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Rosalie: A Human History  作者: 田中


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11/17

第一一話 The Endling Seed

 二〇二九年六月七日。


#RozalieFaith


#光明運動


 その投稿数は、五億件を超えていた。


“ロザリーは裁きではない”


“彼女は地球の代弁者だ”


 それは宗教ではなく、運動と呼ばれた。


 大学の講義室では学生たちが蛍光塗料やラジウム塗料を腕に塗り、祈りの代わりに静かに手を光らせた。

 “これは地球と一体化する儀式”──そう言って、目を閉じる者もいた。


 街では、放射性マークを描いた旗が掲げられている。

 ニューヨーク、シカゴ、モントリオール、そしてデトロイト。


「ロザリーを殺すな!」


「ロザリーは生きる権利を持つ!」


 そう叫ぶデモ隊が道路を埋め尽くした。


 だが同じ都市の別の通りでは、

 黒い幕を掲げた遺族たちが行進していた。


「ロザリーに家族を奪われた!」


「あの怪物を神と呼ぶな!」


 怒号が交錯する。

 信仰と憎悪が、同じ街で同じ声量でぶつかっていた。


 ABCニュースのキャスター、カレン・ウィリアムズは

 生放送のカメラ前で震える手を押さえながら原稿を読む。


「──ロザリーを巡る国内の分断は深まる一方です。

 政府は『人類に対する脅威である』との声明を再度発表しましたが、市民の一部は、依然として“光明運動”に参加しています」


 背後のスクリーンに、群衆の映像が流れる。

 光る手。祈る目。興奮した声。

 そして、その群れの中に──まだ幼いロザリー・クーパーの姿があった。


 彼女は演説台の前に立ち、マイクを握る。

 ブルネットの髪は短くなり、眼鏡は外されていた。

 代わりに、額にはラジウムの印が描かれている。


「ロザリーは決して私たちに怒っていません!

 彼女は、私たちの中にいるの!

 恐れるな、迎え入れて! 

 光は痛みじゃない、再生の証よ!」


 歓声が爆発する。

 スマートフォンのライトが一斉に灯り、夜の空が、まるで星空のように輝いた。


 その映像を、ホワイトハウスの地下通信室で数人の軍高官と科学者が無言で見ていた。

 スクリーンの端には、ロザリーの出没地図。

 赤い点が増え続けている。


「──信仰が、疫病のように拡がっているな」


 将軍が呟く。

 隣で環境科学顧問のダニエル・カーター博士が答える。


「感染症と同じですよ。

 恐怖は免疫を殺し、希望は伝播する。

 “ロザリー”は、ただ存在するだけでどちらも生ませた」


 将軍が眉をひそめる。


「皮肉だな。怪物を神に変えたのは、我々自身だ」


 その時、液晶を見つめていたオペレーターの一人が声を上げた。


「北方監視衛星からの最新データ!

 カナダ北部、マンニトバ州沿岸で未確認反応──数は……三一、いや三五体! 増加中です!」


 静寂。

 スクリーンに、北方の氷原を越えて進む無数の点。

 それは、光の群れだった。


 ダニエル博士はゆっくりと目を閉じた。


「……これが、“信仰の報い”か」


 報道は止まらない。

 祈りも、恐怖も、止まらない。

 そして世界は、光に包まれながら崩れていった。



────


 歓声とスマートフォンの光が夜空を埋める頃、北方司令本部では、モニター越しにまったく別の光が点滅していた。


 赤、赤、赤。

 危険区域のマーカーが、地図上で雪崩のように増えていく。


「──マンニトバ州北岸、三一体を確認。進行速度は時速二二キロ。氷下を移動中」


 通信士の報告に、作戦指揮官が顔を上げた。

 机上には、太いマジックで書かれた一枚の指令書。


《ROZALIE-02A/北方殲滅作戦》


「対象は生物学的個体群だ。撃滅後、汚染処理を行う。──総員、準備!」


 静まり返る作戦室。

 カメラ越しに見える兵士たちは防護服を着込み、雪原を走る輸送機の中で武器を構えている。


 彼らの背後に掲げられた部隊章には、こう刻まれていた。


“UNITED HUMAN FRONT/人類連合防衛隊”


 それは、アメリカとカナダが初めて共同で立ち上げた“対ロザリー部隊”だった。



────


 同時刻。

 デトロイトの中心街では、ロザリー・クーパーの演説が、世界中のニュースチャンネルで生中継されていた。

 街角の巨大スクリーン、カフェのモニター、病院のロビー。

 誰もがその声を見上げていた。


『ロザリーは、地球の痛みを癒しているの!

 彼女は人々を罰しているんじゃない──人類を正しているのよ!』


 人々の叫びと、雪原の無線が、

 まるで同じリズムで響いていた。



────


「ターゲット確認──接触距離一五〇メートル!」


「放射線濃度、急上昇! 指数四・二! これ以上は近付けません……!」


 雪を巻き上げて、灰緑の巨影が浮かび上がる。

 五メートルを超える個体が、群れの先頭で口を開いた。

 それは咆哮ではなかった。

 空気を震わせるような低い呼吸音。


「発射許可──! 撃て!!」


 閃光。轟音。


 次の瞬間、カメラの映像が白く焼けた。

 防護装甲を貫通するほどの放射粉塵が舞い上がる。

 交信が途絶える。



────


「……通信途絶」


 司令部に沈黙が落ちた。

 通信士が小さく呟く。


「生存反応、ゼロ」


 指揮官は何も言わず、ヘッドセットを外した。

 そのまま椅子に背を預け、天井を見上げ、黙祷を捧げる。


「……また、“神”を撃ったのか、俺たちは」


 その言葉を、誰も否定しなかった。



────


 画面の中で、ロザリー・クーパーはまだ演説を続けていた。

 歓声と祈りが重なり合う。

 その足元の影が、ふと蠢いたことに誰も気づかない。


 ビルの排水溝の奥、

 濡れたアスファルトの下で、

 何かが静かに息をしていた。


 それは、光ではなく──命の脈動だった。



────


 恐怖を失った人類ほど、愚かな種はいない。

 我々は長い時間をかけて、恐れを“克服”だと呼び、その実、“忘却”として塗り潰してきただけなのだ。


─歴史学者 アンナ・モラレス『人類の短い世紀』より



────


 ──アメリカ合衆国 メリーランド州 国立生物災害研究所


 二〇三三年三月二七日 午前九時一四分。


 観測ガラスの向こうで、鉛色の防護服を纏った研究者たちが黙々と作業を続けている。

 手袋越しに操作するのは、かつて「イースタリング研究」として封印されたデータ群──。

 “ROZALIE-01 / PRIMARY GENETIC MODEL”と名付けられたフォルダだ。


「これが……スコット・イースタリング博士の残したデータか」


 モニターを覗き込んでいた若い生物学者、ジェームズ・クレイグ博士が息を呑む。

 横に立つカナダ科学評議会のイザベル・ノーラン博士は冷ややかに頷いた。


「ええ。サドベリー支局の封鎖後、彼の論文が理事長室の金庫から見つかった。

 正確には“論文”というより“警告”ね」


 ジェームズはディスプレイを拡大する。

 そこには、ロザリー01の構造を示す遺伝子図が表示されていた。

 螺旋の中に、通常の生物には存在しない“安定放射性補酵素”と呼ばれる未知の配列が見える。


「……放射性物質を安定化させて代謝に組み込んでいる? そんなことが……」


「理論上は不可能。でも、現実に“生きてる”。

 ミシガン、カナダ、そして北欧──観測データはどれも一致しているわ」


 イザベルの指が震えていた。

 画面の隅には、北米大陸を縦断する光の軌跡が描かれている。

 幾一〇〇〇キロの距離を、静かに、しかし確実に移動していく光。


「ロザリーは、進化しているのよ」


 その一言に、室内の空気が張りつめた。

 数秒後、解析担当の男が声を上げる。


「博士、これを見てください。

 “01”と“02”の遺伝子データ──一致率が八九%しかありません。

 つまり、“02”はコピーじゃない」


「……じゃあ、子孫?」


「ええ。有性生殖の痕跡がある。

 “01”は単為生殖で“02”を生み、

 “02”たちはすでに次の世代──“03”を産んでいます」


 誰かが息を呑んだ。

 沈黙を破ったのは、イザベルだった。


「……ハドソン博士は、これを“終わりの種”と呼んでいた」


 その一言にジェームズは顔を上げた。

 “終わりの種”──その言葉が、ただの比喩ではないことを、彼は知っていた。

 エリック・ハドソンは、スコットの“理性”を受け継いだ唯一の弟子だった。

 だが現在、彼の報告書には、科学的データと同じ分量で“祈り”にも似た文言が記されている。


 ガラスの向こう、冷却槽の中で何かが微かに動いた。

 液体窒素の霧の奥、黒く光る瞳が、確かに彼らを見ていた。

 警告灯が一度だけ点滅する。

 誰も言葉を発しない。


「……終わりの種、か」


 ジェームズは、スコットの残したノートを胸元に抱いた。

 そこに記されていた最後の一文──


“未知を名づけることは、理解を装う最初の誤りである”


 その文を見つめながら、彼の指先は震えていた。

 科学者の言葉と、信仰の言葉の境界が、じわりと溶けていく。



────


 ──アメリカ合衆国 ミシガン州アナーバー大学・生物学研究旧棟


 二〇三〇年三月一六日。

 スコット・イースタリングの研究室が封鎖されてから、ちょうど四年が経っていた。


 天井の蛍光灯は、まだ点いた。

 埃を舞い上げながら入ってきたのは、米国環境保護委員会とカナダ環境庁の合同調査チームだった。

 目的はただ一つ。

 スコット・イースタリング博士が残した研究データの再解析。


「こっちだ。研究室番号B-二一二。──イースタリング博士が最後に使ってた部屋だ」


 若い生物学者、ジェイソン・リーが薄暗い廊下を照らしながら進む。

 後ろから、放射線量を測る機材のカウンター音がカチカチと鳴っていた。


 扉を開けると、そこは時間の止まった空間だった。

 壁のカレンダーは二〇二六年のまま。

 机の上には、誰かが最後に触れたままの論文原稿。

 タイトルは、“Bioaccumulation of Radiative Elements in Reptilian Organisms(爬虫類における放射性物質の生体蓄積)”。


 ジェイソンがページをめくると、最後の一文が赤鉛筆で強く書き足されていた。


 ──これは汚染ではない。新しい循環だ。


「……何を意味してるんだ?」


 隣の化学分析官がつぶやく。

 ジェイソンは小さく首を振った。


「分からない。でも、イースタリング博士は“ロザリー”という単語を一度も使っていない。

  ──彼はこの時、あの生物をまだ“名前のない存在”として扱ってる」


 キャビネットを漁ると、テープで補修された古いハードディスクが一つ出てきた。

 ラベルには手書きで、こう記されていた。


 “Experiment#42 – Reptile X(実験#42-爬虫類X)”


 ジェイソンが息を呑む。


「これだ……彼の最初の観測データ。──ロザリー01が生まれた、あの時期の記録だ」


 装置の電源を入れる。

 カチリと古いファンが回転し、微かな映像ノイズの向こうに文字が浮かぶ。


──


《観測記録抜粋:EASTERN GREAT LAKES PROJECT/Dr. Scott Easterling》


観測日時:2026年7月18日 03:42(UTC-5)

観測地点:ミシガン州スペリオル湖沿岸・観測点No.4


【観測結果】

・放射線量が基準値の約480%に急上昇。地形的変化および気象異常は確認されず。

・放射源は点的ではなく、移動を伴う波形を示す。

・挙動は周期性を有し、一定の自律運動を示唆。

・赤外・磁気反応ともに極端に低下。視覚観測では“光の吸収”現象を伴う。


【所見】

・自然放射源、あるいは既知の人工起因現象では説明困難。

・観測データは“生物的挙動”を示唆するが、形状・外見は未確認。

・現段階での命名は不要。

  ──未知を名づけることは、理解を装う最初の誤りである。


──


 沈黙が落ちる。

 ジェイソンは小さく息を吐いた。


「初めての観測者、イースタリング博士は──恐れていたんじゃない。“理解しようとしてた”んだ」


 誰も言葉を続けなかった。

 外の風が割れた窓から入り、机の上の書類をめくる。

 その一枚に、彼の手書きのメモが残っていた。


“Radiation is not death. It’s inheritance.”(放射能は死ではない。それは継承だ)


 他に何か無いか、せめてもう少し手掛かりを。そう考えたジェイソン・リーとアンドリュー・ウェルズ博士は大学内を探索する。



 ──アナーバー大学・生物学研究棟 地下保管室


 二〇三〇年三月一六日、午後三時一一分。


 埃の匂いが充満する空間に、薄暗い蛍光灯が唸っていた。

 研究棟の地下は、閉鎖された研究室の記録を保管するための場所だった。

 古い棚には、黄ばんだ書類とラベルの剥がれかけた試料瓶が並んでいる。


 アンドリュー・ウェルズ博士は、マスクの上から額の汗を拭った。

 背後では助手のジェイソン・リーが段ボールを開け、報告書を一冊ずつ確認していく。



 湿った空気を押し分け、二人は階段を上がった。

 手にした封筒の中には、スコット・イースタリングのサイン入り論文。

 その内容は、彼が政府の命令に背いて研究を続けていたことを示していた。


「上の理事長室、調べるんですか?」

ジェイソンが息を整えながら尋ねる。


「そうだ。スコットは研究室では記録を残していなかった。

 だが、大学の運営を止めたあの頃──唯一アクセス権を持っていたのは理事長だけだ」


 アンドリューがそう言うと、携帯線量計を取り出し、階段を照らした。


 カチ、カチ、と乾いた音。

 その数値は、地上へ近づくほどに上がっていた。



────


 ──アナーバー大学 理事長室前廊下


 二〇三〇年三月一六日 午後三時二一分。


「……信じられないな。地下より線量が高い」


ジェイソンが呟いた。


 廊下の奥で、保安管理課の職員が待っていた。

 グレーの作業服に、首から吊るしたガイガーカウンター。

 名札には“ハロルド・クイン”とある。


「入る前に言っておく。中は封鎖指定区域だ。

 空調は切ってあるが、線量は常時〇・八マイクロシーベルトを超えてる。

 長居はするなよ」


「ここが……アレクシア・クルーガー理事長の部屋ですか?」


「そうだ。イースタリング博士が最後に呼ばれた部屋でもある。

 その後、理事長は翌週に辞任した。理由は“健康上の都合”ってやつだ」


 クインはそう言うと、重い鉄扉の鍵を回した。


「……これ、本当に見つかると思います?」


「スコット・イースタリングの名義が残っていれば、何かしらの痕跡はあるはずだ。

 彼の研究データは政府によって封鎖されたが、大学の保管庫までは手が回ってない可能性がある」



 ──アナーバー大学理事長室


 ドアを開けた瞬間、わずかに鉄と埃の匂いが漂った。

 古びた机の上に積まれた書類は茶色く変色している。

 壁際の本棚には、環境法関連の書籍と、スコットの論文集が並んでいた。


 アンドリューが机に近づこうとすると、クインが手を伸ばして止める。


「直接触るな。そこは数値が高い。多分、何かがこぼれてるんだろう」


 ジェイソンが慎重に線量計を当てる。

 針が跳ねた。

 〇・四マイクロシーベルト。


「……これ、自然放射線レベルじゃない」


「博士がここで何をしてたかは知らんが、

 “安全”って言葉から一番遠い部屋だったってことだけは確かだ」


 アンドリューは机の引き出しをそっと開けた。

 中には封筒が一つ、封蝋の割れたまま残っている。

 表紙には、理事長の署名──アレクシア・クルーガー。

 宛先は、スコット・イースタリング。


>“あなたの観測報告を受理しました。

 しかし、政府はさらなる調査を許可しないとの通達です。

 これ以上は、あなた自身を危険に晒すだけです。

 ──A.K.”


「……理事長は止めようとしてたんだな」


 アンドリューが呟く。

 ジェイソンは机の隅に置かれたもう一枚の紙を見つけた。

 インクが薄れているが、確かにスコットの筆跡だった。


>“Radiation is not death. It’s inheritance.(放射能は死ではない。それは継承だ。)”


 クインがその言葉を見て、低く笑う。


「継承、ね。あんたら学者は、何でも理屈で片づけようとする。

 でもな──理屈じゃ防げねえ汚染ってのもあるんだ」


 アンドリューは静かに答える。


「だからこそ、私たちは知ろうとする。

 知らなければ、恐怖はただの闇だ」


 その時、カウンターの音が跳ね上がった。

 金属探知と放射線計測を兼ねたガイガーカウンターが、突然甲高い音を立てた。

 助手のジェイソンが振り向く。


「……博士、カウンターが上がってます。〇・二μSv……いや、〇・四……〇・七!」


 アンドリュー・ウェルズ博士は足を止めた。


「この部屋のどこかに、放射性物質がある。……照明を落とせ」


 蛍光灯を落とすと、紫外線スキャン用のライトが鈍く青く光る。

 机の奥、壁際の絵画の裏に異様な反応。

 外すと、古びた金庫の扉が現れた。


“PROPERTY OF ALEXIA KRUGER / DO NOT REMOVE.(アレクシア・クルーガーの所有物/動かさないように)”


 ジェイソンが呟く。


「理事長……封鎖の時に、ここへ隠したのか?」


 アンドリューは無言で工具を取り出し、錠前を外す。

 開いた瞬間、カウンターが一気に跳ね上がった。


 ──2.8μSv/h。


 中には、三本の瓶が収まっている。

 一本目には泥、二本目には濁った水、三本目には粘性のある透明な液体。

 どれもラベルが貼られ、かすれた文字でこう記されていた。


 >“Lake Superior/2026-07-18/Sample: L.E.(スペリオル湖/2026年7月18日/試料採取:L.E.)”


 瓶の下に、一冊のファイルがあった。

 表紙には、スコット・イースタリングの署名。

 タイトルは、“Final Field Report – Subject: Unidentified Biological Source(最終現場報告書-主題:未確認の生物学的起源)”。


 アンドリューは息を呑む。


「……L.E.──リサ・イースタリングだ。イースタリング博士の、娘の……」


 封筒の中から一枚の紙が滑り落ちた。

 そこには、スコットの最後の手書きが残されていた。


“観測区域で放射線量が異常上昇。地形的変化・気象異常ともに確認されず。

放射源は移動を伴い、波形は生体反応に類似。

 反射・磁気反応は極端に弱く、赤外観測では消失。

 光の吸収現象を伴い、視認困難。”


“もしこの現象が持続するなら、放射線は“拡散”ではなく“吸収”の形で地球圏に循環している可能性がある。

 我々が“汚染”と呼んでいるものは、実際には何かの“代謝”かもしれない。

 ただ、それが生態系にとって修復なのか破壊なのか──今はまだ判断できない。”


 読み終えたアンドリューが、小さく呟いた。


「……彼は、“それ”を災厄とは書いていない」


 ジェイソンが頷く。


「スコット・イースタリングは、恐れてなかった。観測者であり続けたんだ」


 外で雷鳴が轟いた。

 その音が、まるで金庫の中から響いてくるように感じられた。

 彼らはその貴重な資料を鉛の箱へと入れ、しっかりと錠を掛ける。これは、持ち帰るに値すると考えたのだ。

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