ナンバリングシステム
2本目
「リリカは魔経路と魔法穴については知っているな?」
「もちろんです。魔経路は体内を巡る魔力の路であり、魔法穴は魔経路上にある反応点のことですよね」
「そのとおりだ。そして魔法穴は魔力の出入り口でもある」
魔法を上手に使ううえで、魔経路を流れる魔力の調整は不可欠だ。
「ところで、魔法穴はいくつあるか知っているか?」
「はい、三十六です」
「そう、一般的にはそう言われているが、本当は七十二の魔法穴があるんだ」
「ええっ!? そんな話、はじめて聞きました」
「うん、俺が独学で突き止めたからな」
この真実に行き当たったからこそ、俺は【単鬼】として活躍することができたのだ。
「通常の状態だと、人間は三十六の魔法穴しか活かすことができていない。だが、すべての魔法穴と、そこを行き交う魔経路を意識することによって、魔力運用効率は劇的に上がるのだ」
「すごい……」
リリカは俺の話を信じて感心しているが、この話はそれで終わりじゃない。
「そして、俺は各魔法穴に数字を当てはめた。それがナンバリングシステムだ」
「どうしてそんなことを?」
「魔法を使うとき、魔力は特定の経路で流れる。そこを意識することによって魔法の威力が上がったり、これまで使えなかった魔法が使えるようになったりするからだ」
「ああ!」
「たとえば、身体強化魔法を使うときは丹田にある1からみぞおちにある2へ、そこで分岐させず5・6を通過させて頭頂部にある9から全身に分岐させる、といった具合だ」
ここではじめて、リリカが疑問を挟んだ。
「そんな魔経路を意識しなくても、私は身体強化魔法を使えますよ。みんなそうだと思いますが……」
「他の魔経路に魔力が流れたとしても、魔法自体は使用可能だ。だが、無駄も多くなる。また、滞った魔経路があれば、使える魔法も使えなくなってしまうんだ」
リリカはわなわなと震えだした。
「つまり、すべての魔経路の滞りをなくし、正しく魔力を流せれば、人はどんな魔法でも使えるというのですか?」
「そのとおりだ」
話を聞き終わったリリカは震えながら頭を押さえている。
ひょっとして、荒唐無稽すぎて信じてもらえなかったか?
だが、リリカはこぼれんばかりの笑顔になってピョンピョンとその場で飛び跳ねだした。
「すごい! すごすぎます!! 師匠はそんなすごいものを独自に開発したのですね。師匠って、もしかして魔法研究家ですか?」
「いや、弁当屋だ」
「そうですよね!」
「だがいずれ、弁当の作成にも新しい魔法を活かすつもりだ」
「と、いいますと?」
これはずっと温めていたアイデアだが、まだ実現には至っていない。
だが、夢を語るのは楽しいものだ。
完成の暁にはリリカもきっと喜んでくれるだろう。
周囲には誰もいなかったが、特別な秘密を打ち明けるように俺は声をひそめた。
「実は封印魔法というのを開発中だ」
「それはなんなのですか?」
「弁当箱にかけるための魔法だよ。成功すれば、弁当の賞味期限が一週間に伸びるのだ」
「そんなに!?」
「開発が進めば冒険者の長期遠征にも耐えられるぞ。蓋を開ければホカホカの弁当が出てくるのだ」
「素敵です! 魔窟の探索で疲れ切っているときは、料理をつくるのも嫌になるんですよね。そんなときに温かくて美味しいものがすぐに食べられるなんて、こんなうれしいことはないですよ!」
「やっぱりそう思うか?」
「当然です!」
リリカが俺の夢を支持してくれることがうれしかった。
だが、続いて遠慮がちに出たリリカの発言に俺は困った。
「師匠、私にもナンバリングシステムを教えてくださるのでしょうか……?」
「うむ、それなんだがな……」
「あ、無理にとは言いません。そんなすごい秘伝を弟子になったばかりの私に教えることはできませんよね」
「いや、そうじゃないんだ。教えるのはかまわない。だが、問題がふたつあるんだ」
ここまで説明しておいて、教えを授けないというのもどうかと思う。
俺としても弟子の成長はうれしいのだ。
それに、ナンバリングシステムを教えたとして、魔法の修練は本人次第だ。
リリカにやる気と才能がなければそれまでのことだろう。
しかしながら、リリカはおそらく努力家だと思う。
きょうだって俺に遅れまいと弱音ひとつ漏らさずに走っていた。
それにリリカはびっくりするほどのポテンシャルを秘めている。
この試練に耐えられることは間違いない。
だがそれでも、俺はまだためらっている。
問題はリリカがアレを受け入れるかどうかなのだ……。
いや、迷っていても仕方がないか。
俺はナンバリングシステムの問題点をリリカに伝えることにした。
このお話がおもしろかったら、ブックマークや★での応援をよろしくお願いします!