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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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危うしたぬきち!

たぬきちが晩御飯の支度に取り掛かっていた、その頃。


 住吉電器株式会社のオフィスが入っている三十階建てのビルの前。

 沙也加は、いつもの場所と化した三人掛けのベンチで、後輩の倉下由紀と、同期の藤咲彩音と昼食を取っていた。


「はぁ~……どこかにいい男いないかな~」 

「藤咲先輩、そればかりですよね〜」

「だってさ……ときめきがないんだよ! 言うだけいわせてくれっ!」

「あはは〜! まぁ、言うのはただだもんねー!」

「いいよね~! 江ノ上は余裕で」

「余裕っていうか、なんていうか……」

「あー、犬がいるもんね……私もペット飼おうかな……」

「いいと思います!」

「いやいや、冗談だよ。自分が生きていくだけで精一杯だし。その子の人生まで背負えないって」

「確かに……私も実家が近いから、猫ちゃんを預かったりできますけど、完全な一人暮らしなら無理ですね」

「でしょ? それにひきかえ江ノ上は――」

「ほ、ほら! 私んとこの子は、凄くしっかりしているし」

「そういえば言ってたね……たぬきちちゃんだっけ? 滅多に吠えないんだよね?」

「うん、全然吠えないよ!」


 吠えないというか、どちらかというと声を上げているのは、自分の方で――。


(――というか、私より全然しっかりしているし、色々とお世話されています)


 沙也加は談笑しつつ、いつものように心でそう呟いて、

 

「まぁ、それなら飼いやすいか……」


 カスクートをひと噛じりして、ため息をつく彩音に対して返事をする。


「そうそう♪」


(これ……成長というよりは、慣れだよね)


 そんなことを思っていても、沙也加は笑顔を崩さない。


 場慣れ――嘘はよくないのだが、こうして繰り返すことによって些細なことでは動じなくなったのだ。


 だが、人生というものはそう上手くはいかない。


 話が一段落したところで、沙也加がいつものようにたぬきちお手製のお弁当に舌鼓を打っていると、由紀が口を開いた。

 

「お二人とも……そういえば、知っています?」

「なになに?」


 すぐさま聞き返す彩音。


 対して、沙也加はその前振りだけで、固まっていた。


 それは――。


(由紀ちゃんが、こういう時に出す話題って、私に刺さる内容が多いんだよね……)


 きっと感覚が近いからだろう。 

 特にここ最近は、共通の話題となっている動物談義に花を咲かせていた。

 例えば猫あるあるや犬あるある(※たぬきだけども)であったりと。

 犬を飼っていない沙也加からすると、それはもうとんでもないストレスである。


(また、ワンちゃんの話題かな〜。はぁ……もうネタがないよぉ〜)


 沙也加が用いていた、たぬき≒犬という方程式をもってしても、今となってはたぬきち≒たぬきが成り立たないので、なんの意味も持たない。


(ネタを探すしかないのかなー……でもな〜インプットする時間が少ないし)


 犬の情報源は、通勤途中に見るYouTubeのショート動画であったり、写真や動画の投稿がメインのSNS――ウキスタくらいであった。


(家で見れたら、いいんだけど。たぬきちが嫉妬しちゃうし……)


 家でじっくり見ようにも、何故かたぬきちは犬に対してライバル心を持っているらしく、それを良しとしないのだ。


 難しい乙女心ならぬ、たぬき心である。

 まぁ、たぬきちはオスのたぬきなのであるが……。


(はぁ……とにかく、聞き返さないとだよね)

 

 一抹の不安を抱きながらも、沙也加は聞き返した。 


「な、なにかなー?」

「は、はい! スーパーで働いている妹から聞いたんですけど、そのスーパーで、二足歩行のたぬきが普通に買い物しているらしいんですよね!」


 その言葉を聞いた瞬間。 


「っ――?!?!」


 沙也加の口から言葉ならない音が漏れ出て、


「――ゴホゴホッ!」


 思いっ切りむせた。


(終わった……たぬきちのことだ……)


 場慣れしてポーカーフェイスを保っていたが、こればっかりはどうしようもない。


 なんとか表情だけでも元に戻そうと足掻く沙也加。

 けれど、顔は引き攣るし、箸を持つ手も震えてしまう。


「せ、先輩大丈夫ですか?!」

「だ、大丈夫か?! 江ノ上! 取り敢えず、お茶!」


 背中を擦ってくれる可愛い後輩に、お茶を差し出してくれた同期のおかげで少しずつ落ち着きを取り戻していき、

 

「あ、ありがとうー! ちょっと急ぎ過ぎたのかも! 一時から会議だし!」


 頭をフル回転させて、この後にある予定へと繋げたのであった。

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