2章終了後SS ─2「闇の囁き」
──薄暗い屋敷。人間が住んでいるとは思えない程の無機質さが漂うこの建物の一室の隅で、影が囁いた。
「はぁ……。私の暇つぶしがやっと地を這い始めたらしい。全く、寂しいものだよ」
誰に向けるわけでもなく放った低い声が、もぬけの殻の部屋の壁で反響する。
少しの間をおいて、その声の主とは正反対の位置に在る影が、気だるげな声でその言葉を拾った。
「……心にも思っていない戯言を言うな。貴様の絶え間ない世間話には俺でさえ嫌気が差す。当然だ」
「ハン。相手は案山子だ。最近になってやっと多少言葉を返すようになってきたのにこれだ。これから面白くなるところだったというのに……。またこの唐変木相手に愚痴を言う事しかストレスのはけ口が無いなどと。考えるだけで不愉快だ! 本当にここは、面白いものが何一つ無い!」
「……」
温度差のある二人の影。
一人憤慨している方を、物静かな影がことごとく面倒そうにあしらっているのは、もうずっと前に一方的な罵りを黙って聞き入れていたのを、また一から繰り返されそうになっているからだ。相手にするのはうっとおしい。いちいち返答を考えるのも面倒臭い。
唐変木の影はずっと思っていた。この世界で、退屈さ。面白さ。そんなものを俺達が、考える事自体が無意味であると。
「考えるだけ無駄だ。俺達は与えられた命令を只こなすのみ。貴様も黙って立っていろ」
「……チッ。つまらない男だよ全く。本当に私と同じ──」
「──状況は?」
言い終わる前に、甲高い、威厳のある声が部屋の入口から隅々まで響いた。
張り詰める空気に、二人の影は最初から何もなかったように静まる。
──カツ、カツ。と、ヒールの音が、部屋の最奥まで続いていく。
その人物は重厚な玉座のようなソファに、乱暴に腰を掛けた。
何の音も無くなった部屋に、よく口の回る方の影が囁く。
「──かの愚王は、現在城から離れて南下を続けています。引き連れている者にも変化が。異世界の男に続き、一体の喋る案山子……。まぁ、何という事もありません。ただの阿呆ですよ」
「案山子? ……本当に、何がしたいの?」
不満が滲む声に、報告を終えた影はとばっちりを受けないようさっと口を閉じる。
その沈黙が次の火種にならないよう、もう一方が言葉を足した。
「何にせよ奴らがこの領地に足を踏み入れるまで、我々はどうとも出来ん。それまでじっくり、綿密に準備を進めることだ」
この影の主人である人物は、高ぶった気を静める。
「──いいわ。もうすぐ次の魔法も使えるようになる。その時が来たら、私は──」
玉座から降りた人物は、崩れかけた壁にある窓に向かう。
真っ赤な瞳。射殺すような目つきで、その先に居るであろう、かの王を睨む。
「私こそがオズになるのよ」
最後に、小さくそう囁いた。
次回更新は 6/21(土)12:00 予定となります。
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