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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第二章】 トロルのカカシ
39/51

─ 18 夢の中の自分

***




 ──まただ。

 ここは俺が勤めている会社の会議室。主要メンバーはほぼ出揃っている。

 比較的控えめなメンバーは席についていて、代表の席に目をやったり、顔を伏せたりと落ち着かない雰囲気が漂っていた。


 それもそのはず。

 代表の席に立たされた、一人の男性社員。

 前髪までボサボサの黒髪は、太い黒縁眼鏡の上から影を作っている。

 クリーニングに出した事が無いのか? と二言三言釘を刺されても仕方ないような、シワでヨレヨレのスーツが、痩せた体をぶかぶかと包んでいる。

 

 そんな彼を、口の立つ数人が取り囲んで、彼のあらゆる失態を指導している──。

 彼はただ、小さな声で謝るばかりで、一切素顔が見えない姿勢のまま体を縮こまらせていた。


 こんな状況を──俺は前も夢で見た。

 これは実際にあった事だ。

 

 俺は、何をしていた?


 周りの皆と一緒に、席に着いて項垂れていた。

 ただ、この鬱陶しい時間が過ぎ去るのを、待っていた。


 ─違う。


 俺は、彼の前に出たんだ。そして、叫んだんだ。


「──いつまでやってんですか‼︎」


 会議室の冷たい空気が、ビリビリと震えたのを覚えている。

 皆の視線が突き刺すように、俺に集中したのを覚えている。

 あーあ、ついにやった。と、嘲笑の声が、溜め息が、ハッキリ聞こえたのを覚えている。


 ──だから、何だってんだ。

 俺はそれに物ともしなかった。

 ただ、俺はこの状況がどうしても許せなかった。


 弱い者が理不尽に、強い者にボロボロにされるのを、ただ見ているだけなんて、絶対にあってはいけない。その一心だった。

 

 全身全霊を掛けて、俺は彼を擁護した。

 強い者達から、心無い刃のような言葉をこれ以上かけられないように。

 彼は今までも努力してきた事実を認めてもらえるよう、代表には一番に訴えた。


 言える事は言った。

 俺は、俺のやれる役目を果たせた。

 彼は、これできっと救われた。


 ──会議室から出て、次の業務に取り掛かろうとすると、後ろから微かに声がした。


「……灰野さん」


 振り返ると、先程の彼が立っていた。

 相変わらず俯いた姿勢で、今は若干震えている。あんな事があったんだから、仕方無いよな。


 ──こんな時、何て言うのが正しいかなんて、難しい事は分からないけれど。それでも、俺は──。


「大丈夫だ! 間違ってても、上手くいかなくても、頑張ってればいつか何とかな──」


「正義のヒーローみたいな事、社会人になってまでよくできますね」

「──は」


 今聞いたのは幻聴か。否。こんな時だけ、はっきりと顔をあげた彼が、何の言葉の詰まりも無く俺に向かって言った。確かだ。


 突然頭の中が弾ける感覚がした。


 俺の中の大事なもの。一つ一つが色とりどりの泡になって、それらが俺自身を形作っているもの。


 それが、次々に割れていく。または黒く、白く、濁っていく。


 最後はぐちゃぐちゃの、灰色になって、俺は──。

 

 俺は何なんだ?




***


 ──光が瞼にかかる。

 あぁ、朝か。朝なのに──。なぜか体がどっと疲れている。

 歳をとると寝たら治るのが当たり前じゃ無くなってくる、なんて話を冗談混じりに聞いてはいたが。それにしては早すぎないか? こちとらまだ二十代半ばなんだが。


 身じろぎをすると、ぐしょ、と濡れたシャツが体にへばりついて非常に気持ちが悪い。……汗かきすぎだろ。どんな夢見たんだっけか。


「んあ、そだ。トトに声掛けないままだっ……」

「あ! やっと起きた!」


 ──この能天気な声は。


「おはようシロー! 今日はボック達が朝食用意してくれてるよ!」


 どたどたとリビングを駆けるオズ。全く、朝から騒がしい。

 

 グッと体を起こして伸びをして、腰につけたポーチに手を突っ込む。

 今日も変わりないトトのぬいぐるみが、手の平にちょこんと乗っかって、ワン、と吠えた、気がした。


 はあ。今日も一日、頑張るか。


「おはよー、トト、オズ」

「あー‼︎ また僕の挨拶が後だった‼︎ 腹立つそれ!」

「うっせ──‼︎ 朝飯の前に一言‼︎ ふ・く・

を・着・ろ──────‼︎」


 彼の持つ、はためくシーツの下は、また性懲りも無く全裸で無いと言い張るパンイチだった。


 ……くそ、毎朝言う羽目になるのかこれ。

次回更新は 5/17(土)12:00 予定となります。

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***

X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

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