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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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波乱の予感

 デカデカ玉子焼き騒動から、一週間と一日が経った日曜日の朝。


 ――ピピッ、ピピッ、ピピッ。


 江ノ上家の寝室に鳴り響くアラーム。


「ポン……」


 瞼をコシコシ。

 たぬきちは、沙也加との生活で発達した手を器用に使って軽く毛繕いをして、枕元に置かれたスマホを見た。


「五時ポンか……」

 

 そう呟くとアラームを止めて、隣で寝息を立てている沙也加が起きないようにこっそりベッドから抜け出す。


 とはいえ、いくらシゴデキたぬきと言っても今日は日曜日。本来であればここまで早く起きることはない。

 では、なぜ起きているのかだが――。


(正直、まだ寝たいポン……でも、今日はご主人にとって特別な日ポン!)


 そう、今日は沙也加にとって特別な日。

 異性にデートを誘われた記念すべき日なのである。

 そして――。


(お弁当を頼まれたポンからね!)


 今までは、ただ流れでやってもらう。

 そこに感謝はあっても、できないという事実を突きつけられ続けた三年間のせいで、そうなっていた。


 けれど、今は違う。

 玉子焼き騒動のあと。

 誰しも向き不向きがあると本当の意味で理解した沙也加が、たぬきちへ頼み込んだのだ。

 

 大いなる変化――大いなる成長である。

 沙也加にとっては。


(そうは言っても、嬉しい成長ポン♪ ここはシゴデキたぬきママとして、応えないとポン!)

  

 それも相手はシゴデキ課長である。

 張り切らない方が難しい。


(とはいえ、まさかボクの推理が合っているとは思わなかったポン……)


 たぬきちは、小さくため息を吐きながら、ベッドの横に畳み置いていたエプロンに腕を通す。


 残念なことは、名探偵と化したたぬきちが導き出した答えと一致したということ。


(でも、ご主人にお弁当と子守りって……人選ミスポン)

 

 そう、沙也加が誘われたのは、たぬきちの推理通り、高橋課長の姪っ子のお守り兼お弁当要員だったのだ。

 実に嘆かわしい。

 けれど、それも仕方なかった。


(まぁ、迷惑を掛けた時のお返しポンからね……)


 酒に酔った沙也加が仕出かした黒歴史を清算する為。

 そもそもこれは言うなれば、奉公のようなものだ。

 初めこそ舞い上がっていたが、今では沙也加本人もそう認識している。

 

 そんなことよりも――。

 たぬきちは視線を横に向けた。

 

「……二へへ〜……もぉ、食べられないよぉ……」


 その本人はというと、ベッドの上でゴロンゴロン。

 時折、寝言を口にしながらなんとも幸せそうに寝ている。それこそ、今日が出掛ける日ということを忘れているかのように。


 こちらの方が気になる。


(まさか……忘れているなんてことはないポンよね)


 尻尾を下向きフリフリ。

 たぬきちは一抹の不安を抱きながらも、頼まれていたお弁当作りをする為、足音を立てないように、慎重に足を進める。


 どんなときでも、ご主人の睡眠を優先するシゴデキたぬきである。


 そんな気遣いが沙也加に届いたのか、


「……たぬき……ち……お弁当あり……がと……」


 寝返りを打って緩みまくっただらしのない……いや、なんとも幸せそうな表情で寝言を口にした。


 たぬきちは、まだまだ起きる気配のしないご主人の顔を見つめて、小さく「クキュ♪」と鳴くと、そっと扉を閉めてリビングへと向かった。

 


 ☆☆☆



「んー……ポン。なかなか起きてこないポンね」


 ダイニングの壁掛け時計をチラリと見るたぬきち。

 その針が差す時刻、七時半。


 もう頼まれたお弁当も作り終えている。


 だというのに、沙也加は一向に寝室から出てこない。


(寝かしてあげたいけどポン……さすがに起こしにいかないと間に合わないポンよね……)


 待ち合わせ時間が十時。

 最寄りの駅まで、おおよそ徒歩二十分。

 そこから動物園までは、電車を乗り継いで十分。

 一見、時間に余裕があるかのように思えるがそうではない。


「人間は、ボクらと違って色々とあるポン」


 人間は自らを着飾るのに時間が掛かるのである。


 メイクに毛並み(ヘアセット)、衣服に持ち物まで。

 もっと細かくするならば、いくらでもできる。

 それくらいに多岐にわたるのだ。


 とはいえ、もちろん、たぬきにだって動物にだって身だしなみという概念は存在する。


 気になる異性がいれば、毛並みを整えもするし、自分の好物だって持っていくこともある。


 だが、それでもそんなに時間は掛からない。

 毛並みを整えるだけなら、どれだけこだわっても、数分。相手とシェアしたい好物の準備であれば、前日にしておけばいい。

 

 けれど、沙也加はメイクをするだけで、平均三十分。

 着ていく服までは、いくらたぬきちであっても把握していないが、確実に二、三十分掛かるのは想像に容易い。


「今日は仕事じゃないポンからね」


 これが仕事であれば、オフィスカジュアルというジャンルの服を上下の組み合わせを替えながら乗り切れる。


 個性よりも、清潔感。

 職場の雰囲気に馴染むことが第一。

 スマホを駆使して、ネットサーフィンすれば、センスなんてほぼいらない。


 時間の掛かるメイクも同じだ。


 だが、今回はそうではない。


 完全なるプライベート。

 言うなれば、沙也加の個性をいかに出すのかが、大切なのである。


 そんなこと三年間一度も誰かと出掛けたことのない沙也加が、想定しているわけもなくて……。


(だいぶやばいポン……)


 たぬきちの脳内には、ウォークインクローゼットから蓄えた、タンスの肥やしならぬ、ウォークインクローゼットの肥やし……なんとも語呂が悪いが、それを片手に大騒ぎする姿が浮かんでいた。


 けれど、良いか悪いか別として、そのおかげか、たぬきちの発達した脳が活性化して、


「そういえばポン――」


 ふと昨日、何気なくスマホで検索した経路案内を思い出した。

 

(動物園のある最寄り駅まで辿り着くのに、徒歩込み込みでおおよそ一時間だったポン!)


「はぁ~、仕方ないポンね……」


 なんだかいつも通りの展開に呆れつつも、寝室で幸せな時間を過ごしているであろう沙也加を起こしに行くのであった。

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