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オズの世界の歩き方  作者: 藍沢
【第二章】 トロルのカカシ
38/51

─17 後悔

「じゃ、カカシ、直接二人に話して来いよ」

「何をだよ」

「明日からの事をだ」

「あぁ……まぁ、言いてぇ事もあったしな」


 カカシは素直に手を止めて、玄関の方に向かう。すると丁度、息子三人組がどかどかと家から出てくるのにすれ違った。


「おっカカシ! 俺らは今日は帰るからな! これから親父と母さんをよろしくなぁ!」

 一人がぐっと親指を立てて、友好の意思を示してくる。なぜか勝手に話が進んでいるようだ。


「あ? オレはここに残らねぇよ。こいつらと行くからな」


「えぇ⁉︎ そ、そうなのかぁ……。そりゃ残念だなぁ、せっかく仲良くなったと思ったのによぉ……」

「ま、そう決めたんならしゃあねぇよ! 親父達は今まで通り俺達が面倒みてっから、また暇になったら来てくれよなぁ~!」


 ほぼ一方的に言いたいだけ言った彼らは、来た道を賑やかに帰って行った。


「いつ仲良くしたってんだ……? 勝手な奴らだな」


 そう呆れた声で呟いたカカシは、じっとその彼らの後ろ姿を目に焼き付けるように見つめてから、ゆっくりと家の中へ入って行った。


「カカシの奴、あんな風でいて、気に入ってるんだろうな」

「そーだねぇ! カカシも悪い奴じゃないから!」


 にこにこと笑うオズ。

 ──その様子に、俺はずっと違和感があった。


 この家に着いてすぐ、二人は相当いがみ合ってたはずだ。しかもオズはあいつに相当に強く非難浴びせられていた。


「なぁ、オズ。何か、無理してないか?」

「──え? 何を?」


 オズはきょとんとした顔で答えた。しかし、聞き返すほんの一瞬、オズから笑顔が消えたのを見逃さなかった。


「いや、さっき、さ。随分口論になっただろ? あれから様子が一変してるからさ。……いや、俺がいない間に二人で話ができてるんなら別に、余計なお世話かもだけど」


 ──何故だろう。俺の言葉がしどろもどろなのが、自分自身でとても気持ち悪く感じる。


 何か、前にもこんな事があったような気がする。


「うん。……そうだね。お節介だね!」


 オズはただ、へらりと笑う。それは、完全な作り笑いだという事が見て分かったからだ。


 その反応に、俺は心臓が締め付けられるような動悸がした。

 ──いや、思ってた反応と違うからって、何うっすらショック受けてんだ俺。あほか。


 もっと気の利いた言葉かけられるだろ。だって、オズは──。


「──僕はさぁ。王様なんだよね。一応、この国の」

 静かな声で、そう言った。


「あ……。あぁ、そう、だな」

 俺は生返事に似た言葉を言うしかなかった。


「だからさ。皆の事、ちゃんと受け止めないといけない。たとえどんなに嫌われても、恨まれても。……もう二度と、見捨てるなんてしちゃいけない。君と出会ったあの日、僕は選択を盛大に間違えたのを、今でも後悔してる……」

「……そっか。言ってたもんな、オズなりに反省してたの──」


「でもやっぱ傷つく────────────‼︎」

「ええぇ────⁉︎」


 突如、しんみりした空気を、一気に弾き飛ばした。

 それからオズはおもむろに机に飛び乗って、満天の空に向かって両手を開いた。何をするかと思えば、怒涛のため込んだ鬱憤を一気に放出し始めたのだ──。


「僕は何百年もずっとつまんないんだよ────‼︎ カカシの二百年なんかの比じゃないぞ‼︎ 何か面白い事をしようと思ったら、ゲイエレットはあれも駄目これも駄目ってうるさいし! 大人しく城の中で暮らすのを強要するし! じゃあ人づてに面白い事をさせようと思ったら、僕の魔法は人を不幸にするだの、ペテン師だのと言われて、そもそもその道具を作る事すらずうっと前に禁止されたんだぞ──‼︎ この世界の何が楽しいんだよぉ────‼︎」


 こ、こいつ、情緒不安定か。いや、そんな事は前から分かってたのだが。


 と、ここまで一息に言い切ったところで、ぜぇはぁと喘ぎながらがくりと肩を落とすオズ。

 何というか、本当に。俺も人のことは言えないが──。


「ほんと、不器用だよな」

「──は⁉︎]


 ぎろりと俺を睨んだオズは直ぐに詰め寄ってきた。

「何笑ってるんだよ君は~~⁉︎]

「え? お、俺、笑ってたか?」

 自身の口角をなぞると、確かに顔が引きつっている。というより、腹の内からこみ上げるおかしな気持ちが、その指摘を受けてさらに笑いに変えてくる。


「あ、あはは! あ、何だ? 別に笑ってねぇ、ハハ!」

「めちゃくちゃ笑ってるじゃないか‼︎ 何だよ! 君ならちゃんと聞いてくれると思ったのに!」

「いや、聞いてる聞いてる! た、ただ」


 そう、ただ。


「や、なんだ。腹に据えかねてる事、本音ってやつかな。それを言ってくれたのが嬉しくてさ」

「人の不幸を聞いて嬉しがるとかどうかしてるんだけど」

 納得のいっていない顔で凝視するオズを見て、また吹き出しそうになるのを何とか堪える。


「あぁ、すまねぇ。だって、俺、お前がそうやって本音で喋ってる所聞くの、すげー好きなんだって気付いたから」

「す、好き?」

 目が点となるオズ。

 ──ん? 好きというと何か語弊があるような気がするが、ううん。そうとしか思えないからな。


「ま、とにかくだ」

 オズのか細い背を強くパンと叩いて、言った。


「俺はさ、後悔って生きてる限り絶対避けられないものだと思う。……間違わずに正解だけ選び取るとか、間違っても何も感じないなんて、そんなん無理だ!」

「……でもゲイエレットは後悔しないようにって言ってたよ」

「う、そう、だな。でもあえて言う! 結論、俺達には無理だった! ……だから、できるだけ、後悔してる時間がもったいねぇって、吹き飛ばせるように、なったら、いいんじゃないかって……」

「……何で肝心なところで自信無くなるんだよ! ……ねぇ、続きは? ……シロー?」


 急にぐらりと頭がふらつく。オズの背にかけていた手が、体が、重い。

 前からオズが力強く胸を押すが、びっくりするほどその感覚も遠くなっていく。

 ─あ、まずい。


「し、シロ……ぎゃあ⁉︎」

 

 ドサッ、と音がする。俺は、オズを容赦なく地面に押しつぶすように覆いかぶさった。


「何‼︎ 何なの⁉︎」

「あー……。すまん、オズ。ちょーねむい……」

「えぇ⁉︎ あ、……そうか、君、この時間に寝るんだ」

「当たり、前……ふぁ……。ほんと、マジで、お願いだから……家、出してくれ」

「う、うん……もう、しょうがないな!」


 思い切りオズに地面に転がされた感覚がしたが、それはとてつもなく鈍かった。

 ドスン、という地響きは、頼んだ通り、俺の家を出してくれた音だろうか。


 そこから目の前に広がるのは暗闇だ。意識がぷつりと途絶えた。

次回更新は 5/10(土)12:00 予定となります。

面白いと感じて頂けましたら、ブックマーク、高評価をよろしくお願い致します。とても励みになります!


***

X(旧Twitter) @ppp_123OZ

日常ツイ・進捗、更新報告等行っております。

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