも幸せなOLである。


 その彼女らしい姿を目にしたたぬきちの堪忍袋の緒は、いつの間にか、結び直されていた。


(お弁当要員兼子守り要員とはいっても、一応、今日は異性とデートになるポンよ……なのにポン……)


 髪の毛は、寝癖でアホ毛があちらこちらに、実った稲穂のように頭を垂れつつも跳ねていて、口元には、涎のあとが残っており、寝ている間に掻いたのか、パジャマが少し捲れてお腹の部分が見えている。


 それは大人の女性というよりは――。


「はぁ……もう大きい子供ポン……」


 そう呆れるたぬきちであった。

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