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なろうラジオ大賞7

うた歌いの合言葉は

作者: 四葉ひろ

 なろうラジオ大賞向けに書きました。ぴったり1000字です。お楽しみいただけたら嬉しいです。

 今宵はうた歌いの夜だ。


 この世界では「うた」によって四季を移ろわせ、「うた」によって天気を操る。


 普段は世界の東西南北にある「うた歌いの塔」に住んでいる四季のうた歌いたちが、この夜だけは一堂に会す。


 そして時計回りにそれぞれの住まう塔を交換するのだ。


 春のうた歌いランは,この日が待ち遠しかった。でも今日は少し寂しい。

 うた歌いの任期は5年。このうた歌いの日が終わったら、次のうた歌いの日までに後任と役目を交代する。

 この一年は最後になるそれぞれの塔とも、別れを惜しむように過ごしてきた。


 うた歌いの夜が開かれる「中央の宮殿」へ来るのもこれで最後だ。


「よう! 久しぶりだな」


 明るい声に顔を挙げると、声のとおりに明るい髪色に陽気な雰囲気を纏う男が立っていた。


「フォン」


 ランが名前を呼ぶと笑顔が深くなった。ドサっとランの隣に腰掛ける。もう日が暮れるのに、お日様の香りがした。

 夏のうた歌いであるフォンは、ランと同時期にうた歌いとなり、年に4回、こうやって顔を合わせている。

 春のうた歌いが次の塔に移動すると、そこに夏のうた歌いがやってくる。

 いつもランは、次に来るフォンのために春の花を飾っていた。決まった言葉を添えて。


「次のうた歌いの夜に会いましょう」


 ランは、密かにフォンに想いを寄せていた。想いを告げる勇気はなく、ただ春の花とその一言に想いを込めた。

 

「次が最後の塔だな」


 隣でフォンがつぶやいた。思わずランはフォンを見たが、フォンは前を向いたままで目は合わなかった。そのまま言葉を続ける。


「いつも春の花をありがとう。……手紙も嬉しかった」


 思いがけない言葉にランの胸はドキリと音を立てたが、同時にいいようのない寂しさにも襲われた。


「喜んでもらって良かった。――でも、あの言葉はもう書けないね」


 つぎのうた歌いの夜には、二人とももううた歌いではない。ここに集うこともない。


 しかし、それを聞いたフォンがランをまっすぐ見据えた。

 

「書けよ。――必ず会いに行く。俺たちの合言葉があるだろう」


 見たこともない真剣な顔だった。


 



 次の春のうた歌いは、ランより少し年下の感じの良い娘だった。ランは安心して塔を出た。

 

 今夜、また季節が巡る。

 この夜に部屋で過ごすのは、久しぶりのことだった。ふと前回のうた歌いの夜を思い出す。


 と同時に部屋のドアを叩く音がした。


 ランは、胸を高鳴らせてドアに近づき、扉の向こうに声をかけた。

 

「合言葉は――」


 今宵は、うた歌いの夜。

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