2章終了後SS ─1「オズ式家電の活用方法」
さて、休憩ついでにアレを片付けてしまおう。俺の目論見がオズの魔法で再現できるかどうかはあいつ次第だが、はたして。
「オズ。ちょっと頼みがあるんだが、まず、その辺に家出してもらっていいか?」
「何? 忘れ物? ……よっと!」
左手をくるりと回すと、いつもと同じく地響きを立てると共に、雑に家が置かれた。全く、よりにもよって若干斜面になってる所に置きやがって。毎度全く大事にしないなこいつ。
それはそうと用があるのは中だ。
「とりあえず、入ってくれ。あとついでにトロスもな」
「あぁ? オレも?」
椅子の背もたれに体重を限界までかけて様子を伺っていたトロスは、まさか呼ばれると思っていなかったらしく若干バランスを崩しそうになった。
トロスはしぶしぶといった様子でノートを懐にしまい込み、オズと揃って玄関へ近づいてくる。
「……そういや、トロスは中に入るの初めてだよな。ボックさん家と全く勝手が違うけど、何か知りたい事があったら遠慮無く言ってくれ」
「まず外見から別モンだからなぁ。ちょうどいい。色々見させてもらうぜ」
「見るほど中身無いけどね~!」
「お前が言うな! ……たく、どーぞ。オズは靴を脱げ」
「ハイハイ……」
玄関前でぎちぎちに詰まりながらも一人、二人と中へ。トロスが頭をぶつけないように低い玄関ドアを屈んで潜ったところで、言った。
「何だここ。何でこんな暗ェんだ」
「そりゃそうだ。ボックさんの家は、壁にたくさん窓があって、日光が入りやすかった。それに暖炉の火の灯りもあったからな。それに比べたら俺の家は……」
「あの奥のデカい窓だけだからってか」
「そーゆー事だ」
ベランダの掃き出し窓以外にはリビングに日光が入るところは一つも無い。部屋の明かりは全て照明に頼っているから、こんな昼間でもどんよりと暗いのだ。
「そこで、オズの魔法だ!」
ぼやっとしていたオズが急に名前を呼ばれ、シャキッとする。
「僕が明るくしろって?」
「そう! それも、俺が好きなタイミングで、明かりを点けたり消したりできる。そういう魔法だ」
「……ん? じゃあそこら中にロウソクを立てまくるって事で、僕はロウソクを大量に出せばいいの?」
「いいや、違う。……よく聞いてくれ、まず……」
二人をその場に残し、玄関の靴を置いた場所へ移動する。そこには、キッチン・リビング・玄関外のライトの照明スイッチがあった。
──パチン。一つ、それを鳴らす。当然何も起こらない。
俺の事をじっと目で追っていたオズは、目を細めて少し呆れたように言った。
「何してんの?」
「オズ。これを押すと、その天井にある丸いのが光りだす。俺の世界では、それが普通の現象だ」
丸いの。そう、ただの丸形LED蛍光灯のカバーだ。
「この丸いの何?」
「この際だが、その丸いのが何なのかは考えなくていい。このスイッチ……も分からないか。このパチンを押すと、それがこの部屋全体をとても鮮明に見える程明るく光りだす! そして、もう一度押すと、その光は消える。……このイメージをもって、魔法を使ってみてくれ」
オズは唇に手を当てて、何やら考え始めた。
そこへ、ずっと俺たちのやり取りを見ていたトロスが口を挟む。
「……おい、シロウ。そりゃどういう事だ? 全く意味が分からねぇ。だってよぉ、ボックの家は火が燃えてたから明るかったんだろうが。あの丸いのが突然燃え出すって事か? そんな事すりゃあ一瞬で丸焦げだぜ」
「燃えるんじゃなくて、あれが光りだすんだ。……全てはイメージなんだよ!」
「い、イメージ?」
そう。俺の想像が正しければ、トロスの言う原理だとか、法則だとか。そういうのはオズには関係ない。
オズの魔法は──。
「なるほどね! じゃあ、そうしよう!」
オズは一声あげると、握りこぶしの両手を掲げて、パッと開いた。その拍子にきらりと光った粒が一瞬零れ落ち、上を眺めたままの姿勢で、オズはゆっくりと手を降ろす。
今度は俺の横にあるスイッチに向けて、クン、と軽く指を振ると、ひとりでにパチンと音が鳴って──。
──その一瞬で、俺の部屋は見違えるほどに隅々まで見通せる程明るくなった。
「せ、成功だ──‼」
高らかに片腕を天井に突き出し、ガッツポーズをとる。
──明るい! それだけで心にも光が差したような、そんな想いで溢れている。
俺は直ぐにリビングのスイッチをもう一度押した。
「──消えた! よし、これもオッケーだ!」
「当然でしょ! 魔法を使ったんだからさ! でもちょっと明るすぎたかなぁ?」
はぁ、と溜め息をつくオズ。
当然、などと言っているが、俺もここまではしゃいでおいて冷静に考えてみると、これは当然などと言ってもいいものでは無い。こうやって、パチン、と押すだけで部屋が瞬く間に明るく! なんて口で言えば早いが。
今までこれを実現するのに数え切れない程の時間と、大勢の人間の知恵が費やされただろうに。
そんなものは想像するだけで全て飛び越えてしまう。
それがオズの魔法だ。
もう一度点灯し直して、煌々と照らされたがらんどうの部屋を見る。日常が返ってきた安堵感と、自分は今あまり良くない事に足を突っ込んでいるような背徳感を同時に覚える。
何がどう良くないのかは、何だろう。よく分からないな……。何でそう思ったんだろう。
「おい。お前ら──」
棒立ちのトロスが、天上を見上げたまま動かない。
「どうしたトロス」
「目の前が……真っ白でよ。今どうなってる。お前らどの辺に居る?」
ふらふらと手探りをしながら辺りを見回しているトロス。オズは丁度トロスの目の前に居たが、慎重な足取りですぐ横を素通りしていく。
──もしかして今、見えてないのか?
「──あぁ!」
オズが素っ頓狂な声を出した。と思えば、左手を握って開いて、あの城下町で見たサングラスを取り出した。トロスの肩を捕まえ、振り向かせると同時にそのサングラスを無理やり顔にねじ込んでいく。
すると、サングラスは溶けるように消え、動揺していたトロスも次第に大人しくなっていく。
「お、おぉ? み、見える。何だこれ」
自身の顔をぺたぺたと触っては、頭の上に疑問符を並べている姿に、俺はとても既視感があった。
そう、これはあの時と一緒だ。俺はもう既にあの城下町でサングラスを貰ってからずっと外していないから気付かなかったが。
「お、オズ。もしかしてこのサングラスが無いと、光が強すぎて何も見えないって状況になってるんじゃないよな」
「う、うん! あはは! ちょっと強すぎたみたい! でもこうやって目を守ってやったら普通に見えるでしょ! だから問題ないでしょ!」
「……今からでもその強さを弱めるってことはできるのか?」
「できないよ? だって魔法の力を一部取り消すって事でしょ? だから僕に元の力が戻るまで、この光の強さはずっとこのまま」
──なんてこった。新事実が発覚した。
魔法を無効にすることのみならず、魔法の力加減を後から調整することはできないらしい。
なので安易な考えでとりあえず発動してみる、なんてことをすれば、後でそれを調整するための対応・もしくは魔法が必要になってくるという事だ。しかも魔法を重ね掛けする方法をとるなら、それについてのエラー対応も事前に考えなければならない。
しかも一番の問題が、その魔法使いがオズだという事だ。
俺はふと、眉間にいくつもの皺を寄せていたゲイエレットさんの事を思い出す。
──あぁ。これは苦労したんだろうな。
こいつをいかに安全に制御するかというところで、ずっと悩みの種だったのだろう。
「問題ない! だって今大丈夫だし!」
何か繕っているような言い方。焦りが見え隠れしているのがバレバレなのが、更に不安な気持ちを加速させる。
オズの魔法は一触即発の爆弾みたいなものだという事を再認識されられながら──。
「……今のところは、だな。他の家電は……もう少し検討に検討を重ねることとするわ……」
「えっ! まだ他にもあるの? 面白くなってきたからさぁ、もっと試そうよ~!」
「シロウ、絶対やめとけ」
「検討に検討を重ねる!」
「えぇ~~⁉」
洗濯機・冷蔵庫・電子レンジ・生活ごみ処理・消耗品の在庫管理。生活の必需品が今やこんなにも程遠いものだとは思っていなかった。ましてやガスコンロなんか、もっての他だ。
「あ、トイレだけは流せるようにして?」
最後に付け加えるようにオズに頼んだ。
次回更新は 6/7(土)12:00 予定となります。
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