1/33
プロローグ
「君は僕がこの世からいなくなった後も生きていくんだね。」
ーーー夏の太陽が皮膚を刺す。
外からは鼓膜が破けそうなほど蝉たちが命を叫んでいる。
蝉の命はたった一週間だと聞く。
“パチン”
庭に咲いている麦藁菊。
手入れをしていた私は消え入りそうな愛しい人の声に、まだまだ花を咲かせたばかりの芽を摘んでしまった。
「君のクビもその花のように落としてしまおうか。」
陽の光を知らない真っ白なひょろりとした腕で、愛刀の菊一文字則宗を手に取る。
「僕がいない世界なんて、君が知る必要ない。」
そう言って珍しく姿を現したあなたは、あの頃と変わらぬ早さで私との間合いを詰めてギラりと刃を光らせた。
私は抵抗などしない。
その言葉が全てだから。
最期にあなたの姿を目に焼き付けて逝けるのなら、本望。
"ガシャンッ"
しかし首筋に届いた刃は私の皮膚を傷つけることなく地面に落ちてしまった。
「もう僕には人を斬る力もなくなってしまったみたいだ。…憐れだね。」
そう言って力強く私を抱き寄せたあなたのその優しさが、
どうしようもなく狂う程、愛おしかったーーーー。