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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第一章】 ようこそ 大魔法使いの国へ
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─7 握手をしよう

 先程の窓辺から見た暗さから一変して、空は爽やかな青が広がっていた。

 心地良い風が吹いており、緊張した心が少しずつ和らいてくるような気がする。

 背の低い草花が絨毯のように美しく広がって、その真ん中を黄色いレンガが一本道を作っている。それは遠くの方に見える城門にまで続いていた。


 振り返ると、テレビや雑誌なんかで見る異国情緒溢れる建物、いかにもな古城が非常に高くそびえ立っている。

「さっきまでこんなとこに居たんだな、俺」


 ──しかし何よりこの城の装飾だ……。

 壁・柱・屋根の至る所にエメラルドの宝石をあしらっており、目を見張るには耐え難い眩しさだった。これはオズの趣味か?

 普通に目がやられる。これで城攻めからの防衛策になっているのかもしれない。


 ふと手の中のトトを見ると、少し拳に力が入ってしまったせいで、若干シワができている……。本当にすまん……。

 というかこれ、生き返る、のか? 呼吸なんてしてないし、飯も食えないし、大丈夫なのか?

 

「──あの、お詫びとしてはなんだけどさ、持っててあげようか? その犬」


 オズが申し訳なさそうな顔をして、手を差し出してきた。

 その返事は考えるまでも無い。


「いや、これは絶対俺が大事に持ってなきゃなんねぇ。せめてもの、飼い主の責任だ。……でもこれ以上傷つくのはちょっとな……」

「そう、か。じゃあ! せめて、ポーチをあげるよ。破れにくいから、ベルトに付けといたらいい」


 オズはそう言って、どこからともなく取り出した、綺麗な茶色の皮でできたポーチを渡してきた。

「いいのか?」

「いいさ、その、犬……」

「トトか?」

「そう! トトへのお詫び……!」

 少しはにかみ笑いをしたオズは、少し間を置いて口ごもりながら言った。


「あのさ、さっきはほんとに、ごめんね」

「え?」


 ポーチをくれた時点で違和感があったが、城の中の様子とは打って変わってしおらしい態度に、少し驚いた。

 あまり目は合わないが、純粋に反省しているようだ。

 ──このままオズだけが謝るってのは、無い、な。俺はオズに向き合って言った。


「分かったよ。……いや、俺もかなり大人げ無かったわ。怒鳴って暴言吐いて、喚いて。こっちも悪かった。すまん」

「……そんなの、僕だって、いっぱい好き勝手言ってたからさ。それに僕は一応王だし? もっとけんきょ? つつましやか? になれっていうのは、昔からよく言われてる事で……」


 多分あの魔女様に、普段はこんこんと詰められているのだろう。ただ、オズの気質からして、全くと言っていい程響いちゃいないのは一目瞭然だ。考えようによっては、こうやって反省できるだけマシなのかもしれない。


 それと、王であるという事が、ここの世界ではどこまでの重要性があるのか、俺にはいまいちピンと来ないのだが……。言えるとすればこれだけだ。


「ま、ちゃんと思ってる事は言わないとってのが、俺の性分だからな。部外者の立場でズケズケと言うのもどうかってとこもあるけど。──正直! 王だから何だとか、責任とかふるまいがどうとか、俺にとっちゃどうでもいい! あのまま黙ってどっか行っちまったら、国うんぬんの前に俺もトトも困る! だから言わせてもらった」


 ──それに、あのまま行かせてしまったら最後、二度とオズがこの国に戻ってこないような気がした。

それは、何か違う。と心の片隅で思ったからだ。


 オズは俯いたまま静かに頷くばかりだった。


「……あとさ、王様でもちょっと休むくらいはいいんじゃないか? ……これでも割と同情してんだぞ」


 オズは顔を上げた。

「でも君は、責任放棄するなって言ったじゃないか! ゲイエレットと一緒の事、言ってたし……」

「そりゃ言ったけど、それだけじゃない。やる事はやる。けど、たまには寄り道したってバチ当たらねぇだろって意味だよ。ああ、もう。俺が言えた事じゃないか……」

「……?」

 小首を傾げるオズを横目に、自分のこれまでの事を思い出した。


 そうだ、俺、ちゃんと休んだ事、社会人になってからあったっけな……。オズに偉そうに語れるくらい、大したことして無いくせに。


 俺がここに来る前は……とにかく、疲れていた……? 全身がうまく動かなくて……。


 ──それで……? 考えれば考える程、何故か記憶は朧げで、残りの思い出もゆっくりと灰色の霧の中に紛れて消えていく。


 そして、何か恐ろしい事を思い出しそうな気がして、俺は頭のもやを払拭するように首を振った。


「……こんなとこでうだうだ考えても仕方無い!」


 改めて、オズの前に堂々と立って告げる。急な態度の変わりように、一瞬怪訝な顔をされたが知ったこっちゃない!


「こんな魔法の国とやらで、俺に何ができるかさっぱり分からねぇ。けど、出来ることがあったら協力するからさ」


俺は手を差し出す。


「王様といえどまだまだ子供なお前に、結局情けなく頼ってばっかになるかもだけど、うまくやっていけたらいいと思ってるよ。よろしくな、オズ」


 王様への礼儀がこれで合ってるのかは分からないが、友好の意味合いの握手だと受け取って欲しい。

 オズはその手をじっと見て、ふいと顔を逸らして言った。


「……僕五百年は生きてるんだけど。子供じゃないし」


 まじかよ。というか、何となくそんな気がしていた。そして結局握手はしてくれなかった。

  

 気を取り直して、明日ゲイエレットに会うまでの時間、何をするかを決めないと。


「城の中での話だけど、『オズ』って名前の国の事。ざっくりでいいから教えてくれないか?」

「……ん? さっきゲイエレットが説明してなかった?」

「うーん。できればもう少し詳しく」

「そう、じゃあ歩きながら話そう」


 そう言ってさっさと前に進み始める。俺もそれに続いた。

 時折こちらに向いて、後ろ歩きになったり、軽やかな足取りでスキップなんかをしながら、オズは色々と教えてくれた。


「ここは遥か昔からある国、『オズ』。僕はこの国の王。名前はオズ」


「さっきのコワイ魔女は、ゲイエレット。……けど悪い人じゃないよ、決してね。魔女はこの国に四人。魔法が使えるのは僕と、その四人の魔女だけだ。……いや、あともう一体いるけど……それは置いといて」


「城の中にいっぱい集まってたのは『マンチキン族』っていう小人達」


「マンチキン族?」

 聞き慣れない単語だ。この国特有の呼び名なのだろうか。


「そう。この国に住んでいる善良な人間達。弱くて頼りなくて不器用で、手がかかる。けど、素直で仲間思いの、優しい人達さ。王の僕は、その皆を護ることが使命なんだ……」


 オズは急にその場に立ち止まった。ふいに何か思い詰めたように元気を無くして俯いた。


 次の言葉が出てこない為、どうしたと声をかけようとしたが、気まずくなった空気を振り払うように、オズはまた前へ駆けていく。


「この城の庭から外に出たら、『エメラルドの都』があるんだ。行ってみるかい?」


 そう言われて遠くの方へ目をやると、幾つものとんがり屋根が城門から頭を出しているのが見えた。その屋根はどれもこれも光でギラギラと輝いている。

 ──エメラルドと聞いて、俺は嫌な予感がした。

次回更新は 1/18(土)12:00 予定となります。

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X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

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