─17 後悔
「じゃ、カカシ、直接二人に話して来いよ」
「何をだよ」
「明日からの事をだ」
「あぁ……まぁ、言いてぇ事もあったしな」
カカシは素直に手を止めて、玄関の方に向かう。すると丁度、息子三人組がどかどかと家から出てくるのにすれ違った。
「おっカカシ! 俺らは今日は帰るからな! これから親父と母さんをよろしくなぁ!」
一人がぐっと親指を立てて、友好の意思を示してくる。なぜか勝手に話が進んでいるようだ。
「あ? オレはここに残らねぇよ。こいつらと行くからな」
「えぇ⁉︎ そ、そうなのかぁ……。そりゃ残念だなぁ、せっかく仲良くなったと思ったのによぉ……」
「ま、そう決めたんならしゃあねぇよ! 親父達は今まで通り俺達が面倒みてっから、また暇になったら来てくれよなぁ~!」
ほぼ一方的に言いたいだけ言った彼らは、来た道を賑やかに帰って行った。
「いつ仲良くしたってんだ……? 勝手な奴らだな」
そう呆れた声で呟いたカカシは、じっとその彼らの後ろ姿を目に焼き付けるように見つめてから、ゆっくりと家の中へ入って行った。
「カカシの奴、あんな風でいて、気に入ってるんだろうな」
「そーだねぇ! カカシも悪い奴じゃないから!」
にこにこと笑うオズ。
──その様子に、俺はずっと違和感があった。
この家に着いてすぐ、二人は相当いがみ合ってたはずだ。しかもオズはあいつに相当に強く非難浴びせられていた。
「なぁ、オズ。何か、無理してないか?」
「──え? 何を?」
オズはきょとんとした顔で答えた。しかし、聞き返すほんの一瞬、オズから笑顔が消えたのを見逃さなかった。
「いや、さっき、さ。随分口論になっただろ? あれから様子が一変してるからさ。……いや、俺がいない間に二人で話ができてるんなら別に、余計なお世話かもだけど」
──何故だろう。俺の言葉がしどろもどろなのが、自分自身でとても気持ち悪く感じる。
何か、前にもこんな事があったような気がする。
「うん。……そうだね。お節介だね!」
オズはただ、へらりと笑う。それは、完全な作り笑いだという事が見て分かったからだ。
その反応に、俺は心臓が締め付けられるような動悸がした。
──いや、思ってた反応と違うからって、何うっすらショック受けてんだ俺。あほか。
もっと気の利いた言葉かけられるだろ。だって、オズは──。
「──僕はさぁ。王様なんだよね。一応、この国の」
静かな声で、そう言った。
「あ……。あぁ、そう、だな」
俺は生返事に似た言葉を言うしかなかった。
「だからさ。皆の事、ちゃんと受け止めないといけない。たとえどんなに嫌われても、恨まれても。……もう二度と、見捨てるなんてしちゃいけない。君と出会ったあの日、僕は選択を盛大に間違えたのを、今でも後悔してる……」
「……そっか。言ってたもんな、オズなりに反省してたの──」
「でもやっぱ傷つく────────────‼︎」
「ええぇ────⁉︎」
突如、しんみりした空気を、一気に弾き飛ばした。
それからオズはおもむろに机に飛び乗って、満天の空に向かって両手を開いた。何をするかと思えば、怒涛のため込んだ鬱憤を一気に放出し始めたのだ──。
「僕は何百年もずっとつまんないんだよ────‼︎ カカシの二百年なんかの比じゃないぞ‼︎ 何か面白い事をしようと思ったら、ゲイエレットはあれも駄目これも駄目ってうるさいし! 大人しく城の中で暮らすのを強要するし! じゃあ人づてに面白い事をさせようと思ったら、僕の魔法は人を不幸にするだの、ペテン師だのと言われて、そもそもその道具を作る事すらずうっと前に禁止されたんだぞ──‼︎ この世界の何が楽しいんだよぉ────‼︎」
こ、こいつ、情緒不安定か。いや、そんな事は前から分かってたのだが。
と、ここまで一息に言い切ったところで、ぜぇはぁと喘ぎながらがくりと肩を落とすオズ。
何というか、本当に。俺も人のことは言えないが──。
「ほんと、不器用だよな」
「──は⁉︎]
ぎろりと俺を睨んだオズは直ぐに詰め寄ってきた。
「何笑ってるんだよ君は~~⁉︎]
「え? お、俺、笑ってたか?」
自身の口角をなぞると、確かに顔が引きつっている。というより、腹の内からこみ上げるおかしな気持ちが、その指摘を受けてさらに笑いに変えてくる。
「あ、あはは! あ、何だ? 別に笑ってねぇ、ハハ!」
「めちゃくちゃ笑ってるじゃないか‼︎ 何だよ! 君ならちゃんと聞いてくれると思ったのに!」
「いや、聞いてる聞いてる! た、ただ」
そう、ただ。
「や、なんだ。腹に据えかねてる事、本音ってやつかな。それを言ってくれたのが嬉しくてさ」
「人の不幸を聞いて嬉しがるとかどうかしてるんだけど」
納得のいっていない顔で凝視するオズを見て、また吹き出しそうになるのを何とか堪える。
「あぁ、すまねぇ。だって、俺、お前がそうやって本音で喋ってる所聞くの、すげー好きなんだって気付いたから」
「す、好き?」
目が点となるオズ。
──ん? 好きというと何か語弊があるような気がするが、ううん。そうとしか思えないからな。
「ま、とにかくだ」
オズのか細い背を強くパンと叩いて、言った。
「俺はさ、後悔って生きてる限り絶対避けられないものだと思う。……間違わずに正解だけ選び取るとか、間違っても何も感じないなんて、そんなん無理だ!」
「……でもゲイエレットは後悔しないようにって言ってたよ」
「う、そう、だな。でもあえて言う! 結論、俺達には無理だった! ……だから、できるだけ、後悔してる時間がもったいねぇって、吹き飛ばせるように、なったら、いいんじゃないかって……」
「……何で肝心なところで自信無くなるんだよ! ……ねぇ、続きは? ……シロー?」
急にぐらりと頭がふらつく。オズの背にかけていた手が、体が、重い。
前からオズが力強く胸を押すが、びっくりするほどその感覚も遠くなっていく。
─あ、まずい。
「し、シロ……ぎゃあ⁉︎」
ドサッ、と音がする。俺は、オズを容赦なく地面に押しつぶすように覆いかぶさった。
「何‼︎ 何なの⁉︎」
「あー……。すまん、オズ。ちょーねむい……」
「えぇ⁉︎ あ、……そうか、君、この時間に寝るんだ」
「当たり、前……ふぁ……。ほんと、マジで、お願いだから……家、出してくれ」
「う、うん……もう、しょうがないな!」
思い切りオズに地面に転がされた感覚がしたが、それはとてつもなく鈍かった。
ドスン、という地響きは、頼んだ通り、俺の家を出してくれた音だろうか。
そこから目の前に広がるのは暗闇だ。意識がぷつりと途絶えた。
次回更新は 5/10(土)12:00 予定となります。
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