─14 虹色のペンシル
「困ってる事……。っつーと、思いつくものとすりゃ、オレは、凄く忘れやすい」
「忘れやすい?」
オズは首を傾げた。
「オレは……次の日になりゃ、思い出っつーのはほぼ脳みそから消えちまうんだ。特に良い思い出は綺麗さっぱりと。ま、元々そんなモン無かったのかもしれねぇがよ」
「そりゃあんな所に吊るされてて、良い思い出ができるわけないだろうしね」
「……そのくせ、嫌な事は一生覚えてる。根に持つってやつかな」
カカシは言葉に一息置いて、周囲に居る一人一人に目線を繋げる。ゆっくりと、名残惜しそうに。
そして言葉を続けた。
「オレは、今日の事、忘れたくねぇんだ。しかし、まぁ、明日になりゃいつもの調子でぽっかり忘れちまうんだろうな。……それはもう、嫌なんだ」
言い終わると同時に、オズの体から光が立ち込めた。俺を含む周りの全員は、その光景に見入った。
その光はあの絵の具を包んでゆっくりとオズの右手から宙に浮いていく。
天井まで上る光。箱の形はぐにゃぐにゃと奇妙な動きをして形を変えていく。
突如ぷくりとシャボン玉のような虹色の膜になるや否や、一瞬でパチンとはじけた。
落下するものを、カカシがサッと掴み取る。
カカシは不思議な顔をしながら、部屋の明かりに透かして、キラキラと輝くそれを見た。
一本のペンだった。
色とりどりのガラスがねじ巻いてまっすぐな棒を形成している。
先程の絵の具はガラスペンとして生まれ変わったのだ。
「あとこれね、受け取って」
オズが差し出したのは一冊のノート。
更に意味不明といった表情で受け取りながら、今にも何か言いたそうにしているカカシの言葉を、オズは遮った。
「今日あった事をそれに全部書いておくんだ。そしたら次の日もちゃんと全部思い出せるでしょ? 君は人間じゃないから、多分眠くならない。だから夜の間に書き綴っていけば……。あ! そのノートはね! いくら書いてもページが無くならないようになっててぇ……」
「ま、待て待て!」
横で聞いていた俺でさえも途中から割って入ってやろうかとオズの矢継ぎ早の語りを、カカシはきちんと静止した。
「その、書くってのは何だ? オレはコレでどうしたらいい?」
「オズ……。そんないっぺんに喋ったら分かりにくいだろ」
「な、何だよシローまで。分かったよ、じゃあちゃんと教えてあげる。文字を書くんだよ! カカシ!」
オズは軽快にステップを踏んで玄関まで移動した後、カカシを手の平で呼んだ。
「来いってか。……本当に、訳分かんねぇ奴」
しぶしぶといった様子で後に続くカカシ。
おそらく今からオズによる読み書きの講習会が始まるんだろう。
とんでもなく話が進まなそうで不安だが……。これもオズなりの優しさってやつかな。ひとまずは見守るに徹するか。
外に出た二人を見送った後、俺はというと、ボック一家全員に信じられないものを見る目で注視されている事に気付き、びくりと肩が震えた。
「あ、あんた。さっきからずっと考えてたんだが、オズ様とはどういう関係なんだ?」
……当然。そう思って然るべきだよな。
と、俺は俺で話をしなきゃいけない状況になった訳だ。こっちも聞きたい事が色々あるから、いい機会だな。
まだまだ夜は終わりそうにない。
次回更新は 4/26(土)12:00 予定となります。
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