表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/56

プロジェクト始動

 沙也加が弁当の乱を成長と言い聞かせて、家を出てから数十分経った頃の、江ノ上家の洗面所。


 シゴデキママたぬきこと、たぬきちは、洗濯機の前で自らの仕出かしたことに後悔の念を抱いていた。


「ポン……やってしまったポン」


(推理することに夢中になってしまって、肝心なことを忘れていたポン)


 沙也加に伝えそびれた肝心なこと――それが頭から離れなくて、洗面所の鏡を拭いても拭き残しがあったり、洗剤を入れ忘れたり、なにをやっても二度手間状態となっていた。気分転換にと、お気に入りの動画や推しである【レッサーパンダ将軍、世渡り上手】を観たとしても、集中できない。


 完全に心ここにあらず状態である。


 その肝心なことは――。


「お弁当……作っているのはボクポンよね……」


 そう、前提条件を全てひっくり返す、沙也加とたぬきちの間では当たり前すぎる事実であった。


 普段のたぬきちであれば、すぐさま間違いを正して、小言の一つや二つをお見舞いした。


「ほんと困ったご主人ポン……」


 初めは呆れ、けれど徐々に表情をコロコロと変える沙也加が面白くて、謎を解き明かすのが楽しくなって、つい酔ってしまって――トドメは、沙也加が成長した自分を受け入れて、たぬきちに向けてお礼言ったことであった。


(でも、あんなふうに笑われたら……ズルいポン!)


 思い浮かぶは幸せそうに微笑む沙也加の姿。

 

 なんだかんだ言って、沙也加のことが大切なたぬきちである。


 ――ピーピー。


「あ、洗濯終わったポン!」


 洗濯カゴに汚れの取れた衣服を入れていく。

 

 けれど、ふと、たぬきちは思った。

 

(……というか、ご主人もすっかり忘れていたポン……)


 とはいっても、沙也加は毎日、空になったお弁当箱を「ありがとう」という言葉と一緒に渡してくる。

 

 どう考えても、作ってもらっていることを忘れているとは思えない。 


「ポン……きっと周囲の人に言われすぎたポンね」


 沙也加の性格からして、嘘はつけない。

 でも、真実を言うと自分のことがバレてしまう。

 結果、慣れない嘘をつくことで、その場凌ぎが起きて、嘘が本当になってしまう。

 

 要は身から出た錆だ。


 たぬきちは、持ち前の勘の鋭さでそう考えた。


(それはそれとしてポン――)


 思考しながらも、洗濯カゴを抱えてテクテクと足を進めて、ベランダへと向かう。


 尻尾でカーテンを開けて、右足で網戸をズラし、スリッパを脱いでベランダへと。


「いい天気ポンね〜!」


 空には雲一つない快晴で、少し先の桜並木道では、人間の子供たちが列を成して登校しており、手前の住宅街では、マダムたちが井戸端会議を始めていた。


「今日も平和ポン♪」


 ――パンパン!


 衣服のシワを軽く伸ばして、物干し竿に掛けていく。


 すると、エプロンのポケットに入れていたスマホが震えた。


「……ポン?」


(このタイミングで鳴るのは、だいたい良くないことポン……)


 虫の知らせ……ではなく、経験則からくる約束された事実である。


(きっと電車の中で忘れ物に気付いて、慌てているか、もしくは急な会議が入ったという連絡ポンね)


 たぬきちは、ため息を漏らしながらも、一度手を止めてスマホをポケットから取り出して、通知画面を肉球でタップ。


「ポン……成長してるポン」


 そこに表示されていたのは――。


「た、た、たぬきち……私、とんでもないことに気付いたの……私……お弁当作ったことない!!! いや、料理はしたことあるけどさー……炭だったし――」


 文字から声が聞こえてきそうないきいきとした? 文章であった。


「どうしたものかポン……」


 ここで呆れて、なにもしない。

 もしくは軽くツッコんで終わる。

 別にそれでもいい。

 お弁当も自分が作って今まで通り、嘘を突き通せばいい。 

 そうすれば、わざわざ料理を教える必要もない。


 一瞬、たぬきちの頭にそんな考えがよぎる。


 だが、彼は忠犬ならぬ、忠たぬきなのだ。


 ふるふると頭を振って、小さな拳を握り締めた。


「ポン! 何事もチャレンジポン!」


 例え、少し前に炭を生成していたとしても、人間は成長する。たぬきちはその伸び代に掛けてみることにして、


「取り敢えず、帰ったら玉子焼きでも作ってみるポン!」


 たぬきちは、そう返信した。


 ここにプロジェクト、【ご主人お弁当作れるかな?】発足した瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ