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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第三章】 真摯な木こり
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─3 魔法の使い方②

「お前の使う魔法について……。聞きたい事があんだが」

 トロスは言った。さっき歩いていた時に話していたその続きだろう。

「いいよ! 何でも聞いて」

 オズは机に突っ伏したまま声だけ返事をする。

 俺も、興味はあるので片付けはそのままに聞く事にした。


「俺の体は、藁を編んでできてる。動くのは、お前の魔法で作った絵の具で顔を描かれてるからだ。だがお前がさっき出した、チョコレート? 魔法でイチから作るものを見てて、思った。魔法っつーのはどこから湧いて出てくるんだ?」


 オズの手から放たれる光。魔法。その根源について。

 それはきっと、数日前に聞いた、あれだ。


「神様の力だよ」

オズはさらりと言ってのけた。


「魔法使いの僕。そして魔女は神様と特別に繋がれる力を持っているのさ。ゲイエレットは、この世界を平和に保つために、選ばれた者へ魔法の力を運んできてくれているんだって言ってた。で、その神様っていうのは……」


 オズはぴっと人差し指を立てて、腕を天高く伸ばした。そしてその腕はぐるぐると渦を巻く。俺とトロスはまさか本当に神様とやらが出てくるのかと思って、じっと指先を目で追っていた。しかしオズはその手を止めて、元通り机に頬杖をつき始めた。


「この世界のどっか。風に吹かれて漂ってるのさ」

「どっか……って。んなアバウトな……」

「……ますます意味が分かんねぇ」


 何回聞いてもその筋の話は眉唾もんなんだよな。神がどうとか以前に、よくある相性占いやスピリチュアルな話は見聞きしても全くピンとこないものがある。こうすればこうなるという道理がないからだ。

 しかしオズがこれだけ真剣に話しているのだから、というより、事実魔法を使えるのだから、もはや超常現象は全て神のお陰だと言い切ってしまう方が、これ以上脳みそを使わなくて楽かもしれない。

 

「ね! こんな素敵な力をもらえるんだから、神様がいるって信じてもいいでしょ?」


 念押しするかのようにオズは神様の存在を肯定してくる。というより、オズはこれ以上神の事を知らないのかもしれない。

 それしか知らない。けど目的、魔法は使えるからそれ以上知らなくても別に構わないというという事。……なのか?


「お前のその役割。……世界を平和に、ってのはちゃんと果たされてんのか? 誰ができてるって証明してくれんだよ。それも神なのか?」


 なかなか鋭い視点で切り込んでくるトロス。


「そ、それは、ほら! ここから見渡して、どこもかしこも綺麗な景色が広がってる。ここに来るまでに会った子達だって、みんな大らかで可愛くて元気そうだった! ゲイエレットが言ってた。うまくいってなきゃこの世界は終わるんだって。昔から今に渡って、全然終わってないんだから、絶対うまくいってるって事なんだよ。シローも聞いてたでしょ?」

「……確かに、そんな話してたような……」


 オズが言っている事はあながち間違いじゃない。本当に、この世界は平和そのものだとも思う。

 だからと言って将来的にこの平和が確約される保証がどこにあるかなんて分からない。分からないものを絶対なんて言い切れない。


「……お前の絶対できるの一点張りはどうも信じ難いんだよな」


 トロスはうんと椅子の背にもたれながら行き詰まった様子で腕を組む。

 ここまでの話で、オズはうつむき加減でみるみる小さくなってきたので、この話はもう切り上げる事にした。


 また一晩中外で作業をするというトロスと、明らかに口数の減ったオズを残して、後ろ髪を引かれる思いのまま俺は家の中へ戻った。少し冷静になる為にも、さっさと風呂に入ろうと思った。


 脱いだ服をさっと洗濯機の中へ入れて、浴室の入り口を開ける。コックを捻ると、やはり出るのは水のみだ。この世界の気候は春のように暖かいとは言え、夜に真水のシャワーは体に堪えるものがある。


「……いよいよ我慢できなくなったら、その時はオズに頼むか」

「何をさ」

「ダァ──!?」


 湯を張っていない湯船の中へ、即座に待避。さながらカエルのような動きだったが構うものか。屈んだ状態から恐る恐る顔を上げると、やはり何のお構いもなく浴室のドアを全開にして、オズが立っていた。なぜだか不機嫌そうな顔で。


「だからプライバシーの配慮の無い行動を慎めよお前は!」

「ぷらい……? 勝手に開けるなって事? だって聞きたい事あったし……」

「後にしろ、後に!」


 そう言ってすごすごと引き下がるでもなく、オズは俺の訴えを無視し、浴室内をくるくると見渡している。


「うちの城にも、水浴びができる部屋があるんだよね。こんな狭さじゃ無いし、僕はあんまり使わなかったけど」


 なんて悠長に世間話を聞かされている。言いたいことはあるが、そろそろ全裸で屈んでるのが寒さで耐えられなくなってきた。


「……寒い」

「水を頭に被ったら、目が冴えるけどさ。そうなんだよ、上がったら寒いし、なんか、心も凍りつく感じがしてイヤなんだよね」

「……お湯」

「おゆ?」


「頼むオズ、お湯出せるようにしてくれ──‼︎」

 ガタガタと歯を鳴らして訴えた。

 状況に気付いたのか、オズは「本当に君の家は魔法が必要なものだらけだね」と半ば呆れ口調で言いつつ、浴室に身を乗り出して、シャワー本体部分に手をかける。


「また丁度いい温かさに、って感じ?」


 一言言うのと同時に、浴槽の方へ向いた蛇口から勢い良く、水、もとい、お湯が注ぎ込まれてきた。

 あ、温かい! この久々の温度感に、身も心も救われたような気がした。この一滴ずつに慈しみを感じる。


「あぁ〜〜神様! ありがとうございます!」

「僕だよ僕」

「そーだな、お前にも感謝感謝」

「何で棒読みなんだよ!」

「あーもう! 後でたんまり話は聞くから、そろそろ出てってくれ!」


 まだ反論しようとするオズを強引に外へ追い出し、浴室の内鍵をばっちり閉める。外からは、早く出てきてよー! と叫び声が聞こえるが、これ以上構ってられるか!

 隅の方に置いていた洗面器で、たっぷりのお湯をひとすくい、頭の上から盛大に被る。やっぱ風呂はこうでないと!

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