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俺と弟子が無双する! ~その師弟は魔窟の底まで弁当を配達する  作者: 長野文三郎


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生姜焼き弁当




「本当に弟子入りをお許しくださるのですね?」


 パリピは念を押してきた。


「くどいぞ。約束は守るって」

「でしたら……」


 持参した特大のダッフルバッグをパリピはごそごそとかき回した。

 まさか……。


「おお、これでござる。師匠、どうぞ」


 なんと、油紙で包まれた薬草をパリピが手渡してきたではないか。


「これ、ライゼン草?」

「偶然ではござるが、三年ほど前に見つけたものです。もう少し値が上がったら売ろうと、とっておいたのです」

「本当にライゼン草なのか?」

「間違いございません。専門家に鑑定もしてもらいましたから」

「ちょ、ちょっと待っていてくれ」


 ライゼン草を掴み、俺は店の中に駆け戻った。

 魔法薬に詳しいウィルボーンなら、これが本物のライゼン草かわかるはずだ。


「ウィルボーン、これを見てくれ!」

「なにごとですか?」


 黒いエプロンをつけたウィルボーンはショウガをすりおろしているところだった。

 俺は黙って油紙を手渡す。


「これは……ライゼン草ではないですか! まためずらしいものを手に入れましたな。実物を見るのは私も六年ぶりくらいです」

「ウィルボーンがそう言うのなら、これは本物か……」

「師父、これをどこで?」

「その話はあとだ。またちょっと行ってくる」


 俺は再び表に出た。

 なにごとかと、リリカとウィルボーンもついてくる。

 パリピは先ほどまでいた場所に直立不動で立っていた。


「ライゼン草はたしかに本物だった」

「ということは……」


 弁当屋に二言はない、とか言ってしまったもんなぁ。

 いまさら撤回はできないか。


「うむ、弟子入りを認めよう」

「おお! ありがたき幸せ!」

「ただし!」


 喜ぶパリピに俺は釘を刺した。


「今後、リリカに言い寄るのはなしだ。相思相愛なら許すが、どちらか一方が嫌がるのなら潔く身を引くこと。誓えるか?」

「誓います!」

「それと、悪事を働いたら俺が成敗する。すべての魔点穴を塞いで放逐するからな」

「善行を積むとお約束します」

「よし、ならば弟子として迎える。パリピを他の弟子に引き合わせよう」


 俺はリリカとウィルボーンを手招いた。


「リリカのことは知っているな? 俺の一番弟子だ。こちらは二番弟子のウィルボーンだ」

「ウィルボーン殿? お名前に聞き覚えが……」

「先の宮廷魔術師長だ」


 パリピの目が見開かれた。


「そんなすごい人が兄弟子なのですか!?」

「うむ、お互いに切磋琢磨せっさたくましてくれ」

「姉上、師兄、よろしくお願いします」


 リリカは複雑そうな顔をしていたけど、パリピとあいさつを交わしていた。


「師匠、どうしてパリピさんを弟子にしたのですか?」

「じつはさ、どうしても弟子入りしたいって言うから、試練を与えようと思ったんだよ。弟子になりたかったらライゼン草を持ってこい、って。普通ならなかなかクリアできない課題だろ? だけど、パリピは偶然にもライゼン草を持っていたんだよ」


 ウィルボーンが静かな笑みをたたえている。


「これこそ縁というものかもしれません。パリピがライゼン草をたずさえていたのも運命だったのでしょう」


 なんかウィルボーンが言うと説得力があるな。

 リリカが嬉しそうな声を上げる。


「これで夢来香がつくれて、冷めても美味しい唐揚げもできます。よかったじゃないですか」

「そうだな。だけど、いまは目の前の生姜焼き弁当に取り組もう。パリピ、丁寧に手を洗うんだ。さっそく調理をはじめるぞ」

「はっ!」

「パリピさん、手洗いはこっちですよ。エプロンの予備を出してこなきゃ」


 面倒見のよいリリカがこまごまと面倒を見ている。

 弟子なんてとったことがないからわからないけど、これならなんとかなるだろう。

 俺は気持ちも新たに生姜焼き弁当の作製を開始した。


 俺と三人の弟子が働くには、弁当屋のキッチンは狭かった。


「こら、パリピ。リリカにくっつくな」

「そうおっしゃられても、こう狭いと。でへへ……」

「ウィルボーン、リリカとパリピの間に入ってくれ」

「承知いたしました、師父」


 下準備はリリカとウィルボーンがすませておいてくれた。


「玉ねぎはすりおろしてあるな」

「はい。師匠の言いつけどおり料理酒も加えてあります」


 リリカが胸を張り、その姿をパリピが盗み見ている。


「ここからは真剣勝負だ。気を抜くな。まずレッドボアの肉をスライスするぞ」


 グランシアスを取り出すと、リリカが手を上げた。


「師匠、今日はチンアナゴを使っての調理を見せてくださる約束ですよ」

「おっと、そうだったな」


 俺は空間収納から予備のナイフを取り出す。

 こっちもいいナイフなのだが、グランシアスほどの切れ味はない。

 スライスはグランシアスでやり、肉の筋切りは予備のナイフでやるとしよう。

 11番と12番の魔点穴からチンアナゴを伸ばし、先端を手の形にしてナイフを握った。


「鞭状のチンアナゴは比較的楽に作れるが、手の形状にするには繊細な魔力調整が必要になる。情報処理のために脳への負担も段違いだ。おぼえたければ、最低でも五年の修行は覚悟しろ」


 説明をしながら俺は仕事を開始した。

 自分の手でレッドボアの肩ロースをスライス。

 同時に別のまな板の上で肉の筋切りだ。


「パリピ、筋切りの終わった肉を玉ねぎのすりおろしに漬けていってくれ。リリカは米を研ぐ、ウィルボーンは調味料の計量だ。終わったら米を炊くぞ」


 こうして慌ただしく朝の時間は過ぎていった。



 リリカという看板娘がいたおかげか、四十個つくった生姜焼き弁当は完売した。

 ちなみにパリピが呼び込みをやったら客が逃げていった。

 だが、これは仕方がない。

 その代わり、パリピは本当に料理が上手だった。

 キャベツの千切りなど、リリカやウィルボーンより器用にこなしたくらいだ。


「長所を伸ばすという点で言えば、パリピは眼を鍛えるのがいいかもしれないな」

「目でござるか? そんなものが鍛えられるのでしょうか?」

「べつに筋肉をつけろ、と言っているわけじゃないさ。ライガ弁当道には【心眼】【真眼】【神眼】という三つの奥義がある。まずは【心眼】を極めるところからはじめればいい。目に頼りすぎるのはよくないけど、悪いことばかりじゃないからな」

「し、心眼を会得すれば服が透けて見えるのでしょうか……?」


 このドスケベが……。


「魔点穴を封じられて放逐されたいのか? 心眼は肉の筋や野菜の繊維を見極めるためのものだ」

「失礼しました! 料理道に精進します!」


【心眼】で人の裸は見られない。

 まあ、【真眼】までいくと見えてしまうのだが、それをパリピに伝えるのはやめておこう。

 伝えるのはリリカとウィルボーンだけでいいだろう。

 もっとも、【神眼】までたどりつけそうなのはリリカだけだけど。

 後片付けを終えた俺は三人の弟子たちを呼んだ。


「みんな、ご苦労様。ウィルボーンもわざわざ手伝ってくれてありがとうな」

「とんでもございません。本当なら毎日うかがってご指導を賜りたいくらいです」

「無理しなくていいよ。ウィルボーンには自分の研究や弟子の指導もあるだろう?」

「恐れ入ります」

「午後は好きに過ごしてくれ。俺はちょっと出かけてくるから」


 リリカが眼を輝かせた。


「シエラさんのところへ行くのですね?」

「うむ。少しでも早く記憶を取り戻したいんだ」

「師匠、私も一緒に行っていいですか?」

「シエラのところに? べつに構わないが……」


 シエラと付き合っていたのは昔のことだ。

 いまでは互いに恋愛感情はないからリリカを連れて行ってもいいだろう。


「拙者もお連れください。師匠と姉上の警護をいたします」

「パリピも来るの?」


 ウィルボーンはレビの泉に戻るというので、俺はリリカとパリピを伴ってシエラのところへ行くことにした。


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