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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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たぬきはマスコット?

(でもポン……やっぱりなんで、騒がれないポン?)


 たぬきちが気になったことは、シンプル。

 ここにいる人間たちの反応であった。


 このマルデ・プラザにだって、噂好きのマダムたちは居るし、空いているとはいっても、近所よりすれ違う人間は多い。


(猟師とかは違うのはわかるポン。山でもないし、縄張り争いしている場所でもないポン)


 確かにここは山ではない。

 追いかけ回してくる猟師もいないし、自然界のルールも適用されない。

 お金を対価に生活用品を手に入れることができて、争う意味もないのだから。

 

 けれど、経験則からして、人間というのはスマホで自分の姿を撮ることやたぬきである自分を面白がったり、物珍しがったりする。

 

 でも、スマホを向けてくることもない。


「クキュ……」


 不思議に思いながらも、たぬきちはカートを止めてスマホをエプロンのポケットにしまい、今日の晩御飯に使う菜の花と新じゃがの品定めをする。


 すると、近くにいた人間たちの会話が聞こえてきた。


「クキュ?」


 品定めをしつつも、耳をピンと立てて情報収集をするたぬきち。

 

「また、来ているわ……あの子」

「二足歩行のたぬきですか?」

「ええ……最近、この時間になると野菜コーナーで吟味しているのよ〜。いや、でもたぬきが買い物なんてありえないわよね」

「ですね。きっとここのマスコットとか、なにかじゃないかしら……最近、ゆるキャラとか流行っているみたいですし」

「なるほど……中身に小柄な人でも入っているのかしら……」

「だと思いますよ。世の中には色んな人がいますし」

「じゃあ、邪魔をしちゃダメね」


 なんと! 正真正銘のたぬき、たぬきちをここのマスコットかなにかだと口にしていたのだ。


 ここに沙也加がいたら、ストレスで発狂しそうな話である。まぁ、内心であろうが。


 ただ、客観的に見ても、たぬきちはたぬきにしては妙に大きい。

 人間の子供、小学生低学年より、少し大きいのだ。


 なので、そう考えてもおかしくはない。


 とはいえ――。


(なんというか、人間は不思議な感覚を持っているポンね。なんでもできるボクだけど、マスコットって……)


「クキュッ」


 なかなかに呑気なマダムたちに思わず、鳴き声を上げてしまうたぬきちであった。


 そんな会話を背中で聞き流しながら、シゴデキママたぬきこと――たぬきちは野菜コーナーを通り抜けて、精肉コーナーでひき肉、鮮魚コーナーで鰆とイクラをカゴに入れた。


 その表情は、先程とは違いとても明るく買い物を楽しんでいた。


 もう人間たちの視線など、全く気にしていない。


 このたぬき、どこかの外っ面シゴデキ、内面ガラスハートOLとは違って、ハートまで鋼で出来ているのだ。


 沙也加と一緒に買い物へ行くこと。

 少し前の状況であれば、ゼロに等しかった。

 けれど、今ならもしかしたらあり得るかもしれない。

 そんなことが、たぬきちの脳裏によぎって、


「ククッ♪」


 小さく鳴き声を上げながら、


(これで買いたかったものは買えたポン! あとは――)


 カゴの中身を見てから、エプロンのポケットからスマホを取り出して、お買い物リストを確認。


(問題なしポンね! えーっと……家にあった)


 そこからさらにキッチン下収納にある醤油などの調味料、冷蔵庫の中身を思い浮かべて、足らないものがないか照らし合わせて、


(ポン! 大丈夫ポン!)


 ひとりでに頷くとレジへ向かった。

 


 ☆☆☆

 


 ――レジの向こうにあるサッカー台。 


 会計を終えたたぬきちは買い物袋に商品を詰めていた。


「クキュ♪ クキュ♪」


(重いもの、角のあるものは下に。葉物や潰れやすいものは上に――完璧ポン♪)

 

 だが、ふと自分の昼食を用意していないことに気付いた。


「ク、クキュ……」


 それは誤算、沙也加のことを考え過ぎて自分のことを忘れていたのだ。

 沙也加をサポートするシゴデキママたぬきとしては、問題ない。


 けれど、


(た、たぬきとして失格ポ、ポン!)


 いちたぬきとしては、良くないことであった。

 食べることは生きること。

 そのことを一番理解しているはずなのに。


(今から、もう一回買い物するポンか……?)


 そう考えて、売り場の方へと目を向ける。

 しかし、売り場は人間だらけだった。

 ついさっき滞りなく通れたレジも今では列が出来ているくらいだ。

 

「クキュ……」


 鋼ハートを持つたぬきちであっても、さすがに戻る気持ちになれなくて、しょんぼりしながら、サッカー台をあとにしようとした。


 ――その時。


 揚げた魚の匂い、海を感じる海苔の香り、炊きたての甘いご飯の匂いがたぬきちの鼻腔を刺激した。


「ククッ♪」


 匂いと共に、思い出もフラッシュバックして、尻尾を上向きに振るたぬきち。


(ポン! そうポン! この隣にはあのお弁当屋さんがあるポン!)


 その店は沙也加が、長らく贔屓にしていた、のり弁が名物の弁当屋、アルジン弁当。


 たぬきちと沙也加を繋いでくれたところでもある。


(……た、たまには、いいポンよね!)


 その時、感じた匂いに思わず口元から涎がポタっと垂れそうになって、じゅるりと吸う。


(ポ、ポン! 危なかったポン……)


 たぬきちは、まるで自身の手料理を前にした沙也加のように、だらしのない表情になっていた。


 実はこのたぬき、塩分やカロリーのことがあるので、のり弁を頻繁に買うことはないが、大好物である干し柿と同じくらい大好きなのだ。


(ポン♪ とにかく、のり弁ゲットするポン!)


 ふるふると頭を振ってから、買い物袋を背負いサッカー台をあとにした。


 が、その弁当屋の奥で。

 たぬきちを見ている視線があった。

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