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俺と弟子が無双する! ~その師弟は魔窟の底まで弁当を配達する  作者: 長野文三郎


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気になる報告


 十日ほどが過ぎ、店はますます繁盛していた。

 だが、ライガ弁当店の進化は止まらない。

 三人とも料理の手際がよくなったので、きょうははじめて二種類の弁当をつくったぞ。

 ハンバーグ弁当とサンドイッチ弁当を四十個ずつだったが、どちらも午前中に完売してしまった。

 やっぱり、選択肢のある方がお客さんは嬉しいようだな。

 ニーズに応えてこその商売人。

 今後は一日に作る種類を増やしていけるように努力しよう。

 店もいよいよ軌道に乗ってきたという感じだ。

 手ごたえを感じながら俺は空っぽのワゴンを片付けた。


「師父、レビの水を運んでまいりました」


 律儀なウィルボーンがきょうも泉の水を運んできてくれた。


「いつもすまないね。ちょうど昼飯にしようと思っていたんだ。ウィルボーンも食ってけよ。ウィルボーンの弟子たちも中に入りな」


 本日の賄いは肉野菜炒めだ。

 シンプルだけど美味しいんだよね。

 ちなみに、この国でも普通にもやしは食べられている。

 コショウを利かせたバターソテーが一般的だから、前世の料理とはちょっと違う感じだ。


 厨房で肉野菜を炒めているとウィルボーンの弟子たちの会話が聞こえてきた。


「だから、マジリヤ魔法薬にメリドの土は要らないんだって」

「いやいや、メリドの土を入れた方が効果は上がる。そういう報告もたくさんあるんだぞ」

「だったら、どうしてこのあいだは失敗したんだ?」

「それはわからないけど……」


 どうやら魔法薬の作り方で議論しているようだ。

 マジリヤ魔法薬は風魔法を強化するための塗り薬だったな。

 あれの製法にはいろいろあるけど、メリドの土を入れるのは正しいことだ。

 だが、普通に混ぜるのでは効果が薄い。

 差し出がましいかもしれないけど、ちょっとだけ口出しするか。


「それはな、メリドの土に含まれる有効成分の量に左右されているんだ」

「大師匠?」


 肉野菜はいい感じに炒めあがった。


「メリドの土をそのまま使うと不純物が多すぎるんだよ。不純物が多いと効果がでない。俺は有効成分をメリドと呼んでるけど、高純度のメリドを取り出してマジリヤ魔法薬につかってみ? 飛ぶぜ」

「ですが、どうやってメリドだけを取り出すのですか?」

「昇華法を使うといい」

「昇華法? それはどういうものでしょうか?」


 料理を盛り付けながら俺は続ける。


「混合物の分離や精製にはいろんな方法があるだろ? ろ過、蒸留、分留、再結晶、抽出なんかだな。昇華もそのひとつだ。よし、飯ができたぞ。さっそく食べよう」

「だ、大師匠! お食事の前に昇華についてご教授いただけないでしょうか?」

「え~……」


 肉野菜炒めは時間がたつと水分が出てしまうのだ。

 せっかくなら出来立てのほかほかを食べてもらいたい。

 それなのにウィルボーンまでもが食いついてきた。

 料理ではなく俺の話に……。


「師父、いまのお話について弟子たちの前でご講演をお願いできませんでしょうか? 我が屋敷で用意いたしますので」

「うん、いいよ」


 話すのなら飯の前じゃない方がいい。

 それに、ウィルボーンには日ごろから世話にいなっている。

 義理堅いウィルボーンは水だけでなく、いつも美味しいお茶や、めずらしい外国の食べ物なんかを持ってきてくれるのだ。

 俺の講演が必要だというのなら、ちょうどいい恩返しになるだろう。


「ありがとうございます。当日は講演後にささやかな宴席を設けますので、姉上たちもおいでください」

「そうと決まればまずは飯だ。みんなで食べるとしよう」


 だが、俺と弟子たち、孫弟子たちも揃うと部屋が狭いな。

 よし、あれを使うとしよう。

 例の本を開いて、俺はみんなを招待した。



 本の世界に入り込んだウィルボーンはわなわなと震えていた。

 彼の弟子たちも大口を開けたまま固まっている。


「師父、ここはいったい……」

「話はあとだ。まずは肉野菜炒めを食え」


 俺は箸とフォークを配った。

 店では弁当に俺自作の箸をつけている。

 グランシアスを使えば木材なんて簡単に切れるからな。

 フォークやスプーンが一般的なのだが、冒険者たちは好んで箸を持っていく。

 使い終わった箸をとっておいて、焚き付けなどに使うのが便利らしい。


「あ~、腹減った。いただきまーす!」


 俺が手を付けないと誰も食べてくれないので、俺は真っ先に飯をかっこんだ。


「お、パリピの作ったスープは美味いな」

「唐揚げ弁当のときにでた鶏ガラで出汁をとったでござるよ」

「へえ、こんど作り方を教えてくれ。リリカのポテトサラダも美味いな」

「ありがとうございます! 貴重な黒コショウを使わせていただきました」


 この世界だと中世ヨーロッパ並みに黒コショウが高価なのはお約束だ。

 南国へ旅したときにたくさんストックしたので俺はたくさん持っているけどね。

 黒コショウにとどまらず、空間収納には世界各地の香辛料がストックされている。

 リリカは肉野菜炒めを食べながら感心する。


「師匠の使う醤油という調味料は肉とよく合いますね」

「とある集落と専属契約を結んで作ってもらっているのだ。開発には三年もかかったんだぜ。畑もぜんぶ借り上げているんだ」


 大豆は同じ畑で作り続けることができない。

 いわゆる連作障害というやつだ

 二年、三年と同じ畑で作り続けると病害が増え、品質や収穫量が低下してしまうのである。

 醤油づくりにはかなりの額を投資したよなあ。

 単鬼としてけっこう稼いだけど、ギャンブルとこの手のことでだいぶ使ってしまった。

 だが、後悔はない。

 俺たちが料理の話で盛り上がっていると、ウィルボーンが遠慮がちに話しかけてきた。


「師父、この本の世界についてもご講演をお願いできませんでしょうか?」

「この本について? つまり、古代エストラ魔法言語と亜空間構築についてか……。それはちょっと難しいぞ」

「差しさわりがあるのなら控えますが……」

「教えたくない、ってことじゃないんだ。ただ、これを説明するには何日もかかるだろうし、学ぶことが多すぎる。ウィルボーンの弟子が聴いてもわかんないかもしれないじゃん」

「たしかに」


 ウィルボーンはとても残念そうだ。

 このままじゃかわいそうだな。


「だったらさ、まずウィルボーンが学びなよ。それから弟子たちに伝えればいいさ。とりあえず関連文献をいくつか渡しておくから読んどいて」

「よろしいのですか!」

「ぜんぜん、オッケー。本はあとでだすから安心して飯を食えって」


 俺とリリカとパリピはそろそろ食べ終わりそうだというのに、ウィルボーンとその弟子はまだ三口くらいしか食べていなかった。


 食後のお茶を飲みながら談笑していると、ウィルボーンが話題を振ってきた。


「そういえば師父、新たな魔窟が発見されたのをごぞんじですか? 近くの山からちなんでシュティンク魔窟と名付けられましたが」

「知ってるぜ。いま調査チームが派遣されているんだろう?」


 リリカの古巣であるエターナルフォースが調査に出発したのは、もう何日も前のことだ。


「こんどの魔窟はかなり有益なアイテムが眠っているという噂です。新しい素材やアイテムが見つかるかもしれませんな」


 魔窟というのは古い悪魔や堕天使の住処だったことが多い。

 そう言う場所では貴重な発見があるものだ。


「ウィルボーンも行ってみたいのかい?」

「うずうずはしますな。特に養生魔法をご教授いただいてからは元気が有り余っております」

「まだまだ元気だねえ。達者なことでけっこうじゃねえか」


 つやつやとした肌を輝かせてウィルボーンは笑っている。

 そういえば真っ白だった髪に黒いものが混じっているぞ。

 毎日こつこつと養生魔法の修行に励んでいるのだろう。

 と、朗らかに笑っていたウィルボーンの顔が曇った。


「ただ、万事が順調というわけではないようです」

「なにかあったのかい?」

「調査に入ったのはエターナルフォースというチームですが、もう何日も連絡が途絶えているそうです」

「本当ですか!?」


 震える声でたずねたのはリリカだった。


「姉上?」

「連絡がないというのは本当のことですか?」

「先ほど、宮廷の友人に聞いたことなので間違いはないかと。なにか気がかりなことでもありましたか?」

「いえ……」


 エターナルフォースはリリカの仲間たちだ。

 心配でないはずがないだろう。

 居住まいを正してからウィルボーンは元気よく立ち上がった。


「名残は尽きませんが、そろそろお暇いたします」

「いまからレビの泉まで帰るのかい?」

「いえ、今夜は都の屋敷に泊ります。明日の朝はお手伝いにまいりますので、よろしくお願いします」

「おいおい、気を使わなくていいんだぜ」

「師父、私は師父のお手伝いをしたいのです。どうかお許しを」


 俺はありがたくウィルボーンの申し出を受け入れた。


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