繰り返される黒歴史(本人は気付いていません)
「ご主人……これはなにポン?」
たぬきちがポケットから取り出したのは、橙色の見慣れた袋――沙也加が捨てたはずのポテトチップスの袋であった。
なんと、このシゴデキたぬき一度捨てたのだが、念の為、証拠として回収していたのだ。
だが、そんなことをこれっぽちも知らない沙也加は、文字通り固まっていた。
「げ――っ」という言葉だけを残して。
けれど、思考は放棄しなかった。
(まさか過ぎるって、なんで証拠隠滅したはずのポテチの袋をたぬきちが持ってるの〜! そこはスルーで大丈夫だよぉぉ〜! というか、どうするよ〜! また、分別もできないのって怒られちゃう〜!)
そんなことを心の内で叫びながら、その顔からは、冷や汗が滲み出て、持っていたグラスも置いた。
もはや思考を放棄するより、よっほど良くない状況かもしれない。全て筒抜けである。
「ご主人……怒らないから、白状してほしいポン」
「えっ」
「「えっ」じゃないポン! ちゃんと言えば怒らないから、ありのままを言ってほしいポン」
(ほ、本当かなー……)
正面に座るたぬきちは心底呆れたような表情、けれど声のトーンはそこまで刺々しくはない。
(確かに怒ってない気がする……)
心底呆れているところには、全く引っ掛からないそれが沙也加が沙也加たる所以である。
とにかく、たぬきちが怒っていないと推理した沙也加は、意を決して本当に仕出かしたことを一言一句、取りこぼすことなく、口にした。
帰り際にあまりにもお腹が減り過ぎて、コンビニに立ち寄り、ポテトチップスを買い、一袋食べ切らないとたぬきちに怒られると考えて、わざわざ遠回りしたなど。
それはもう、つらつらと湧き出る水のように。
「――でね、それで食べちゃったんだ」
控えめに言ってアホである。
だが、一度秘密にしていたことを口にする行為は、蜜の味。その開放感の虜になってしまい――やめられないし、止められなかった。
それこそ、夜遅くの脳髄に直撃するポテトチップスのあのなんとも言えない美味さのように。
そもそも、沙也加には愛たぬきに問い詰められて、黙っていられるほどの、度胸はないのだ。
よって、これは起こるべくして起こった生理現象……いや、業だった。
「――でもね! ちゃーんと! 人目は気にしたんだよ? 街灯が少ない道とか、通ったし! できるだけ音を立てないように食べたしね! そうそう、ご近所さんには見られていないと思うよ!」
「……ポン?」
一体、何を誇っているのだろうか? 愛たぬきから、そんな視線を浴びているのだが、沙也加は一向に気がつかない。
それどころか、
「「ポン」って、首傾げちゃってさ、たぬきちったら可愛いんだから! ふふっ♪ 私もさ、成長しているんだよ? もうコンビニ前でパスタなんて食べないんだから!」
首を傾げるたぬきちを可愛いと愛でてからの、クスりと笑う。
その上、まさかの昔、幸恵から垂れ込まれて、そのたぬきちに注意された自らの数ある黒歴史の一つ。
パスタ事件まで引き合いに出してきたのだ。
ちなみにパスタ事件とは、その言葉の通り、帰りの遅くなった沙也加が、近くのコンビニで立ったままパスタを食べていた事件。
事件というには、いささか大袈裟な表現かもしれないが、とにかく沙也加にとっては、トラウマ級に大事なのである。
(あはは……あの時は、もの凄く怒られたなー)
彼女の頭の中には、その時の場面がまるで昨日のことのように、浮かんでいた。
腕を組んで、「ギャッ、ギャッ!」とたぬきらしい鳴き声を上げてからの、「常識がないポン」や「人間としてどうかしてるポン」などのもっとな注意を含めたながーい説教、説教andmore。
正座して、床に頭を垂れて、二度としませんと誓ってようやく許してくれた。
(あ、あの時と比べたら、成長してるもん! たぬきちも褒めてくれるはず!)
どうすれば、そうなるかは全く理解できないが、沙也加は、満面の笑みを浮かべて、ダイニングテーブルに置いたグラスへと手を掛けた。
が――。
その時、黒色のモフッとした何かがそれを阻んだ。
「ポン……」




