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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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シナリオライターたぬきち?!

 美味しいご飯に全てを受け入れてくれるたぬき。

 幸せな時間を満喫した沙也加は、カラスもびっくりな速さでお風呂に入れられていた。


 誰に? もちろん、シゴデキママたぬきこと、たぬきちにだ。


「……もうなんか、凄すぎてだよね……」


 湯船に浸かって、そうひとりごちる沙也加。


 三十路手前にもなって、シャンプーハットを着けられて誰かに頭をわちゃわちゃ、なんとも恥ずかしいような……いや、でも幸せなような言い表せない気持ちを抱いてしまって、


「ねぇ……たぬきち。私のこと子供とか思っているんでしょ!」


 沙也加は扉の向こうで、洗面所で自分のルームウェアを準備しているであろう愛たぬきに話しかけた。


「クキュ♪ そんなことないポン! ご主人はご主人ポン♪」


 なんだかいたずらっぽい鳴き声を響かせては、扉に映った影が動く。耳はぴょこんと立って、尻尾は上向きにフリフリと。

 尻尾の動き、声色的には、自分を子供扱いしていると取れる。けれど、肝心の表情が見えない。 


(どっちだろう……わかんないや……というか――)


 よくよく思い出してみると、素早く体を洗ったあと、その泡を落とす時は車を洗うかのように、遠めからシャワーをかけてきた。

 

 それは洗うというより、完全にコイン洗車機だった。


(私って、車だったんだ……)


 子供とすら思われていないのか――湯船によってとろけた沙也加は、そんなことよくわからないことを浮かべながら、お風呂時間を満喫した。

 


 ☆☆☆



 ダイニングに置かれた二人掛けの若草色をしたソファーにて。

 

 風呂から上がった沙也加の頭は、晩酌のことでいっぱいになっていた。

 

「たぬきさん……その……あの〜……」


 キッチンでカシャカシャ、なにかを洗うような音を立てて作業しているたぬきちに語りかける。

 

 だが、敬語な上、いつもより歯切れの悪い感じだ。


 何も言わず出してくれるときは、ただそれを享受して、めいっぱい感謝を伝えればいい。


 けれど、自ら言い出すのは別問題。

 たぬきちに至っては今日も手の込んだ料理を作ってくれたし、自分は会議に次ぐ会議で疲労困憊な上、明日も仕事。

 深酒して起きるのが遅くなる可能性だってある。


(こういう時に飲むと大体、そうなるんだよね……)


 たぶん、データ化――見える化をしたら、信憑性のある相関関係がわかる綺麗なグラフになるだろうなーなんか想像して、


「いっそのこと、データ取って、改善するとか……」


 足を伸ばしては、意味不明なことを一人ポツリ呟いた。

 全ては、お風呂タイムが生んだリラックス効果なのかもしれない。とんでもない副産物である。


 とはいえ、もし、そんなことが起きてしまったら、なんでも受け入れてくれる器の大きいたぬきちであっても、「ギャギャッ!」と機嫌の悪そうな鳴き声を響かせて、掛け布団を奪ってくるのだ。

 窓のカーテンをシャーッと開けてのコンビネーションと共に。

 これも信憑性の経験則である。


(あの朝の日差しって、ダメージ受けている気がするんだよね……)


 それだけではない。二日酔い――頭の中から、ノックする痛みと喉の渇きまでそこに加わるのだ。


(あはは……控えておこうかな……)


 起こり得るかもしれない最悪に身震いして、次の言葉が出てこなくなる沙也加。


 だが、それを察してか、キッチンでなにか作業していたたぬきちがゆっくりと口を開いた。

 

「どうしたポン?」


 それは棘のある感じがしない、優しい問いかけであった。

 そんな真心を感じる声色に背中を押されて、沙也加は自分の考えを口にした。

 

「えーっとね……今日、ちょっとだけ飲みたいなーって……」

「ポン! 白ワイン、グラタンの時に用意してたのがあるポンよ♪」

「あ、あの時に白ワイン!?」


 夜遅くに帰った日。

 メモには書いていなかったけれど、たぬきちが沙也加の為にグラタンに合うお酒をと、用意していたものであった。

 

 たぬきちは口をあんぐり開ける沙也加が面白いのか、「クククッ」と笑いを堪えながら、小さなグラスを二つ出し、コンロの前に立った。

 

「ついでに、このワインであさりの酒蒸し作るポン♪」


 そして待ってましたと言わんばかりに、火を点けて小鍋にあさりらしきものを入れて、手際よく味付けをしていく。


(もしかして、帰宅後の私の動きを読んでいた?!)


 家に帰ってから、ここに至るまで、料理やお風呂まで。

 全てたぬきちの描いたシナリオ通り……かもしれない。


 ともなれば――。


「て、天才か……」


 沙也加は自然とそんな言葉を漏らしていた。


 間髪入れずに、小鍋から白ワインの爽やかな香り、あさりの旨味を感じられる匂いが部屋を満たす。


「いい匂い〜♪」

 

 難しいことは置いておいて、沙也加はいつものようにたぬきちの手料理の虜になっていた。

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