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アイテムポーチと魔物素材

前回作ったデイウォーカーの収入が割と良かった。これ俺だけで全部やれば山分けする必要ないからもっと儲かるのでは?と思い立ち、早速実行してみた。その結果……惨敗だった。


カギとなるコインは以前から集めていたのがあるからいいとして、中身入りの宝箱がほとんどない。あったとしても出てくるのはライフポーションやヒールポーションなどの普通のものばかり。ラビリスウォーターはちょいレアだから確率的には正しいのだが、宝箱開封の試行回数が稼げない。

どうしてかと考えたが答えは単純だった。俺たちのマネをするヤツが増えたのだ。迷宮から出てきたら個人マーケットにいくつもあったので間違いない。

楽して儲けることはできなくなってしまった。


しかたなくいつもの階層をいつものように周回し、いつもの素材を回収して売却する。

結局はコツコツお金をためて、少しずつ強くなっていくしかないのだ。つくづく俺は一発逆転に向いてない。


今日は山田さんが売却も担当してくれたので、ついついそんな愚痴をこぼしてしまった。


「大変ですね。鈍川(にびかわ)さんが回収してくる素材でデイウォーカーみたいに売れるものが作れればいいんですけどね」

「カジノエリアの素材は布とか金属とか、加工に技能が必要なんだよ。というかデイウォーカーだって錬金術技能が必要なところを道具の性能で突破してるだけだし」

「持っててよかったですね。初級錬金セット」

「まさにガチャの神のおぼしめし。……またガチャやるべきか?」

「やめておいた方がいいですよ。ガチャしたら初心者講習の仕事、他の人に移しますからね」

「臨時収入がなくなるのは困る」


というわけで大人しく仕事をします。


◇◇


今日は初心者講習の日じゃないのに、金満お嬢様がやってきた。ちょうど協会に来たばかりのようで、まだ学校の制服を着ている。

お嬢様学校らしい落ち着いた服装だが、なにか企んでそうな顔がその雰囲気を台無しにしている。


「鈍川さん、コインの貯蓄はあるかしら?またデイウォーカーを作りますわよ」

「あ、それ無理だから」

「なんでですの!?」


他の低級探索者たちがこぞって宝箱を回収し、個人マーケットで販売していることを教える。


「原材料の枯渇に競合相手の続出ですか。それでは儲かりませんわね」

「理解が早いな」

「わたくし、これでも金満商会の娘ですのよ。商売のことなら貴方よりも詳しいに決まってますわ」

「そうかもな」


そうだろうな。迷宮で回収したものは何も考えずに協会に売ってるし、相場もレア素材くらいか確認していない。探索にしか興味ないと思われても仕方ないだろう。


「だとすると困りましたわね。鈍川さん、他に販売できるものの当てはございませんの?」


そう聞かれて以前に山田さんとした話を繰り返すと、お嬢様は手帳を取り出した。


「どんな素材があって、どんな技能があれば、どんな品物が作れるか教えていただけますか?」

「簡単に調べられるけど、どうして知りたいんだ?お金に困ってるようには見えないけど、何か理由があるのか」

「わたくし、商会を立ち上げることにしましたの」

「へー。親の会社に入るんじゃないのか」

「そうですわ。お父様とは違う方法で社会の役に立ちたいと思いましたの」


ご立派な(こころざし)だなと思ったが、お嬢様が目をそらしていることに気付いた。


「何かあるのか?」

「……意外と鋭いところがありますのね。いいですわ、正直に言います。わたくしは、お父様の言いなりになるのはもうイヤなんです」

「良い装備をもらっているのに?」

「そうですわ!わたくしは、他の方たちと同じように初心者用の装備から始めたかったのです!でもお父様はあのような上質な装備を押しつけて来るのです。初心者には分不相応だと言っても絶対に必要だと言って!」

「自分で選んだものじゃなかったのか」

「そうなんですの!わたくしはもっと落ち着いた色のものが良かったのに、お父様は似合うからと言って派手なものを選ぶのです。学校も、ペットも、わたくしが自分で選べたものは何一つありません。せめてもの抵抗として家から離れたこちらの迷宮に来たのですわ」


それは自分で選べたうちに入るのではと思ったが、とりあえず黙って聞いておく。


「わかっております。何もかもお父様のお金なのだから、お父様が選ぶのは間違ってないのでしょう。ですから、わたくしはわたくしが自由に使えるお金を稼ぐため、わたくしの商会を作りたいのです」

「なるほど、しっかり考えているんだな」

「わかっていただけましたか。では、わたくしの商会に協力していただけますね?」

「いいぞ。俺にできることならなんでも言ってくれ」

「ありがとうございます。感謝いたすますわ!」


俺はアドバイスをする程度のつもりだったのだが、後になってから軽く返事をしてしまったことを後悔することになるのだった。



迷宮からは様々なものが発見・回収されている。地球上に今まであったのと同じ物もあったが、今までに無かったものの方が多かった。

その新しいものの中で一番重要なのは、やはり【魔道具】の存在だろう。理屈も道理も今までのものが通用しない、まるで魔法のような効果を発揮する道具。それが魔道具と名付けられた。


人間はたくましいもので、理屈の分からない魔道具を分からないなりに解析し、ごく一部だけだが自分たちでも再現するまでに至った。

そのひとつが【空間拡張術】であり、それによって作られたのが【アイテムバッグ】である。

空間拡張術のレベルに応じてポーチやコンテナなどの種類があるものの、実際に入る量を何倍にも増やすという効果はあらゆる場所で重宝されている。


というわけで俺はそれを作成するための素材を回収すべく、今日も迷宮内を歩き回っていた。


「たしかに協力するって言ったけど、お嬢様はまだ来てない階層だけど、ワンオペ周回はダルすぎるってばよ」


ずっと我慢していた愚痴が、ついに口から漏れてしまった。

俺が用意できる素材で作れるアイテムをいくつか調べて売れるかどうか相談した結果、アイテムポーチを大量生産しようということになった。


魔道具は発掘品であれ人工のものであれ値段が高いものばかりだが、小型のポーチを空間拡張する程度なら比較的安価で販売されている。具体的には高級ブランドのバッグより少し高いくらいのお値段で、大型スーツケース並の容量のあるポーチを買うことが出来る。


「探索者じゃなくても買えるってことは需要が尽きない。だから大量に売れる。それはわかるけど、なんで俺がここまでしなきゃならないのか。……手伝うって言ったからだよなあ」


何匹目かわからない魔物にトドメをさして、ドロップ品を回収する。需要があるのに市場への供給が不十分な理由は、この作業が心理的なダメージが大きいからである。

空間拡張能力を付与する素材をドロップする魔物は【2Dフェアリー】という名前で、可愛らしい外見をしている上に人の声をマネる。


通りすがりに数匹倒す程度ならいいのだが、こうやって狙って何匹も何匹も狩っていると、自分が凶悪犯になった気さえしてくる。

あ、この画像が一般に流通したら倫理委員会に審議にかけられる可能性があるので全面モザイクでお願いします。


「ふう」


ため息をついて逃避しそうになった思考を立て直す。今日は1日でどのくらい集められるかを測りにきたので、ノルマはない。今後のためにも無理しない方がいいだろう。

思ったより多めに集まっているし、少し早いが帰ろうか。

なんて考えてていたら、遠くから警笛が響いてきた。


長いのが1回、注意喚起か。この程度の階層の魔物なら余裕を持って対応できるので、すぐに向かうことにする。


駆けつけた先に、虫系魔物の群れに囲まれる探索者たちがいた。劇場型の大部屋で、広さがあるが障害物が多い。

やっかいな状況に見えるが、動きが遅いタイプが多いので落ち着ければ対処できるはずだ。


「……あれ。オヤッサン、なにやってんの?」


囲まれている探索者の中に知り合いを見つけた。


「おお、鈍川じゃないか。オイ新人ども、頼もしい応援がきたぞ。これで安心だから、もう少し気張れ!」


いやオヤッサン1人いればここの魔物狩り尽くしてもおつりが出るだろ。……いや、連れているのは新人らしいし、初心者講習の真っ最中ってところか。


「えーと、オヤッサン」

「とりあえず道を作ってくれるだけでいい」

「あいよー」


質問を全部言う必要ないのは助かる。さすがオヤッサンだ。

リクエスト通りに通路近くの魔物を掃除していく。【人面大イモムシ】は数が多いがイモムシなのでサクサク倒せる。大サナギ(正式名称:寝袋ゾンビモドキ)はキモいが動かないので邪魔なのだけ倒せばOK。一番やっかいなのは今まで何匹も倒してきたバ美肉妖精なので苦戦する理由がない。


パパッと道を作っていくと、新人達になぜか注目されていた。


「あー、全員ケガはないか?オヤッサンがいるなら問題ないと思うけど」

「なんであんなに普通に倒せるンスか?」

「まったく参考になりませんね」

「……」

「武器も技術もぜんぜんすごく見えないのに、アッサリ倒してる。不思議」

「もしかして俺、ディスられてる?」


オヤッサンが近くの魔物を片付けて戻ってくる。


「お前、もっと派手にできないのかよ。新人どもに『キャー、カッコイイ』とか言われたいと思わないのか?」

「人には向き不向きってのがあるんだよ。てかオヤッサン、モンスターハウスに新人連れてくるとか勘が鈍ったんじゃないのか」

「バカヤロ。あのなあ……」


オヤッサンは肩を組むようにして声をひそめた。


新人ども(あいつら)が自分たちだけでやれるってイキったんでな、好きにやらせてみたらこうなったんだよ。いちおう言っておくが、マジで危なかったら止めるつもりだったし、今回のもお前が来なくても対処できたからな。わかったな?」

「オーケー。わかったよ」


オヤッサンの腕を押しのけて服を整える。


「じゃあ俺はもう帰るけど、大丈夫だよな?」

「ああ、後で一杯おごってやるからな」

「金でくれ」


いつもの調子で返事をして、新人達がいることを思い出した。今さら取り繕っても仕方ないので、「がんばれよ」とだけ言って戻ることにした。


「あの、お待ち下さい」


新人から声をかけられたが、聞こえないふりをして走り出す。彼らの教育はオヤッサンの仕事だ。

さらに後ろからオヤッサンの声が響く。


「ほら、ボーッと立ってないであいつの後に続け。魔物はまだ残ってるんだから、また囲まれないうちに逃げるんだよ」


ドタドタと走る音が迫ってくる。追いつかれたくないので、めっちゃ本気で走ってしまった。

◆◆◆


「教官、先ほどの方はお知り合いのようでしたが、どのような人なのですか?」

「ああ?あいつは鈍川ってヤツだ。腕はいいんだが、パーティーでの行動が苦手でな。大きい仕事に参加できないから万年C級探索者やってる」

「鈍川様というんですね」

「お、気になるか?アイツも新人探索者の講習やってるから、指導官の変更してみたらどうだ?」

「本当ですか?教えてくださりありがとうございます」


新人探索者が受付へ走っていく。


「マジであいつのこと気に入ったのか?にしても、今までで一番素直なお礼が出たなぁ。まあこれで他の新人どもも落ち着くだろ。鈍川の方の新人は女子だったはずだし、心配はないな」


オヤッサンと呼ばれていた探索者は自分の言葉にうなずいた。


◆◆◆

・~~~・


○人面イモムシ:大きなイモムシ。顔の部分がやつれた人の顔にも見える。全長2mくらいまで大きくなる。


○寝袋ゾンビモドキ:人面イモムシの進化形。壁や床などに張り付いて動かないが、近くに獲物が来ると突然動いて攻撃してくる。寝袋の皮をドロップ。


○2Dフェアリー:正式名称【デジタルディメンションフェアリー】

長いので誰も正式名称を使わない。また一部の探索者は【バ美肉妖精】と呼んでいる。寝袋ゾンビモドキの進化形。


(わい)次元妖精の羽根。2Dフェアリーのドロップ品。周囲のごく狭い空間を歪める性質を持つ。


・~~~・

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