─12 夜の団欒
ぽつぽつと見える明かりは松明のようなものだろう。数にして三人。
その先頭が俺達に気付き、第一声を発した。
「んあ? なんだぁ? 見慣れねぇ顔の奴だなぁ」
「……でけー兄ちゃん達だぁ! どこから来たんだぁ?」
「最近の若いのはどんどんデカくなるなぁ~! おっ、そういやこないだ森の方の集落でぇ……」
俺達を話題に盛り上がる、見た目中年感漂う彼等は、この辺に住んでいるマンチキン達だろう。
そこで、後ろの居たカカシが会話を中断させる。
「ごちゃごちゃ言ってねーで中入れや。あと、お前ら二人も……」
「えぇ⁉︎」
驚愕の声が揃う。突然、巨大なカカシが横柄な態度で自分たちに語り掛け、指で合図してくるのだ。当然っちゃ当然か。
さっきまで饒舌だった彼らは言葉を失い、魚のようにぱくぱくと口を開け閉めしている。
カカシはというと、うんざりするように肩をすくめて「なぁ、ややこしいことになっちまった。何とかしてくれ」と、中に居るボック夫婦に応援を求めた。
「ややこしいも何も。みんな? あのカカシは魔法で動いてるんだよ。分かった?」
「ま、魔法……?」
オズはさも当然のように困惑する彼らに言うが、それを聞いても彼らは頭の疑問符が取れないまま、ぽかんとしていた。うーん。どこから説明すべきなのか……。
「こ、これ! 息子達、よく聞きなさい!」
ボックが中からそそくさと彼らの元に駆け寄る。息子だったらしい。
「お、親父ぃ! 何なんだこいつ等はぁ?」
「あのカカシ、畑の果てに立ってたカカシにそっくりだ……。ま、まさか、ついに降りてきたのかッ⁉︎」
「ひぃ! まじかよ! てことはこいつ等が縄を解いちまったのかよぉ! どうすんだよぉ!」
口々に慌てふためく彼等は、年を召したボックの肩を容赦なくガタガタと揺する。
──これには城に居た時と似たような雰囲気を感じる。マンチキン族は割と思い込みの激しいせっかちが多いらしい。
「どうもしねぇよォ‼︎」
「「「ヒィ────‼︎」」」
ドアの方から、聞き捨てならんといったようにカカシが怒号を上げると、三人の小人達は揃って震え上がった。それに加えて。
「馬鹿もんよく聞けぇい‼︎」
「「「ヒィ‼︎」」」
ボックも同じように声を荒げると、三人は一つにまとまったかのように小さくなった。
温厚そうな見た目でも、言う時は言うってのはまさしく父親って感じだな。
ボックはその後すぐに険しい表情から一変して、オズの元に腰を低くしてやってきた。
「申し訳ございませんオズ様……。息子達には今から説明を……」
「いいっていいって! ま、さっさと中に入ろうよ! ほら、シローも!」
「お、おう……」
腕を引っ張られつつ、また中へ……。三人のマンチキンは「お、おず……?」と呟いて、その場に凍り付いていた。
「お、おーい。びっくりするのも仕方ないけど、とりあえず中に……」
「はよぅ入らんか‼︎」
「「「は、ハイィィ‼︎」」」
慌ただしい彼らとの集会が始まった。
***
「オズ様……。本当にオズ様なのですか……」
「だからそうだって言ってるだろ」
部屋の真ん中にある大きな円卓に座るのは、俺とオズ、ボック。向かい側で、三人で一つの椅子に座ってるのかという具合に身を寄せ固まっているボックの三人の息子達は、緊張しながらもまじまじとオズに注目する。
そして俺の後ろには、壁に寄りかかって突っ立っているカカシ。椅子のサイズが流石に座るには無理があったらしい。
「……オズって、本当に皆に顔知られてないんだな。以前しっかり顔付き合わせたのって、もう何年くらいになるんだ?」
「……知らない。それこそ二百年とか、下手したら三百年は経ってるのかも?」
「魔法使いは年も数えられねぇらしいな」
横槍を入れてくるカカシを、オズは振り返ってジロリと睨む。
すっかりおとなしくなった息子の内一人が、そろりとオズに尋ねた。
「そ、そのオズ様、何ゆえうちの親父の家に?」
「ばっか野郎! うちの家宝の事に決まってんだろ!」
「あ、あぁ! あれか、魔法の絵の具! 昔触ろうとして親父にうんと叱られてなぁ!」
「……お前達」
「「「……」」」
静かな圧に推されてまた沈黙が訪れた。
コトコト、カタン──。台所の方で、手際良く食器を並べるボック夫人が居る。ふわりと漂う香りは、──料理!
俺は立ち上がり、夫人へ駆け寄る。びっくりした夫人は、声もなく、どうしたの? と首を傾げるので、「お手伝いします!」と、にこやかに返しておいた。
メインの大きな窯の中には、ぐつぐつと煮込まれたスープの中に、ゴロゴロとした具材が沢山入っている。
小柄な夫人が両手をいっぱいに広げて抱える程大きな籠には、山盛りの形様々なパンが積まれていた。
あぁ! やっとまともな食事にありつける! ずっと果物ばかりの生活が続くと思っていたところに、何という温かな至福!
……と、感動の余り、表情が緩んでいるのを夫人にバッチリ見られてしまったのに気付く。反射で照れていると、優しく微笑み返してくれるのだった。
「そんなに喜んでくれたのはもう何年振りかしらねぇ。ありがとうねぇ。さぁ、食べましょう」
「ありがとうございます!」
机に次々と並ぶ料理、フルーツバスケットも添えて、並々注いだミルク入りのカップが人数分置かれていく。
準備が整ったところで、ボックが言った。
「さて、今日は勿体無いくらいのお客さんが三人も! そして何と言っても、我らが誇る国王、オズ様がお目見えだ! こんなに本当に嬉しい事はない……!」
「ヨッ! オズ様万歳〜!」
オズはみんなの反応に合わせて笑ったり、相槌を打ったりしているが、どことなく気まずさがぬぐえないようなそぶりを見せていた。
それからは各々好きな料理を取り分けたり、周りとの会話が増える。
オズの目の前には、皿に目一杯の料理が盛れるだけ盛られ、王がいざ食べるところを、家族一同キラキラした表情で覗いている。
食に興味の無いオズ。かと言って民の気遣いを無碍にするのはいかがなものかと思ったのだろう。スプーンで一口、二口と食べ進めて、にこりと笑みを浮かべると、一同はワッと喜んで肩を抱き合った。
「さっきから一体全体こりゃ何なんだ?」
「あ、そうか。カカシは食えないよな」
不思議そうに机の上のものを覗き込むカカシが、俺のすぐ側に来ていた。
そうか。今まで見た事無いか。
「これは、食べ物だな。人間はこうやって、飯を食わなきゃ生活できないんだ」
言いながら、スープに浸したパンを口に放り込む。うぅん! 絶品!
「ふぅん……。コレがそうか。……こりゃ、オレは確かに必要ねぇなぁ。……しかし」
深く考え込むように、口に手をやるカカシ。
──見れば見る程不思議だ。絵の具で描かれた簡単な顔は、カカシの感情に合わせてとても滑らかで細かく表情を変える。
「二百年必要無かったなら、そうなるよな。……もしかして、食べてみたいのか?」
カカシにそう尋ねると、隣のオズが反応して俺達の会話をじっと聞くそぶりを見せた。
カカシはしばらく黙り込んだ後、うん、と頷き答えた。
「いや、別に今更要らねぇよ。……ただ、こういう場は、そうだな。横で見てるだけでも……楽しい、から、良いな」
目の前の人間達が、楽しく笑い合い、温かな食事を囲んでいる。ただじっと物を観察していたんじゃなくて、カカシはこの団欒に入った自分を俯瞰で見ていたようだ。
ニカリと笑いながら、カカシはまた壁際の定位置に戻っていった。
次回更新は 4/12(土)12:00 予定となります。
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