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魔法穴を突く


 目を閉じ、歯を食いしばって直立不動のリリカに俺は苦笑してしまった。


「そんなに緊張しなくていい。むしろリラックスして魔力の動きに注意するんだ」

「は、はい……」


 俺は神経を研ぎ澄ませ、指先に魔力を溜める。

 その状態で【心眼】を使い、リリカの魔経路と魔法穴を見極めた。


「いくぞ」

「はいっ!」

「1!」


 番号を声に出しながら基本となる丹田へ人差し指を打ち込む。

 力は込めていないが、俺の魔力で膨れ上がる魔法穴と魔経路にリリカは身を震わせた。


「2! 3! 4!」


 テンポよく魔法穴を刺激するたび、リリカは声にならない呻きをあげる。

 外的圧力によりリリカの魔経路が大きく広げられているのだ。

 経験したことのない量の魔力が流れて戸惑っているに違いない。

 だが、こうして魔経路を広げてやれば、リリカの可能性はさらに広がるはずだ。

 そして――。


「67、68,69、70、71……、72!」


 俺はリリカの魔法穴すべてを突き終えた。


「くっ……」


 リリカは苦悶の表情を浮かべてその場に立ちすくんでいる。


「体が……熱いです……」

「それはリリカの魔経路が開いている証拠だ。ゆっくり息を吸ってリズムを取れ。魔力の流れを自分でコントロールするんだ」


 木陰に入っているというのにリリカの体からは湯気がのぼっていた。

 全力疾走していたとき以上の汗が彼女から滴り、水浴びをした直後のように全身を濡らしている。

 リリカの保有魔力量はもともと大きい。

 そのすべてが一気に動き出し、肉体が悲鳴をあげているのだろう。


「師匠! 師匠! 熱いです!」


 魔力の奔流を抑えきれないのか?

 それなら少しずつ消費するしかない。


「呼吸を整えろ。魔力が暴走しないよう身体強化魔法を使ってみるんだ。1から始まって、5,6,9だ。そこから全身に魔力を行き渡らせろ!」


 もう、ためらうこともなくリリカの魔法穴を押して位置を知らせる。


「ここだ、1,5,6,9」

「1、5、6、9……」

「そう、1,5,6,9だ」

「1,5,6,9……」


【心眼】で見ると、リリカの魔力が正しい経路を通って動いているのが見えた。

 まだ、すべての魔力を順番に通すことはできていないが、かなりの効率化がなされている。


「1,5,6,9……、1,5,6,9……」

「いいぞ、その調子だ」


 魔力が消費しだされると、リリカの具合も目に見えてよくなってきた。

 熱中症に似た症状が消え、目に光が宿っている。


「動けそうか?」

「はい」

「だったら、出発しよう。身体強化魔法をかけたまま走れば魔力がさらに消費される。動いた方が体にも負担がかからないからな」

「やってみます。あうっ!」


 走りだそうとしたリリカが突然転んでしまった。


「パワーアップした体に感覚が追い付いていないだけだ。じきに慣れる」

「は、はい……」


 俺の言葉にいつわりはなく、300メートルほど走ると、リリカはまともに動けるようになった。

 いや、以前よりもずっと素早く動けている。


「師匠、すごいです! 体が軽い! 力がみなぎっています!」

「いい感じだな。魔力の運用効率も上がっているぞ。だがまだまだだ。ナンバリングを思い出せ」

「1,5,6,9、そこから全身へ」

「それだ。魔経路を意識しながら走ってみろ!」

「はいっ!」


 リリカはギュンギュンと加速して自動車並みのスピードになった。

 よしよし、うまく使いこなせているじゃないか。

 俺も駆け出し、リリカの横に並んだ。


「どうだ?」

「本当にすごいです、こんなに早く走れるなんて!」

「まだまだ序の口だ。リリカならもっと速く走れるようになる」

「本当ですか!?」

「なってもらわなければ困る。俺たちは弁当屋だぞ。素早い配達が求められる商売だ」


 俺の言葉にリリカは目を輝かせた。


「配達! お弁当の配達なんて夢が広がりますね!」

「戦場だろうが魔窟の奥だろうが、弁当を食いたい人がいれば配達する。それが弁当屋の心意気ってぇもんだ。まあ、いまはそこまで手が回らないがな」

「師匠の力になれるよう、私も頑張ります!」

「よし、もう少しスピードを上げるぞ。魔力運用の効率化を工夫しながらついてくるんだ」

「はいっ!」


 俺たちの走るスピードは時速50キロメートルを超えた。

 これなら予定よりずっと早く都に帰ってこられるだろう。

 いまさらながら、リリカの才能には驚かされるばかりだ。

 少し教えただけで、身体強化魔法の魔力運用効率を62パーセントまで高めていやがる。

 一般的な冒険者なら38パーセントにも満たないのに。


 心肺機能も強化されたようで、リリカは走りながら俺に話しかけてきた。


「師匠は魔法穴を突いて私の魔経路を広げてくださいましたが、これは自分でもできるのでしょうか?」

「慣れないうちはやめた方がいい。力加減がかなり難しいんだ。下手に突くと、動けなくなったり、最悪魔法が使えなくなったりすることもある」

「それは怖いですね」

「うむ。だが、それを応用した戦闘技もある。敵の魔法穴を塞いで動きを封じてしまうのだ。俺はこれを【止点刺突してんしとつ】と名付けた」


 これは俺の得意技であり、【心眼】と合わせて使うことが多い。

 いずれリリカにも伝えた方がいいだろう。

 そう思っていたのだが、その機会は驚くほど早くやって来るのだった。


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