─ 18 夢の中の自分
***
──まただ。
ここは俺が勤めている会社の会議室。主要メンバーはほぼ出揃っている。
比較的控えめなメンバーは席についていて、代表の席に目をやったり、顔を伏せたりと落ち着かない雰囲気が漂っていた。
それもそのはず。
代表の席に立たされた、一人の男性社員。
前髪までボサボサの黒髪は、太い黒縁眼鏡の上から影を作っている。
クリーニングに出した事が無いのか? と二言三言釘を刺されても仕方ないような、シワでヨレヨレのスーツが、痩せた体をぶかぶかと包んでいる。
そんな彼を、口の立つ数人が取り囲んで、彼のあらゆる失態を指導している──。
彼はただ、小さな声で謝るばかりで、一切素顔が見えない姿勢のまま体を縮こまらせていた。
こんな状況を──俺は前も夢で見た。
これは実際にあった事だ。
俺は、何をしていた?
周りの皆と一緒に、席に着いて項垂れていた。
ただ、この鬱陶しい時間が過ぎ去るのを、待っていた。
─違う。
俺は、彼の前に出たんだ。そして、叫んだんだ。
「──いつまでやってんですか‼︎」
会議室の冷たい空気が、ビリビリと震えたのを覚えている。
皆の視線が突き刺すように、俺に集中したのを覚えている。
あーあ、ついにやった。と、嘲笑の声が、溜め息が、ハッキリ聞こえたのを覚えている。
──だから、何だってんだ。
俺はそれに物ともしなかった。
ただ、俺はこの状況がどうしても許せなかった。
弱い者が理不尽に、強い者にボロボロにされるのを、ただ見ているだけなんて、絶対にあってはいけない。その一心だった。
全身全霊を掛けて、俺は彼を擁護した。
強い者達から、心無い刃のような言葉をこれ以上かけられないように。
彼は今までも努力してきた事実を認めてもらえるよう、代表には一番に訴えた。
言える事は言った。
俺は、俺のやれる役目を果たせた。
彼は、これできっと救われた。
──会議室から出て、次の業務に取り掛かろうとすると、後ろから微かに声がした。
「……灰野さん」
振り返ると、先程の彼が立っていた。
相変わらず俯いた姿勢で、今は若干震えている。あんな事があったんだから、仕方無いよな。
──こんな時、何て言うのが正しいかなんて、難しい事は分からないけれど。それでも、俺は──。
「大丈夫だ! 間違ってても、上手くいかなくても、頑張ってればいつか何とかな──」
「正義のヒーローみたいな事、社会人になってまでよくできますね」
「──は」
今聞いたのは幻聴か。否。こんな時だけ、はっきりと顔をあげた彼が、何の言葉の詰まりも無く俺に向かって言った。確かだ。
突然頭の中が弾ける感覚がした。
俺の中の大事なもの。一つ一つが色とりどりの泡になって、それらが俺自身を形作っているもの。
それが、次々に割れていく。または黒く、白く、濁っていく。
最後はぐちゃぐちゃの、灰色になって、俺は──。
俺は何なんだ?
***
──光が瞼にかかる。
あぁ、朝か。朝なのに──。なぜか体がどっと疲れている。
歳をとると寝たら治るのが当たり前じゃ無くなってくる、なんて話を冗談混じりに聞いてはいたが。それにしては早すぎないか? こちとらまだ二十代半ばなんだが。
身じろぎをすると、ぐしょ、と濡れたシャツが体にへばりついて非常に気持ちが悪い。……汗かきすぎだろ。どんな夢見たんだっけか。
「んあ、そだ。トトに声掛けないままだっ……」
「あ! やっと起きた!」
──この能天気な声は。
「おはようシロー! 今日はボック達が朝食用意してくれてるよ!」
どたどたとリビングを駆けるオズ。全く、朝から騒がしい。
グッと体を起こして伸びをして、腰につけたポーチに手を突っ込む。
今日も変わりないトトのぬいぐるみが、手の平にちょこんと乗っかって、ワン、と吠えた、気がした。
はあ。今日も一日、頑張るか。
「おはよー、トト、オズ」
「あー‼︎ また僕の挨拶が後だった‼︎ 腹立つそれ!」
「うっせ──‼︎ 朝飯の前に一言‼︎ ふ・く・
を・着・ろ──────‼︎」
彼の持つ、はためくシーツの下は、また性懲りも無く全裸で無いと言い張るパンイチだった。
……くそ、毎朝言う羽目になるのかこれ。
次回更新は 5/17(土)12:00 予定となります。
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