まさかの強運
たぬきちの指摘を受けた沙也加は、容器を見て目を白黒、固まったかと思えば、
「あ、あれー? 掴んだの砂糖だったはずなのにな〜、おかしいな〜」
などと、とぼけながら苦笑いを浮かべていた。
んなわけない状況である。
そんなご主人を前にたぬきちは、早くも自分の選択を悔いていた。
(いきなり躓いたポン……)
腕を組んだまま、どう声を掛けていいのかすらわからない。
当然であろう。
できないことを知る。それは大切なこと。
だから、再開した。
というのに、沙也加は小さじ1という(成人女性の一日の摂取量)である塩を入れたのだ。
(さすがにお塩が多過ぎるポン)
塩分を摂りすぎると、血圧だの心臓だの、ろくなことにならない。
いつぞやのテレビ番組を思い出して、内心焦り始めるたぬきち。
(こうなると捨てるしかないポンね……)
リメイクしようにも、摂取する塩分量は変わらないのだ。それが最適解。
そう思って踏み台に登って、ボウルに手を伸ばそうとした……その時――。
「ちょっと待つポン……」
そういうと、たぬきちはくるりと方向転換をして、キッチンであたふたする沙也加から、ひょいっと計量スプーンを取り上げた。
これが卵を二個、もしくは三個使った溶き卵であったなら、修正できなかった。
しかし、使われた卵の数は十個。
たぬきちの頭の中で、瞬時に計算がなされた。
「とんでもない強運ポン……」
それは奇跡。
失敗したとしても、結局どうにかなってしまう沙也加が沙也加である所以であった。
「きょ、強運ってどういうこと?! もしかしてここからどうにかできるの?!」
「ポン……出来てしまうポン!」
出来てしまう……これがたぬきちの本音である。
正直なところ、どうにか出来ない方が、とんでもない失敗をした沙也加に対して自然に反省を促せる。
よって、先生としては修正できない方がいい。
だが、たぬきちの根幹である部分。
シゴデキママたぬきとしてのそれは違った。
(十個の卵が無駄にならなくて良かったポン〜!!!)
せっかく買った食材が無駄にならなかったことが嬉しくなってしまったのだ。
こうなると、いくらシゴデキと言えど、思考を切り替えることは容易ではない。
その内なる本音に共鳴するように、沙也加も安堵の声を漏らした。
「良かったよぉ〜!」
どこまでいっても、自分に正直。
嘘がつけないから、一緒にいる。
たぬきちは、その姿に同居人として半分納得しつつも、
(ポン……泣きたいのはボクの方ポン……)
もう半分のシゴデキママたぬきとして肩を落とすのであった。




